不審な手紙と不穏な影【5】
「ところで、アリーシャ」
愛妻がコップに注いでくれた水を飲みながら、オルキデアは気になっていたことを尋ねる。
「屋敷にゴミを投げ入れられるようになったと言っていたな。いつからだ?」
「え……っと。多分、二日前から? 昨日の朝には投げ込まれていたので、おそらく二日前の夜ではないかと」
「そうか……」
どうやら屋敷へのゴミの不法投棄も、あの不審な手紙が関係しているらしい。
治安部隊の仕業なのか、それとも愛国心の強い何者かによる仕業なのか。
(このまま、アリーシャを一人きりにしておくのは不安だな)
取り調べが再開されれば、また数日間は屋敷に帰れないだろう。
何が起こるかわからない屋敷に、アリーシャを一人残すのは心配だった。
「アリーシャ。やはりお前は、セシリアかコーンウォール家に身を寄せた方がいい。ゴミを投げ入れられて、窓ガラスや植木鉢も割られて、嫌な思いをしてばかりだろう」
オルキデアの申し出に、藤色の頭をふるふると降った。
「ゴミを投げ入れられるだけなので、あまり気にしてないです。カラスの仕業かもしれませんし、誰かがイタズラでやっているのかもしれません。窓ガラスや植木鉢だって……」
「だが、いつかお前が怪我をするかもしれないぞ」
「そうなったら考えます。でも、今は大丈夫です!」
「でもな……」
「なんとなく。今のオルキデア様を一人にさせたくないんです。言葉では言い表せないんですが……」
「そうか……」
目を伏せるアリーシャにどう声を掛けようか悩む間も無く、遠くから警察車両が鳴らすサイレンが聞こえてきた。
「もう来たのか。お前は屋敷内に居ろ。なるべく外から見えない場所に」
「はい……」
オルキデアは水を飲み干すと、屋敷に近づいて来る警察車両を出迎えに席を立ったのだった。