目が覚めると……【3】
それから、アリーシャを乗せた車は、しばらく走った後、とある大きな駅の前で停められる。
「着いたよ。お嬢さん」
「ここは……?」
「シュタルクヘルトの北部で一番大きな駅だよ」
シュタルクヘルトの駅や汽車を見たのは、これが始めてだった。
煉瓦造りの大きな駅には何本もの列車が吸い込まれる様に入っていき、また何本もの汽車がそれぞれの目的地に向かって出て行った。
「お迎えの人は駅の前で待っているそうだね。早く行ってあげなさい」
老爺は車の扉を開けながら、そう声を掛けてくれるが、アリーシャは未だにシュタルクヘルトに帰って来たのが信じられなかった。
おずおずと車を降りて、仕方がなく駅に向かって歩いたところで、とある一点に目が留まる。
(あの人は……)
駅前に並べられたいくつものベンチの一席、そこに背筋を伸ばして座る年配の男性が居た。
皺一つないスーツと頭に撫でつけた白髪、しばらく会わない間に顔には皺が増えて、更に年老いた様に見えた。
老爺と同い歳くらいの白髪の男性は、アリーシャの姿に気がつくと、早足で近づいてきたのだった。
「アリサお嬢様」
捨てたはずの名前を呼ばれて、身体中が震える。スカートを押さえていた両手を握りしめると、ぐっと顔を上げる。
「カリーダさん……」
久しぶりに呼んだアリーシャ付き執事の名前はか細く、震えていた。
カリーダは安堵したのか小さく笑みを浮かべると、頭を下げたのだった。
「ご無事で安堵しました」
「どうして、カリーダさんがここに……?」
「その話は列車の中でいたしましょう。さあ、切符は既にご用意しています。じきに私達が乗車する汽車も駅に到着します」
「どこに行くんですか……?」
「シュタルクヘルトの首都にある屋敷に戻ります。旦那様もお待ちです」
カリーダの言う「旦那様」に背筋が冷たくなる。
カリーダがアリーシャの背後に視線を移すと軽く頭を下げたので、アリーシャも視線の先を追う。
そこにはここまでアリーシャを連れて来てくれた老爺が、軽く頭を下げていたのだった。
「お迎えの人と会えたようだね。じゃあ、依頼完了ということで、儂はこれで……」
「お嬢様をありがとうございました」
老爺は持っていたカバンをカリーダに渡すと、そのまま車に戻ろうとしたので、アリーシャは慌てて老爺の後を追いかける。
「待って下さい! 私、まだ何も知らない! 納得もしていない……!」
「アリサお嬢様」
カリーダに名前を呼ばれて、アリーシャの足が止まってしまう。
「その説明は私からします。事情は聞き及んでおります」
「でも……」
そうしている間に、老爺は車に乗り込むと、あっという間に走り去って行ったのだった。
「そ、そんな……」
真っ青になったアリーシャがその場に座り込みそうになると、すかさずカリーダに腕を掴まれる。