表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
290/347

謀反の疑い【6】

 オルキデアに掴まれた襟元を直しながら、取り調べを担当していた兵が、「誰だ?」と低い声で尋ねたのだった。


「わたしは、ジョナサン・ペテルギウス大将です。部下であるワイアッド・プロキオン中将から、ここに中将の部下であるオルキデア・アシャ・ラナンキュラス少将が留置されていると聞いてやって来ました」

「目的は?」

「此度の件について、ラナンキュラス少将から詳細な話を聞きたい。

 謹慎処分になる前に少し話しをさせてもらえませんか?」


 物腰は穏やかながら、けれども有無を言わせぬ口調には力強さがあった。

 オルキデアに近づいてこようとするペテルギウスを、ようやく我に返った治安部隊が引き留めたのだった。


「大将といえども、面会許可なく近づくことは許せません」

「許可ならあります。二日前に申請した許可証がなかなか下りなかったので、先程、直接取りに伺ったところです」


 ペテルギウスが部下に目で示すと、心得たというように部下の一人が、治安部隊長のサイン入りの許可証を広げる。

 苦虫を噛み潰したような顔で室内に佇む治安部隊たちに向けて、堂々と見せつけたのだった。


「しかし、少将は治安部隊員に暴行を加えた。公務執行妨害で、すぐにでも逮捕する必要がある……」

「その件についても伝達があります。本人には厳重注意で済ませるようにと。わたしから伝えましょう」

「……随分と、用意がいいんだな」

「外まで声が漏れていたので」


 歯軋りをしながら、「あいわかった」と兵は立ち上がったのだった。


「監視として、兵を残していく。逃亡しないとは限らないからな……」

「その必要はありません」


 断言したペテルギウスを、疑うような眼差しで兵が睨みつける。


「わたしとわたしの部下たちがいます。彼が逃亡を図っても、必ずや捕縛出来るでしょう」

「だが……」

「もっとも、彼には逃亡する意思はないようですが。そうじゃなければ、今頃、わたしが話している間にもここから出ていることでしょう」


 ペテルギウスが来てから、取り調べ室の扉は開いたままだった。

 もし、オルキデアに逃亡する意思があれば、今頃、ここから逃げていたはずだ。

 そう、言いたいのだろう。


「それに、これ以上、彼を留置していていいんですか。上層部に知られたら、どうなる事か……」

「もういい。連れて行け! ただし、また数日後に取り調べをさせてもらう。今度は奥方もだ!」

「アリ……妻もか?」

「貴官がしらばっくれているようだからな。奥方なら何か知っているだろうと、考えた末の判断だ。数日後に、奥方共々迎えに行く。それまで大人しくしている事だな」

「貴様! まだ侮辱して……」

「ラナンキュラス少将」


 怒り心頭に発するオルキデアをペテルギウスは窘めると、部下にオルキデアの両脇を固めるように指示した。


「それではこれで失礼します。ラナンキュラス少将は、こちらで家まで送り届けましょう。当然、逃亡をしないように監視をします」


「では」と、ペテルギウスは外方(そっぽ)を向いた兵に浅く一礼をすると、取り調べ室を後にした。

 ペテルギウスの部下に両脇を固められて、オルキデアも取り調べ室から連れ出されたのだった。


「ラナンキュラス少将」


 前を歩くペテルギウスに声を掛けられる。


「一度、貴官の執務室に戻ります」

「執務室に……?」

「その姿で、奥方の元に帰るつもりですか」


 廊下の窓に映った自分を見ると、取り調べ中に乱暴に掴まれたダークブラウンの髪はボサボサに乱れ、先程殴られた口の端には、血がこびり付いており、顎には無精ひげが生えていた。

 シャツには汚れと破れがあり、どことなく鼻が曲がるような臭いがしていた。

 あまりに悲惨な自分の姿に、オルキデアは言葉を失ったのだった。


「どうしますか、ラナンキュラス少将?」

「……執務室に戻ります」


 ペテルギウスの言葉に、オルキデアは素直に従ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ