表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
248/347

報告【10】

「そういや、休暇っていつまでだ?」

「来週までだな。仕事が溜まっているから、一度、軍部で仕事して、また取ろうと思う」

「今度は何をするんだ?」

「旅行だ。まだ行ってなかったからな」

「旅行……ああ、新婚旅行か」


 合点がいったという顔をするクシャースラに対して、「まあ今度は、これまでより日数は取れないと思うが……」と肩を落としたのだった。


 ペルフェクトで生きていく以上、アリーシャにはこの国について、もっと知ってもらう必要がある。

 ペルフェクトがどういう国で、どんな人がいて、どんな場所があって、どんな文化があるのか。

 アリーシャ自身もあまり外出したことがないらしいので、あちこち連れて行って見聞を広めるのもいいだろう。

 彼女にはもっとこの国を知って欲しかった。オルキデアが生まれ育ったこの国をーー。


「……アリーシャのいない軍部に戻るのか」


 はあ、と溜め息をつくと、クシャースラは肩を竦める。


「そこまで落ち込むことなのか?」

「これまで、出会ってからずっと、アリーシャと一緒に居たんだ。

 執務室に同棲して、部屋の片付けをしてくれて、掃除もしてくれて……」

「そうだったな」


 納得するクシャースラに、「それだけじゃない」とかぶりを振る。


「もし、俺が不在の間に、アリーシャの身に何かあったらどうする? 怪我をしたら? 誘拐されたら? 急に倒れたら? 一人きりにしていいのか……!?」

「おい、オルキデア……」

「押し売りに怪しい壺を買わされたら? 買い物に行って迷子になったら? 電車やバスの乗り方や降り方が分からず、王都から出てしまったら? 食べ物をやるからと知らない人について行ってしまったら? 俺はどうしたらいいんだ……」


 アリーシャについて悩み出したオルキデアに、今度はクシャースラが呆れて呟く。


「過保護にも程があるぞ……」

「世間知らずなアリーシャを一人にするんた。過保護にもなるさ。いっそのこと、アリーシャを連れて軍部に行こうか……」


 オルキデアと一緒に軍部に行って、自分の目の届く範囲内に居てくれれば、安心出来るだろう。

 真剣な顔で考えていると、「また噂になる気か」と返されたのだった。


「いい機会だから、アリーシャ嬢の社会勉強だと思え。ついでに、お前もな」

「俺も?」

「アリーシャ嬢から離れるんだ。いつもの冷徹で、冷たくて、容赦がないと噂されるラナンキュラス少将に戻るんだ」

「それは……好きで冷たくしていた訳では……」


 言葉に詰まるオルキデアに、「まあ、そうだろうな」と傍らの親友が納得する。


「アリーシャ嬢だけじゃなくて、お前さんも変わったよ。随分と雰囲気が柔らかくなった。今回の噂で、お前さんを怖がる兵も減ったと思う」

「他の兵からどう言われても、俺は気にしていなかったけどな」

「周りが気にするんだよ。全く……」


 親友に肘で脇を突かれると、その腕を払い除ける。

 どうやら、クシャースラも噂を気にしていた一人だったらしい。


「周りに迷惑をかけていたのは知らなかった。これからは肝に銘じよう」

「これからは誰も言わないと思うけどな。昔よりも……いや、出会った頃に比べたら、ずっと親しみやすくなった」

「そうか?」

「十年来の親友が保証するよ」


 通行量の多い、横断歩道に差し掛かると、二人並んで信号が変わるのを待つ。

 すると、急に十年来の親友が「オルキデア」と呼び掛けてくる。


「結婚おめでとう」

「ああ」


 エンジン音を鳴らしながら、数台の車が二人の前を通り過ぎていく。

 その間、少し考えてから、オルキデアはまた口を開いたのだった。


「……ありがとう」


 信号が変わると軍部に向けて、二人はまた歩き出す。

 信号が変わる直前、クシャースラがいつにも増して笑みを深めたのを、オルキデアは見過ごさなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ