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結婚指輪【3】

「アリーシャ、君はどれがいい?」


 目を伏せて考えていたアリーシャは、オルキデアに話しかけられて顔を上げる。


「俺ではどれがいいか迷ってしまう。君の意見を聞かせて欲しい」


 ーー私の意見。


 母が亡くなってから、初めて自分の意見を求められたかもしれない。

 アリーシャは並べられた指輪をじっと見つめると、やがて一組の指輪を指差す。


「これが、気になります」


 選んだのは、オーバルストレートラインのプラチナの指輪だった。

 銀色に輝く細い指輪には、一粒の小さなダイヤモンドが嵌め込まれていた。


「細いので普段から身につけていても邪魔にならなさそうですし、手入れも大変じゃなさそうなので」


 ーーそれと、値段も手頃なので。


 本来なら二人で身につける以上、アリーシャも負担するべきだろうが、収入がないアリーシャは一円も出すことが出来なかった。

 オルキデアは値段に糸目はつけないと言っていたが、全額負担してもらう以上、あまり値を張らず、それでも結婚指輪としてある程度、見た目が整ったものの方がいいだろうと思ったのだった。


「それなら、これにしよう」


 オルキデアが孫娘を促すと、すぐに支払いの準備を始める。


「あの」


 オルキデアを見上げながら、アリーシャは尋ねる。


「いいんですか。あの指輪で……」

「何を言っている。君がいいと言ったんだろう」

「そうですが、オルキデア様は良いと思ったのかなって……」

「君がいいと言ったものを、俺もいいと思った。だから買ったんだ」


 自信を持てというように、アリーシャの頭をポンポンと軽く叩いたオルキデアは、支払いの用意が出来たという孫娘の元に向かう。

 オルキデアを待っている間、他の宝飾品が飾られたショーケースを眺めていると、とあるネックレスに目を奪われる。


(あれは……)


 親指の爪くらいの大きさをした、淡いコーラルピンクの宝石が飾られた金のネックレス。

 優しさと懐かしさを覚える色。


(お母さん……)


 母は亡くなるまで、同じ色の宝石が嵌まった指輪を大切そうに持っていた。

 生前、大切な人から貰った大切な指輪だと何度も言っていた。

 アリーシャの肩が震える。涙を堪えようと、ぐっと力を入れる。


 あの指輪はどこにいったのだろうか。

 母と共に埋葬していないので、娼婦街に置いてきてしまったのだろう。

 母が亡くなってから時間が経っているので、きっともう売られているか、捨てられているに違いない。

 子供だったアリーシャの目から見ても、高そうに思えたから。


「それは、ローズクォーツのネックレスだよ」


 声が聞こえて顔を上げると、ショーケースを挟んだ目の前に店主の男性がいた。


「ローズクォーツですか?」

「愛や穏やかを意味する宝石でね。甘く香り立つような色合いから女性に人気なんだと」


 言われてみれば、派手過ぎない色合いは女性が好きな色だろう。スイーツの様に甘い雰囲気も魅力的だった。


「確かに、女性が好きそうな色ですね」

「淡い紫色のラベンダーアメジストと組み合わせても綺麗でね。

 最近では癒しの意味を込めて、ネックレスやブレスレットに加工するのが流行っているらしいと、孫に聞いたよ」


 女性でも、仕事や家計、対人関係でのストレスに悩まされる。そんな女性を中心に、近年、ローズクォーツとラベンダーアメジストを組み合わせた宝飾品が流行っているらしい。


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