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海とオーキッド色のお礼【6】

「この花は?」

「あ〜。特に何かの花ではないんです。本当はオルキデア様に縁のある花にしたかったんですが、私の技術ではまだそれが限界で……」


 五枚の薄紫色の花びらを持つ、可愛いらしい大小二つの花が、そっけないイニシャルを華やかにさせていた。

 そんな花を指先でなぞると、自然と口元が緩んだ。


「これでも最高だ。数ある豪華な花の刺繍に、勝るとも劣らない可憐な花だ」

「そんな事は無いと思います……。ハンカチなら普段から身につけられますし、いざという時に応急処置にも使えるから、いいかと思って」

「勿体なくて使えないな。応急処置にはその辺の布切れを使うさ。

 この花びらに使われている紫色は、あまり見ない色だな……。珍しい色なのか」

「その糸の色、オーキッド色っていう名前らしいです」


 優しい薄紫色の花の刺繍から視線を移すと、アリーシャと目が合う。


「セシリアさんと行った手芸屋さんで見つけました。名前を聞いて、オルキデア様の色だと思ったので」

「そんな色があるんだな。知らなかった」

「男女問わず人気な色らしいです。店頭に並べているとすぐに売れてしまうとか」

「よく入手出来たな」

「たまたま入荷したばかりだったそうです。私の足のマニキュアも同じ色なんですよ」


 言われてアリーシャの爪先に視線を移すと、確かに同じ色であった。


「オーキッド色の話を知って、ますます紫色が好きになりました。昔は見るのも嫌だったのに」

「俺もこれからは好きになれそうだ。お前を思い出せるからな」

「私も、オーキッド色が一番好きな色になりそうです」


 二人で顔を見合わせて笑い合う。

 寒くなってきたのか、ソックスとショートブーツを履くアリーシャを眺めながら、オーキッドはハンカチを宝物の様に丁寧に畳むと胸ポケットに仕舞う。


 これまで、オーキッドと呼ばれるのが嫌でたまらなかった。

 呼ばれる度に、母や父を思い出して、胸が苦しくなっていた。

 けれども、面会室のガラス越しにティシュトリアと向き合ったからか、オーキッド色の話を聞いたからか、以前より苦しくなかった。

 これも全て、傍らに座る最愛の妻のおかげでーー。


「もう帰るか? 潮風が寒いだろう」

「まだです! まだ、砂でお城を作ってないです!」


 アリーシャはシートの上から立ち上がると、少し離れた場所に膝をつく。

 スカートや手が汚れるのも気にせずに、さらさらの砂をかき集めていた。


「これから作るのか?」

「一度でいいから、砂のお城を作ってみたかったんです!」

「夏でいいんじゃないか?」

「夏にもまた作ります!」


 素手で砂を集めて城を作ろうとするが、水分が足りず、砂は固まらなかった。

 仕方なく、オルキデアは波打ち際に近い場所までアリーシャを連れて来ると、膝をついて湿った土を集める。

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