表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
204/347

契約結婚を解消して欲しい【2】

「そう言われると不安になるな……。だが、君が言うならそう思えてくる。

 いつだって、君は相手を気遣ってくれた。敵だった俺も気遣ってくれて……」

「私もそうです。いつだって、貴方は私を気遣ってくれました。

 不安にならないように励ましてくれて、傍についていてくれて、可愛いらしい洋服やアクセサリー、美味しいお菓子を贈ってくれて……。

 今日だって、テラス席を用意してくださって、お庭でお茶とプリンを片手に読書が出来て、至福の時を過ごせました。

 ありがとうございました。このご恩は一生忘れません」


 屋敷を出て、一人で生きていくことになっても、オルキデアとの思い出があれば生きていける。

 彼から与えられたモノ、教えられたモノを胸に、どんな困難にも立ち向かって行けるような気さえしたのだった。


「それでは、私はこれで失礼します。この屋敷を出ようと思っていたので……」

「出るだと、どうして!?」


 いつになく慌てふためくオルキデアに首を傾げつつ口を開く。


「オルキデア様が好きな相手が出来たということは、今後、結婚して、この屋敷に住む可能性だってありますよね? それなら私は邪魔になるので、この屋敷を出ようかと……」


 オルキデアの後ろにあるオレンジ色のカーネーション。

 オレンジ色のカーネーションには、「純粋な愛」や「貴方を愛しています」といった花言葉がある。

 つまり、これからオルキデアは「好きになった女性」にカーネーションを渡しに行くのだろう。

 もし、結婚することになったら、仮初めの関係だったとはいえ、アリーシャは邪魔になる。

 それなら、早い内にここを出て行った方がいいと思ったのだった。


 アリーシャの言葉に額を押さえると、「なんだそんなことか」とオルキデアは安心したようだった。


「気が変わって、俺が嫌いになったから、ここを出て行くのかと思ったぞ」

「そんなことはありません! オルキデア様よりカッコいい男性なんていません!」


 むきになって言い返すと、「嬉しいような、恥ずかしい気持ちになるな」と苦笑される。


「それでは、今度こそ失礼します」


 一礼して背を向けると、再び内側からこみ上げてくるものがある。

 声が漏れそうになって、ぐっと身体に力を入れて歩き出すと、後ろでガサリと紙が擦れる様な音が聞こえてきた。


「アリーシャ」


 呼び止められて振り返ると、目の前に鮮やかなオレンジが広がっていた。

 それが机の上に置いてあったカーネーションだと気づいた時には、オルキデアは次の言葉を口にしていたのだった。  


「俺と結婚して欲しい」


 聞き間違いかと思い、「えっ……」と声が漏れてしまう。


「でも、今、解消して欲しいって……」

「それは契約結婚だ。俺がして欲しいのは、契約でも、一時的でもなければ、目的も、利害関係もない。愛し合った男女がする結婚だ」


 カーネーションから顔を上げると、そこには熱を帯びた目で見つめるオルキデアの姿があった。


「本当は……改めて告白されたあの晩、すぐにでも返事をしたかった。

 ただ、それだと男として面目が立たないだろう……嬉しくはあったが」


 オルキデアの顔が赤く見えるのは、夕陽のせいだけではないだろう。

 アリーシャは瞬きを繰り返すと、じっとオルキデアの言葉に聞き入る。


「もっと雰囲気があって、君が喜ぶ様な用意もしたかった。こういうのは、一生に一度だからな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ