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これからも、ずっと……【1】

 子供の様に泣きじゃくるアリーシャを抱きしめながら、オルキデアは息を吐く。


(これまで、ずっと我慢していたんだな……)


 母親が亡くなって、父親や他の兄弟姉妹とその母親たち、更には使用人からも酷い仕打ちを受けていたアリーシャ。


 何も考える余裕がないくらいに困窮していたが、ここに来て本来の明るさや性格を取り戻してきたのだろう。

 いつだって、誰かを、何かを見つめる時は、子供の様に純粋で、真っ直ぐで。

 時にその姿は眩しいくらいであった。


(これからは、彼女らしく生きて欲しい)


 この国で、父親や家に縛られることなく、自由に伸び伸びと暮らして欲しい。

 その為ならば、いくらでも力を貸そう。


 やがて、アリーシャが泣き止むと、またその手を引いて歩き出した。

 今度は謝りもしなければ、啜り泣きもしなかった。

 時折、嗚咽と鼻をすする音が聞こえてくるだけで、後は何も聞こえてこなかった。


 屋敷の裏口の扉を開けると、雷は収まったが、まだ小雨が降っていた。

 傘を撮りに戻るのも億劫だったので、なるべくアリーシャが濡れないように彼女を屋根側に歩かせながら、裏口から出てすぐの壁に設置している分電盤に向かう。


「懐中電灯を持って、足元を照らしてくれないか?」


 アリーシャに懐中電灯を渡して、近くにあった古ぼけた梯子を分電盤の下に立てかける。

 懐中電灯の光で確かめながら梯子に登ると、分電盤を照らすようにアリーシャに指示する。


「思った通りだ」


 やはり、落雷の衝撃で電気系統が落ちてしまったようだった。

 一度全ての電源を落として、もう一度、分電盤の電源を入れる。

 すると、屋敷内に明かりが灯ったのだった。


「わあ!」


 アリーシャの喜ぶ声を聞きながら梯子から降りると、元の場所に戻す。


「うちだけ消えたのか……」


 周囲の家々には煌々と明かりが灯されていた。既に復旧したのか、うちだけ電気系統が落ちたのか……。


「くちゅん!」


 考えていたオルキデアは、アリーシャのくしゃみで我に帰る。


「ああ、すまない。寒いから風邪を引くな。すぐに屋敷に戻ろう」


 小雨が降っている秋の夜は寒い。

 それなのに、オルキデアもアリーシャも、薄着で出て来てしまった。


「中に戻ったら、すぐ風呂に入って、暖かくして寝よう」


 アリーシャを促すと、二人は屋敷の中に戻る。

 部屋の前までアリーシャを送るが、オルキデアの側から離れられないようだった。

 泣きそうな顔で見上げてくるアリーシャを見ていると、胸がかき乱された。


「……今夜も一緒に寝るか?」


 こくりと頷いたアリーシャに、着替えを持って部屋までついて来るように伝える。

 着替えを用意している間、部屋の中で待たせてもらうが、アリーシャの部屋に入ったのはこれが初めてだということに気がつく。


 元々、屋敷にあった家具を利用して、マルテやセシリアたちが整えてくれたが、女子が喜びそうな色使いのカーテンや掛布も用意してくれたようだった。

 大きな姿見も綺麗に磨かれて、テーブルやソファーだけではなく、カーペットも掃除されていた。

 持ち主であるアリーシャも丁寧に扱っているのだろう。


 本棚にはこの間買った本以外にも、料理や手芸、化粧などの女子向けの本や雑誌が並んでいた。

 小説らしき本もあったが、タイトルからして若い女子向けの本のようだった。

 セシリアが読み終わった本を置いていったのだろうか。


(化粧をするなら、鏡台があった方がいいな。倉庫になかったから、どこかで買ってきて……)


 そう考えている内に、用意が終わったとアリーシャに声を掛けられる。

 部屋を出ると、オルキデアの部屋に向かったのだった。


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