弁当【4】
「クシャースラ」
軍部についたオルキデアは、仕事を始める前に真っ先に親友の執務室を訪ねていた。
「お〜。おはようさん。今日からだったんだな」
「そんな呑気に挨拶をしている場合か。セシリアから忘れ物を預かってきた」
執務机でシュタルクヘルトの新聞を読んでいたクシャースラだったが、オルキデアが片手で持つ包みを見て、慌てて飛んできたのだった。
「あ〜。悪いな。頼んじまって」
「その言葉は俺じゃなくて、セシリアに言え。……お前は弁当だったのか」
「たまに作ってくれるんだよ。時間に余裕がある時に。そういうお前さんは? アリーシャ嬢のお手製弁当か?」
「いや。アリーシャには弁当の存在自体を伝えていない」
「なんで、また……」
「……弁当の存在を忘れていた」
軍部に来るまで、クシャースラの弁当を見ていて思い出したことがあった。
ーーこれまで、アリーシャに弁当の存在を伝えていなかったということを。
目を逸らして答えると、クシャースラは大きな溜め息を吐いたのだった。
「お前なあ……」
「忘れていたのもあるし、これ以上、弁当作りという負担まで、アリーシャに掛けさせたくない。ただでさえ、屋敷のことを全部やってくれているんだ。少しは気遣わなくてはな」
「……あっちは、そう思っていないかもしれないぞ」
クシャースラが呟いた言葉に「どういうことだ?」と尋ねるが、親友は片手を振っただけであった。
「それは自分でアリーシャ嬢に聞いてくれ。じゃあな。届けてくれてありがとう」
締め出されるようにして執務室から出たオルキデアは、首を傾げつつも自分の執務室に戻った。
その日は休暇中に溜まりに溜まった書類仕事に忙殺して、クシャースラが言った意味を考える余裕さえなかったのだった。