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愛妻の帰還と新たな出会い【1】

 アリーシャと過ごした日々を追懐していたオルキデアだったが、腕の中で身動ぎした藤色に釣られて、意識が浮上してくる。


「ううっ……」


 この一年間、愛する人がいない事実に目を向けたくなくて、思い出の中で生きていた。

 自分で選んだこととはいえ、ずっと後悔し、嘆いていさえいたオルキデアの腕の中に、今、失ったと思っていた愛する人がいる。

 一度だって忘れなかった温もりを感じ、藤色の髪からは甘い香りさえする。

 幻でもなんでもないオルキデアの愛した女性は、今尚、オルキデアの腕の中で涙を流し続けていたのだった。


「ぐすっ……ふぇ……」


 最初こそ、声を上げて泣いていたが、オルキデアが背中をさすっている内に、だんだん落ち着いてきたようだった。

 今は嗚咽だけを漏らしていたのだった。


「アリーシャ……」


 オルキデアが声を掛けると、アリーシャは聞いてるというように小さく頷く。

 オルキデアにギュッとしがみついて、ただただアリーシャは涙を溢していたのだった。


「もう泣くな」

「だっでぇ……ようやぐ会えだのが、ゔれじぐでぇ……」


 鼻を鳴らすアリーシャの頭を抱き寄せる。この懐かしい感じ、オルキデアは一度だって忘れなかった。


「何もお別れ出来なぐで……目が覚めたらシュタルグヘルドで……すぐに戻りだがったのに、戻れなぐで……」

「黙って帰してすまない。あの時はそれが最善だと思ったんだ」


 ようやくアリーシャは落ち着いたのか、オルキデアから身体を離す。

 一年振りに見た最愛の女性は、最後に見た時よりも、顔や身体が丸みを帯びて、女性らしさが増していた。

 それでも、初めて会った国境沿いで会った時のように、若干、頬が痩け、胸が張っているように見えるのは、離れていた間の苦労の証だろうか。


 オルキデアの視線に気づいたのか、アリーシャは小さく苦笑すると涙を拭いた。


「あまり擦るな。赤くなるぞ」


 出会ったばかりの頃もそんな会話をしたと思いつつ、ポケットを漁るがハンカチは入っていなかった。

 ありとあらゆるポケットを探し、周囲も見渡したが、ハンカチやタオル類が見当たらなかったので、とりあえず着ていたシャツの袖で拭いてやる。

 痛そうに顔をしかめていたアリーシャだったが、顔を上げると何かに気づいたように瞬きを繰り返す。

 袖を引っ込めると、オルキデアの肩に手を掛けながら、ダークブラウンの髪に触れてきたのだった。


「髪、切ったんですね」


 アリーシャと別れた直後に切った髪は、わずかばかりだが伸びていた。前髪は眉の下まで伸び、耳に掛かっていた。肩近くまで伸びるのはまだまだ先だが、それも時間の問題だろう。

 愛おしむように撫でてくるアリーシャに、こそばゆい気持ちになる。


「気分を変えたくてな……あまり意味は無かったが」

「さらさらで綺麗だったのに……ちょっと勿体ないです」

「髪なんてまたすぐ伸びるさ。そう言うお前は以前より痩せたか? 前よりも細い気がするな。……シュタルクヘルト家(あの家)で満足に食べさせてもらえなかったのか?」

「それは……まあ……」


 何か言いづらそうに、アリーシャは俯く。やはり、相当苦労したのだろうか。

 そんなアリーシャに罪悪感を抱きながらも、柔肌の両頬に手を添える。

 愛妻の頬を包むと、そっと顔を覗き込む。


「以前に比べて、女性らしい顔つきや身体つきにはなったが、頬も痩けたのか……? 体調はもう大丈夫なのか? あの時、具合が悪そうにしていただろう?」

「あの、オルキデア様」


 何かを決意したのか、アリーシャは顔を上げる。


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