愛妻の帰還と新たな出会い【3】
「セシリア、その子供は……」
言いかけたオルキデアの目の前で、セシリアから赤ん坊を受け取ったアリーシャが慣れた手つきであやしだす。
「ごめんね。慣れない場所で一人にして……もう大丈夫よ……」
そう言って、アリーシャは赤ん坊に頬を寄せると優しく抱きしめる。
その姿はまるで親子のようだと、オルキデアは思ったのだった。
「アリーシャ、もしかして、その子供が俺に会わせたいという……」
そこまで言いかけたところで、促されるようにクシャースラに背中を押される。
何をするのかと振り返って問おうとすれば、いつも以上に力強い灰色の眼差しを向けられる。
まるで、覚悟を決めろと言うかの様にーー。
アリーシャに近づいて行くと、腕の中で泣き続ける赤ん坊をよく観察する。
どこかで見たようなダークブラウンの髪が薄らと生えているが、顔形や目鼻立ちはやはりアリーシャによく似ていた。
「オルキデア様」
アリーシャのどこか不安そうな声に、オルキデアまでもが不安になってくる。
「そうです……。この子が貴方に会わせたかった人です」
アリーシャは赤ん坊をあやしながら、また泣きそうな顔になる。
「本当はもっと早くここに帰って来たかったんです。でも、どうしても帰って来られない理由があって……」
「その子供は、一体……」
そこまで言ったところで、ようやく赤ん坊が泣き止む。
泣き跡が残る顔で、赤ん坊はオルキデアを伺うようにじっと見つめてくる。
曇りのなく真っ直ぐに見つめてくるその瞳は綺麗な菫色だった。
愛しの妻とーーアリーシャと、同じ色だった。
「この子は私たちの子供です。……私と貴方の」
オルキデアの中に言葉に出来ない激情が込み上げてくる。
頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなった。
何度か赤ん坊とアリーシャを交互に見た後、ようやく口を開く。
「俺と……お前の……子供……なのか……」
途切れ途切れになりながらも、どうにかして言葉を捻り出す。
アリーシャは大きく頷くと俯いてしまう。
「ごめんなさい……。私、オルキデア様に黙っていたことがあって……」
「何を……黙っていたんだ?」
「二人で海に行って風邪を引いた後、本当はずっと具合が悪かったんです。でも心配を掛けさせたくないから黙っていて……。我慢しないで、その時に言えば良かったんです。そうしたら、病院に連れて行ってもらえて、妊娠していることがわかったから……そうしたら離れ離れにならなかったかもしれないのにって……」
「ずっと具合が悪かったのは、もしかして腹の中に子供がいたからで……」
覚悟を決めたのか、アリーシャは顔を上げて赤ん坊を抱き直すと神妙な顔になる。
これまで見たことがないアリーシャの真剣な表情に、オルキデアは息を呑んだのであった。
「今度はちゃんとお話しします。オルキデア様が謀叛の疑いを掛けられて、屋敷に帰って来なくなってから、クシャースラさんと出会って、この国に戻ってくるまでのことを……」
そうして、アリーシャは語り出したのだったーー。