表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/344

再会【2】

「愛していたんですか? 私のこと……」


 その声にクシャースラが振り向くと、開け放たれたままになっていた扉の前に「彼女」が立っていた。


「アリーシャ、聞いていたのか?」


 クシャースラの言葉に、何も身につけていない、白くほっそりした手で口元を押さえていた「彼女」ーーアリーシャは、こくりと頷いた。


 そんなアリーシャの姿に気づいたオルキデアは、濃い紫の目を見開くと、いつになく険しい顔をしてクシャースラの襟元を掴んできたのだった。


「貴様っ! どういうつもりだ!?」

「お前さんがどんな状態になっているかわからないから、呼ぶまで廊下で待っていて欲しいと、おれは言ったんだがな」


 ここまで激昂した親友を、クシャースラは始めて見た。

 出会った頃から、オルキデアという親友は常にどこか冷めた目で周囲を眺めていた。

 時には、冷徹なまでに。

 そんなオルキデアの心を、一人の女性が動かした。

 オルキデアから「アリーシャ」という名前を与えられた、一人の女性が。


「そうじゃない! なぜ、ここに連れて来た!? こんな俺のところに……!?」

「止めて下さい! オルキデア様! クシャースラさんは悪くないんです……!」


 クシャースラの襟元にかかるオルキデアの手を、アリーシャは掴んだ。


「アリーシャ……」

「私からお願いしたんです! これが最後になってもいいから、どうしてもオルキデア様にお会いしたくて……。

 クシャースラさんに無理を言って、ペルフェクトに連れて来てもらったんです……」


 悲痛な顔のアリーシャの菫色の両眼から、涙が溢れ落ちる。

 はっとすると、二人は手を離したのだった。


「すまなかった。オルキデア」

「いや、俺も悪かった。クシャースラ」


 お互いにバツが悪くなって、顔を逸らす。

 ハンカチを取り出して、涙を拭いていたアリーシャに近づくと、オルキデアはおずおずと声を掛ける。


「久しいな。アリーシャ。その……変わりはないか?」

「ええ。とりあえずは。オルキデア様は大丈夫ですか? その、謀叛は?」

「ああ。まあ……。それより、謀叛の話は、アリーシャも知っていたのか?」

「はい。国に帰った後に、新聞で知りました」


 ぎこちない様子の二人に、クシャースラはやれやれと肩を竦める。

 

(お互い、相手に伝えたいことがあるだろうに……)


 それをなかなか言わない姿に、クシャースラはもどかしさを感じたのだった。


 やがて、アリーシャの方から、話を切り出したようだった。


「オルキデア様、どうして、私を国に帰したのですか?

 それも、私が寝ている間にこっそり」

「それは……。お前に話したら、絶対に嫌がって、反対されると思ったからだ。

 出会ったばかりの頃と同じように」

「そんなことは……」


 二人がどうやって出会ったのかは、クシャースラも親友自身から聞いている。

 あの時も、アリーシャを国に帰そうとしたオルキデアに対して、アリーシャ本人が「嫌です」と拒否したらしい。


「アリーシャ。お前のことは愛しているし、大切にも想っている。

 けれども、俺たちは住んでいる国が違うんだ。……俺じゃ、お前を幸せに出来ない」

「そんな……」

「それに、今の俺には国家反逆の謀叛の疑いがかかっている。お前を巻き込む訳にはいかないんだ」

「それでも、私は貴方の側に居たかった!」


 真っ直ぐにオルキデアを見つめるアリーシャの姿に、オルキデアだけではなく、クシャースラまでもが息を飲んだのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ