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万華鏡と一輪挿し【8】

「は、初めまして。主人のオルキデアさ……オルキデアがお世話になっております。アリーシャ・ラナンキュラスと申します」

「アリーシャ様ですね。ラナンキュラス少将には新兵の頃より、ご指導ご鞭撻頂き、大変お世話になっております。

 しばらくは王都におりますので、妻子共々よろしくお願いします」

「ライリー、アリーシャは王都に来たばかりなんだ。何かあれば、よろしく頼む」

「そうでしたか。私こそ、ご結婚されているとは知らず、申し訳ありません。後ほど、お祝いの品を届けます」

「気にしなくていい。祭りには一人で来ているのか?」

「娘を連れて来ております。元気があり余っているので、外で遊んで疲れさせて来いと妻が」


「隣の出店を見ていて……」と、言いかけたライリーが止まる。

 それらしき娘の姿が、なくなっていたのだった。


「あれ? どこに行った?」


 ライリーが辺りを探していると、丁度、テーブルを挟んでセシリアの向かい辺りを、六歳くらいの娘が覗き込んでいた。


「おはな、たくさん!」

「ローラ。勝手に触るな!」


 テーブルに並べていた植木鉢の花に触れようとする娘を、ライリーが制止する。


「すみません……」

「いえいえ。よければご覧になって下さい」


 ローラと呼ばれた娘は、ライリーに抱かれて、テーブルに並べられた花に目を輝かせていた。


「パパ。おはな、ほしい」

「ダメだ。ママは身体を動かすのが辛いと言っていただろう。花を買っても世話が出来ないから、すぐに枯らせてしまう」

「やだあ。おはな、ほしいもん!」


 うわぁと泣きだすローラにライリーがあたふたしていると、「よければ」とセシリアがテーブルの一角を勧めた。


「こっちの花は造花やプリザーブドフラワーで作った花束なんです。これなら手入れが要らないので、世話の心配もないかと。

 身重とのことでしたので、身体も辛いでしょう。造花やプリザーブドフラワーを見れば、多少は心も安らぐかと思います」

「ありがとうございます。オウェングス夫人。どうする。ローラ?」


 セシリアに勧められた一角に行くと、ライリーは娘に尋ねる。


「う~んとね……。これ!」

「バラの一輪挿しか。何色がいい?」

「ピンク!」


 ライリーはプリザーブドフラワーで出来たピンクのバラの一輪挿しを指すと、「これをお願いします」とセシリアに声を掛けた。


「ありがとうございます」


 セシリアは代金を受け取ると、ローラに一輪挿しを渡したのだった。


「ありがとう」

「はい。ありがとうございます。お礼が言えて、偉いですね」


 セシリアに褒められて、ローラは歯を見せて嬉しそうに笑ったのだった。


「良かったな。ローラ」

「うん!」


 和やかな空気が流れる中、不意にライリーは真面目な顔になる。


「ラナンキュラス少将。実は噂で聞いたのですが……」


 伺うようにアリーシャたちを見ると、気を利かせたセシリアが微笑を浮かべて頷く。


「オーキッド様。ライリー様。ローラちゃんは私とアリーシャさんで見ているので、二人でゆっくり話して下さい」

「いいですか? でも……」

「私は気にしていませんわ。ね、アリーシャさん?」


 それまで、何も言わずに黙っていたアリーシャが「そうですね」と頷いたのだった。


「私たちが見ていますので、二人はゆっくりお話し下さい」

「ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えて、少しお願いしてもいいですか?」

「セシリア、アリーシャを頼んでもいいか? アリーシャ、お前たちはセシリアのところで待っていてくれるか?」

「分かりました!」


 ピンクのバラを持ってご機嫌なローラを二人に任せて、二人は出店から離れた。

 人混みを抜けて、休憩スペースの空いているテーブルを見つけると、ライリーに椅子を勧めたのだった。


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