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思い出の味【1】

 次の日、風が肌寒い秋空の下で、アリーシャは庭の物干し竿に洗濯物を干していた。

 この屋敷に来てばかりの頃、マルテから洗濯機の使い方を教わったアリーシャは、最初こそは洗剤や水の量を間違え、洗濯物を色移りさせてしまうなどの失敗を繰り返していた。ーーペルフェクトとシュタルクヘルトでは、同じ洗濯機でも洗剤や水の量が違っていたというのもあるが。

 色移りさせては、しばしばオルキデアやマルテを困らせていたが、今ではすっかり難なく使いこなせるようになっていた。


(今日もマルテさんやメイソンさんは来ないのかな……)


 この頃、アリーシャもオルキデアも、屋敷での生活に慣れてきたからか、マルテやメイソンたちは数日おきに訪ねてくるだけとなっていた。

 二人も仕事や家庭があるので、毎日来れなくてもおかしくはないのだが、会えない日が続くと寂しいと思ってしまう。


 夫婦はまるでアリーシャのーー「アリーシャ・ラナンキュラス」の本当の両親のように、何かとアリーシャを気遣ってくれた。

 アリーシャも本当の両親の様に慕っており、二人を気遣っていた。


(忙しいのかな……)


 空になった洗濯籠を持って、室内に戻ろうとしたアリーシャは、前方からやって来た人物に「アリーシャ」と呼び止められる。


「少し良いか?」

「はい……」


 昨晩、アリーシャの告白の答えを待って欲しいと言ったオルキデアだったが、あれから今に至るまで、特に何もなく、これまでと同じように接してくれた。

 変わったといえば、オルキデアと顔を合わせる度に、胸の鼓動が速くなるくらいで。


 ーーたとえ、自分が望んだ答えじゃなくても、悔いは無いと思う。


 けれども、いつ、どんな答えを言われるのか、気が気ではなかった。


 洗濯籠をその場に置くと、オルキデアに続いて定期的にメイソンが手入れをしてくれている玄関側の前庭に向かう。


「即席だから、気に入るかはわからないが……」

「即席? わあ……!」


 秋の花々が咲く花壇の間の僅かな場所。

 そこには、やや薄汚れた白いパラソル傘と、白いテーブルクロスが引かれた木製のガーデンテーブルと椅子があったのだった。


「これって、もしかして……」

「いつかやりたいと話していた、月夜ならぬ昼間に紅茶を片手にガゼボで行う読書だ。うちにはガゼボが無いから、少し違うかもしれないが」

「凄いです。こんなに早く出来るとは思わなかったです!」


 簡素でちぐはぐながらも、用意してくれたオルキデアのまごころが込もった手作りのテラス席。

 白いテーブルクロスには皺一つなければ、椅子も磨かれて新品同然であった。

 傘は飛ばされないように、紐で固定されていた。


「本当はこのガーデンテーブルに合うような傘があれば良かったんだけどな。これくらいしか無くてな」

「これだけでも嬉しいです。ありがとうございます」


 オルキデアに椅子を引いてもらい、アリーシャは座る。

 朝食を食べたばかりで、二人共にまだお腹が空いていなかったこともあり、先に飲み物だけ用意して、読書を始めてしまうかと話していた時だった。


「おはようございます。オーキッド様、アリーシャさん」


 白い箱を両手で抱えたセシリアが、二人を訪ねてやって来たのだった。


「おはようございます。セシリアさん」

「おはよう。これから仕事か?」

「ええ。これから花屋の仕事に出掛けますが、その前にアリーシャさんにお渡ししたいものがあって。これ、昨日作ったものです」


 セシリアから白い箱を受け取る際に、「上手く出来ていましたよ」と囁かれる。

 その言葉に、アリーシャはホッと安心したのだった。


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