目が覚めると……【5】
その後、汽車が駅に停車すると、アリーシャはカリーダに促される形で乗車した。
車内は四人掛けのボックス席が並んでおり、既にほとんどの席が埋まっていた。
楽しそうに酒を飲み、飲食する者や煙草を吸いながら新聞を読む者もいれば、労働者階級と思しき若い夫婦が泣き続ける赤ん坊をあやし、そんな赤ん坊の泣き声に顔を顰めている中年の男もいた。
カリーダが値段の安価な自由席を取ったとのことだったので、アリーシャたちは空いている席を探して座ったのだった。
しかし汽車が走り出してすぐにアリーシャは先程の気持ち悪さが戻ってきてしまい、再び手洗いに駆け込む羽目になってしまった。
車内に充満する食べ物や煙草の臭いが合わなかったのかもしれない。
そんなアリーシャを心配して、手洗いの前まで追いかけてきたカリーダに、老爺の車で目が覚めてからずっと気分が悪いことを打ち明けて、席に戻ろうとした。
カリーダは顔を青くすると、すぐに車内を巡回していた車掌に声を掛け、硬貨を支払うと、別の車両にある富裕層が利用する指定席の内、空席だった四人掛けボックス席の窓際席にアリーシャを連れて行ったのだった。
「すみません。席を替えて頂いて……」
先程まで座っていた自由席の固く狭い座席ではなく、ゆったりとした広さのある柔らかな座席に座ると、アリーシャは小声で謝る。
荷物棚にカバンを置くなり、頭を下げる。
「とんでもございません。こちらこそ、申し訳ありません。お嬢様の体調を憂慮しておらず、あの様な席をご用意してしまいました」
「い、いいえ。私も言わなかったので……。それよりこの席に変えた時、車掌さんにお金を支払っていましたよね。余計な出費をさせてしまいました。すみません……」
「謝罪は不要です。先程の車掌に支払ったのはこの席に変更した際に発生する差額分です。さほど高額でもありません。あの座席の切符を購入したのも、全ては私の判断です。お嬢様には静かなこの座席より、人並みを感じられるあの座席が良いかと判断しました」
「そうですか……」
立ったまま話すと悪目立ちすると思ったのか、カリーダはアリーシャに断って対面に座ると、心配そうな視線を向けてくる。
「それよりお嬢様。屋敷に戻ったら、すぐに屋敷専属の医師に診察してもらいましょう。いつ頃から体調不良が続いているんですか?」
「それは……」
そこでアリーシャは言い淀む。
海に行った直後は、熱があり、酷い倦怠感や吐き気があったが、よくよく考えると、オルキデアに連れられて海に行く前ーーお祭りの後から、身体が疲れやすくなり、倦怠感を感じるようになった。
熱が下がった後も、倦怠感や吐き気があったが、季節の変わり目なのと緊張感が無くなって安心したことで、体調を崩したのかと思っていた。
だが、それにしては長引き過ぎているような気がした。
「お嬢様?」
カリーダが訝しむような視線を向けてきたので、アリーシャは慌てて首を振る。
「少し前からだと思います。最近、風邪を引いたので、それが長引いているだけです。医師に診せなくても大丈夫です」
「ですが……」
「本当に大丈夫です。屋敷に戻ったら休みます。そうしたら良くなると思うので」
「そうですか。風邪を引かれるとは、慣れない環境での生活に、身体が堪えたのでしょうか。辛い思いもされたことでしょう……」
「いいえ。そんなことはありません! 私の不摂生が原因です。きっと!」