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弁当【8】

「この時間に来たということは、昼食の誘いか」

「そうだ。たまには一緒にどうかと思ってな」

「悪いな。おれは今日もこれなんだよ」


 自慢げに執務机の上から持ち上げたのは、昨日と同じ包みであったーーどうやら、今日は忘れずに持ってきたらしい。

 無論、それも計算済みだった。

 鼻で笑うと、「奇遇だな」と返す。


「実は俺も同じだ」


 機密文書の様に大切に抱えていた黒い布包みを持ち上げると、クシャースラは嘆息したのだった。


「……なんだ、愛妻弁当を自慢しにきたのか」

「それ、これまで散々やってきたお前が言えるのか?」

「自慢しても怒らないのがお前さんくらいだからな。……他の兵、特に結婚してない奴の前ですると、大変な目に遭う」


 実際に経験したのか、親友は目を逸らすと力なく笑ったのだった。


 せっかくなので、そのままクシャースラの執務室で昼食をいただくことにする。

 応接テーブルの書類と本の山を整理して、二人分のスペースを確保すると、二人は腰を下ろす。


 コーヒーを配ると、黒い布包みを解く。中からは銀に光る真新しい弁当箱が出てきた。

 弁当箱は屋敷にないので、きっと買いに行ったのだろう。

 弁当箱を選ぶアリーシャの姿が思い浮かび、また笑みを浮かべてしまう。


「お前さん、さっきからずっと笑っているな」

「そうか?」

「顔が緩んだままだ。まさか、午前中はその顔でずっと仕事してたのか?」


 口元に触れると確かに緩んでいたようだ。

 言われてみれば、アルフェラッツもラカイユも何か言いたげだった。

 ここに来るまでにすれ違った兵たちもまた同じ。

 気づかないうちに、顔が緩んでいたのだろうか。

 そんな半日を思い返して、「そうかもしれん」と納得せざるを得なかった。


「上機嫌なのは悪いことではないが……。まあ、いいか。あのラナンキュラス少将も愛妻弁当で喜ぶ様な男だってわかって」


 うんうんと頷く親友を無視して弁当箱の蓋を開ける。

 食べようとしたところで、隣の弁当箱が目に留まる。

 厳密には、弁当箱の中身だったがーー。


「おい、クシャースラ……」

「ああ、お前も気づいたか……」


 弁当箱のサイズや配置こそは違うが、中身を見比べた二人の声は自然と揃う。


「全く、同じ中身……」


 中に入っているおかずからサンドイッチの具材まで、二人の弁当は同じ中身であった。

 クシャースラは大きく溜め息をついたのだった。


「……どういうことだ。子供の弁当じゃあるまいし、二人揃って同じものなんて……」

「それはこっちの台詞だ。あの二人、一緒に作ったのか?」

「いや、今朝はいつも通りだったぞ。昨日も会ってないんじゃないか。

 昨日は花屋の仕事が休みだったから、夕方過ぎまで学友と遊んで来て……。いや、待てよ」


 何かに気づいたのか、クシャースラは思い出そうとする。


「そういや、昨日の夜、仕事から帰ったらセシリアがずっと電話していたな。そこそこ遅い時間帯に珍しく長電話をしていたから、お義母(かあ)さんと話しているのかと思ったが……」

「それなら、電話の相手はうちのアリーシャじゃないか。長々と電話しているから、押し売りの電話かと、相手を聞いたら、『セシリア』って答えたからな」


 メモの傍ら、「セシリア」と手書きで教えられたのを思い出す。

 その際にメモしていたのは、何かのレシピのようだったがーー。


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