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弁当【12】

「すまない。お前の様子に気づかなかった。慣れないながらも、家事をやってくれていたんだな。これからはもっと手伝う」


 夫であるオルキデアに相応しい妻になるべく、アリーシャはこれまで慣れないながらも屋敷についてやってくれていた。

 努力していることも知らず、アリーシャの負担になるからと、気を遣って何も言わなかった。

 それがかえって、彼女を傷つけ、思い詰める結果となってしまった。

 もっとアリーシャの様子を見ていたら、気づけていただろう。それが悔やまれてならない。


「だから、お前も我慢しないで、もっと言ってくれ。俺が気づかない時は怒ってくれ」


 もしかして、昨日の物言いたげな様子は、弁当の存在自体を言わなかった事に対して訴えていたのだろう。

 休暇明けで忙しく、疲れていたとはいえ、もう少し考えればわかったものの、すっかり見落としていた。


「結婚する前から言っていただろう。なんでも遠慮なく話して欲しいと。お前の本当の気持ちが知りたいんだ」

「怒っても……いいんですか……?」

「お前の気持ちを知れるなら、いくらでも、どんな怒りも甘んじて受けよう。どうも俺は自分の妻には甘いらしい。他の奴に怒られたら逆上するが」


「そ、そうなんですか……」と、アリーシャは苦笑していた。

 自分に向けられる怒りが、必ずしも常に正しいとは限らない。

 その間違った怒りを向けられた時は、しばしば「静かに」逆上してしまう。

 この悪癖だけはどうにかして直したい。


「その代わり、お前でも非人道的なことをしたら怒るからな」

「非人道的なことって、犯罪とかですよね……。そんなこと、しません……」

「ああ。俺の愛しの妻は、そんなことはしないと信じているからな。もしもの話だ」

「オルキデア様……」


 オルキデアの愛しの妻は、そっとはにかむ様な笑みを浮かべる。

 それでこそ、オルキデアが愛する妻のーーアリーシャの姿だった。


「そんな愛しの妻が作る夕食が楽しみだ。今夜は何だ?」

「今夜は冷えると聞いたので、ポトフを用意しました。グラタンも。……少し焦がしちゃいましたが」

「ポトフにグラタンか……久々に食べるな。楽しみだ」


 小さく笑ったアリーシャの額に口づけを落とすと、そっと背を向ける。

 部屋に戻りながら、ふと思い出して振り向くと、愛妻は熱に浮かされたようにほんのり頬を染めていた。


「明日も楽しみにしている」


 何とは言わなかったが、アリーシャには通じたようだった。

 顔を輝かせたかと思うと、「はい!」と笑顔を浮かべた。

 泣き笑い顔の愛妻を愛おしく思いながら、部屋に戻ったのだった。


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