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思い出の味【4】

 小昼を挟み、即席のテラス席の片付けをオルキデアに任せて、アリーシャは食器を洗っていた。

 すると、オルキデアがやって来たのだった。


「これから出掛けてくる。すぐに戻って来るから、留守番を頼めるか」

「わかりました。気をつけて下さい」

「ああ。行ってくる」


 オルキデアは口元を緩めて、穏やかに微笑むと去って行ったのだった。


(珍しい……)


 これまで、この屋敷で暮らすようになってから、何度かオルキデアは出掛けていた。

 けれども、こうして改めて声を掛けられたのは、これが始めてであった。

 いつもはただ「出掛けてくる」としか言われなかった。

 それか、この間のすれ違っていた時のように、書き置きを残して、ふらりと出て行くか。

 こうして、声を掛けてくることは無かったのだった。


(何かあるのかな……)


 もしかしたら、「あの」返事をされるのかもしれない。

 来るべき時が、来たのかもしれない。


(もし、ダメって言われた時に備えて、出て行く用意をした方がいいのかな)


 オルキデアは「ここに居ていい」と言ってくれたが、駄目だった場合、これからも屋敷で顔を合わせていくのは、耐えられそうになかった。

 行く当てはないが、ここを出て行くのが賢明だろう。


 アリーシャは水道を閉めると、手を拭きながら部屋に戻る。

 クローゼットを開けて、適当な大きさのカバンを取り出すと、着替えを詰め始める。

 せっかく用意してもらったので、着替えくらいは何着か拝借させてもらおう。

 まださほど寒くないので、野宿をしても風邪を引かないだろう。

 屋敷を出て、野宿をしつつ、仕事を探す。

 仕事は何でもいい。屋敷の下働きでも、店でも、娼館でも。

 働きつつ、ある程度のお金が貯まったら、家を探せばいい。


 母だって、身一つで実家を飛び出して、娼婦街に行き着き、娼婦になった。

 母に出来たのなら、娘の自分も出来るはず。


(そうだ。私だって出来るはず。もう子供じゃないんだから)


 自分を奮い立たせると、左手の薬指に目がいく。

 オルキデアは何かあればこれを売って金にしろ、と言っていた。

 けれども、これは本来、オルキデアと結ばれる者が持つべきであり、オルキデアと結ばれなかったアリーシャが持つべきではない。


(この屋敷を出る時は置いていこう)


 部屋に置いていけば、きっとオルキデアが見つけて、良いように使ってくれるだろう。

 それこそ、売ったり、本当の婚約者に渡したりして。

 指輪にそっと触れると、アリーシャはカバンに着替えを詰め続けたのだった。


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