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お祭りのあとに【2】

「ゆめ、じゃない、です……」

「そうだろう。だから、不安になるな。お前がそう言ったら、俺まで不安になるだろう。

 お前と過ごすこの日々が、今にも夢に思えてきて、泡のように消えてしまいそうになる」


 藤色の頭を優しく撫でられて、だんだん心が落ち着いてくる。

 バクバクと聞こえてくるのは、自分の心臓の音なのか、それとも愛する彼の心臓の音なのか。


 オルキデアに抱えられたまま、またベッドに横になると、優しく髪を梳かれる。


「朝までまだ時間がある。もう少し寝よう」

「すみません。起こしてしまって……」

「……そうだな。いなくなったのかと不安になったぞ」


 疲れているオルキデアを起こしてしまったと、肩を落としていると、「でも、そうじゃなくて安心した」と囁かれる。


「俺だって、毎日が満ち足りているんだ。お前に対する気持ちに気付いてから、ずっと……」

「私への気持ち……」

「お前を愛しているってことだ。もう、お前がいない日々なんて考えられない」


 ギュッと抱きしめられて、「私もです」と抱きしめ返す。


「私も、もう貴方なしには生きていけそうにないです。貴方さえいるなら、もう何もいらない……」

「ああ。ずっと一緒にいよう。お前が望む限り……」


 そのまま、オルキデアが寝てしまいそうだったので、「あの……」と一つだけお願いごとを口にする。


「頬にキスしてもいいですか?」

「いいぞ」


 一瞬、虚をつかれたような顔をしたが、すぐにオルキデアは得意気な顔になる。

 そんな愛しの夫に身体を密着させると、幅広の肩に両手をついて目を瞑る。

 顔を寄せると、そっと頬に口づけたのだった。

 唇に触れた頬の熱、唇で感じた柔らかさが、これが夢じゃないと安心させてくれる。


 それを証明してくれるように、そっと離したアリーシャの桜唇に、すぐに熱烈な口づけを返してきたのだった。


 これのどこが夢だというのだろうか。

 激しさを増す口づけが、絶え間なく高鳴り続ける胸が、これは夢じゃないと教えてくれる。

 ゆっくりと唇が離れると、頬を愛撫されたのだった。


「これでも、まだ夢だと思うか?」

「……いいえ」


 ありがとうございます、と礼を言う代わりに、その逞しい身体にしがみつく。

 腕を伸ばすと、ダークブラウンの長めの髪を撫でたのだった。


「おやすみ。アリーシャ」

「おやすみなさい。オルキデア様」


 髪から手を離すと、強く抱き寄せられる。

 アリーシャの顔に、夫の硬くて温かい胸元が当たったのだった。


 しばらくの間、藤色の頭を撫でられながら、オルキデアの心臓の音を聞いている内に、だんだんと心が落ち着いてくる。

 すると、アリーシャの瞳から、また涙が一粒溢れ落ちたのだった。


 ーー涙は、悲しい時に流すだけのものじゃない。それを貴方が教えてくれた。


 それなら、いま頬を流れているのは喜びの涙だと、胸を張って言える。

 嬉し涙を知らなかった、アリサ()とは違う。

 アリーシャはそっと微笑むと、目を閉じたのだった。


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