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風邪【3】

「……それから、オーキッド坊ちゃん。屋敷の薬箱に入っていた飲み薬は、全て使用期限が過ぎていたので処分しました。必要な飲み薬があれば教えて下さい。買ってきます」


 屋敷の用意に関する話を電話で聞いた時、薬箱に入っていた飲み薬について、マルテに言われていたのだった。


「いや。必要になったらこっちで用意する。大丈夫だ」


 その時は、どうせ長期間滞在するつもりはないから必要ないだろうと、高を括っていた。

 見ている限り、アリーシャも体力はあるようで、風邪など滅多に引かないだろうと。


「すっかり忘れていた……」


 迂闊だった。新婚旅行先を海に決めた時にーーいや、アリーシャと正式に結婚すると決めた時に、用意しておくべきだった。

 アリーシャと結婚した以上、今後はこの屋敷で暮らす事になる。

 もう、執務室を住処とする様な生活はしないだろう。

 生活の拠点をこの屋敷に移した際に、屋敷内の備品をよく確認しておくべきだった。

 不足している物は無いか、買い足すものは無いか、気を配るべきだったが、それをすっかり怠っていた。

 これはオルキデアの落ち度としか言いようがなかった。


 時計を見ると、昼過ぎになっていた。

 今から買いに行けば、充分間に合うだろう。


 出掛け支度をすると、アリーシャの部屋に顔を出す。

 先程と変わらず、アリーシャはすやすやと眠っていた。

 しばらく起きる気配はなさそうだが、また不安がるといけないので、念の為、電話機の側に書き置きを残しておく。

 体調が悪化したら、オルキデアの携帯電話に連絡を寄越すようにと付け加えて。

 そうして、オルキデアは屋敷を出ると、足早に買い物に出掛けたのだった。


 下町の薬屋で風邪薬を買い、その近くの市場で食材を購入すると、オルキデアはすぐに屋敷に戻ろうとした。

 しかし、後ろから「オルキデア!」と聞き覚えのある声に呼び止められたのだった。

 

「こんなところで会うとは偶然だな」

「クシャースラとセシリアか」


 片手を上げるクシャースラと、「こんにちは。オーキッド様」と、小さく頭を下げるセシリアの親友夫婦に、オルキデアは近づく。


「珍しいな。こんな昼間に」

「おれが非番だから、仕事終わりのセシリアを迎えに来たんだ。で、今はその帰り」

「せっかくなので、どこかで昼食を食べようかと話していたところです」

「そうか……」


 言われてみれば、クシャースラは私服姿で、セシリアは仕事帰りなのか荷物を持っていた。

 辺りを探しながら、クシャースラは口を開いた。


「アリーシャ嬢はどうした? 昼食がまだなら、お前さんたちも一緒にどうだ?」

「せっかくだが、アリーシャが風邪で寝込んでいてな。屋敷に帰らなければならない」

「えっ!? アリーシャさんが風邪を引いたんですか!?」


 セシリアは大仰に驚くと、「熱は? 具合は? 薬は飲みましたか? 食力はありますか?」と詰め寄って来たのだった。

「落ち着け、セシリア」と、その肩を親友が掴んで引き止めたのだった。


「熱は多少あるが、それ以外はなんともなさそうだ。薬は……切らしていたから、今買ったところだ。食欲は聞いてみないとわからないな」

「病院には連れて行ったのか?」


 オルキデアは首を振る。


「いや。アリーシャには身分証がない。普通の病院では診てもらえないんだ」


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