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墓前へ【4】

「寂しそうですよ……本当はお父様の死を受け入れていないんじゃないですか?」

「そんなはずはない……。父上は死んだんだ。七年も前に」


 エラフが死んでから時間が経っている。その間に、オルキデア自身も様々なことがあった。

 エラフの死を悼む暇もないくらいに。


「時間の流れは関係ありません。何十年も引きずっている人だっています。特に急な別れを経験した人は……」


 身体の前で両手を握るアリーシャもどこか辛そうに見えた。

 それもそのはずだ。アリーシャも病気で母親を亡くしている。きっと急な別れだったのだろう。


「私もなかなか母の死を受け入れられなくて……。いつかひょっこり現れて、私を迎え来てくれるんじゃないかって。

 あの屋敷に住んでいた頃は、ずっと思っていました」

「それなら、どうやって母親の死を受け入れられたんだ」

「オルキデア様に話した時です」

「それは、最近だろう」

「最近です。でも、貴方に話して、貴方を好きになったことで、ようやく母が亡くなったと認められたんです。その時から私の時間は動き出しました。

 母が死んだあの時から、私の時間は止まっていたので……」


 誰かに話すことで胸が軽くなって、前を向けるようになる。

 アリーシャにとって、それはオルキデアに母の死を話してーーオルキデアを好きになった瞬間だったのだ。


「それまでは、ずっと母の死を認められなくて……寂しいと認めたくなくて。

 私の心は思い出の中にいて、ずっとその中で生きていました。

 だから、オルキデア様もそうじゃないかって。オルキデア様もお父様が亡くなった時から、ずっと時間が止まったままじゃないかって思ったんです」

「俺の時間……」


 息をハーッと吐き出して「そうかもしれないな」と独り言ちる。


「ずっと、仕事を理由に屋敷に帰らなかった。軍に配属されたばかりだったから、半分は本当だったんだが……。

 生きている父上と最後に会ったのは、士官学校を卒業した次の日だった。『おめでとう』ってだけ言われて、それなのに俺はまとな会話をしないまま、軍の独身寮の手続きに向かって。

 それから何度も、『顔を見せに帰って来い』って言われていたのに、仕事を理由に帰らなかった」


 二人の頭上で鳥が鳴いた。

 墓石に近くと、アリーシャもその後について来た。


「そうしたらある日、父上が倒れたと連絡が入って、病院に駆けつけたら、ベッドで眠る父上の姿があった。

 俺は父上に付き添ったが、一度も意識が戻らないまま、父上は息を引き取った」


 今でも、目を閉じればあの夜を思い出せる。

 エラフが倒れた日の夜。アルコールと真新しいシーツの匂いがする中、父は一度も目を覚まさないまま、息を引き取った。


「その日から、父を悼む間もなく、葬儀や相続、遺品の整理で忙しくなった。

 それが終われば、軍に復帰して、また忙しい日々が始まった。

 北部に配属が変わって、死にかけて、療養した。

 軍に復帰したら、また戦場に駆り立てられた。昇級するとまた忙しくなって……。その繰り返しだ」

「それじゃあ、お父様を悼んだのは……」

「無かったな。お前に言われるまで、それにも気づかないくらい、忙しくて、悼む余裕さえなくて……」


 いや、違う。多忙を言い訳にしていただけだ。

 本当は目を逸らしていただけだ。父が死んだと認めたくなかっただけだ。

 現実から目を背けていただけだ。


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