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不安と寂しさと【6】

 やがて部隊にはオルキデアを含めた数人しか残らなかった。

 更には雪で不足した餌を探す獣にも遭遇して、逃げる最中に部隊はバラバラになった。

 一人になったオルキデアは、頭に入れていた地図を頼りに、なんとか基地まで辿り着いた。


 ようやく、基地に辿り着いたオルキデアが見たのは、この世の地獄であった。

 同じように王都からの物資の補給が途絶えたことで、上官たちが部下から食料や水を取り上げ、残った僅かな物資を独占する。

 そんな上官たちを殺害して、物資を奪い返す下級士官や下士官、兵士たち。

 餓死者の死体処理が追いつかず、そこかしこに転がる死体。

 物資の奪い合いは捕虜たちも同じで、この機に乗じて脱走する者もいた。


 外から戻ってきたオルキデアもまた兵から狙われた。

 這う這うの体で基地から逃げ出すと、軍本部との連絡を取るために近くの町村まで向かった。

 しかしその途中で、疲労と飢えから、とうとう雪道の中で倒れてしまったのだった。


「どうして、オルキデア様だけ生き残ったんですか?」

「たまたま、近くを通りかかった町の長に拾われた。長も降雪で街道が閉鎖され、王都から物資が届かないので、北部基地に相談に行く途中だったらしい」


 しかし、基地に向かう途中で見つけたオルキデアは飢えで意識は朦朧とし、寒さで凍傷を起こしかけていた。

 まともに話しも出来ぬオルキデアを保護して、長は基地に辿り着くも、まともに会話が出来る者がいなかったらしいーーその頃には、生き残っていた者たちも、死への恐怖から狂人となっていた。

 長は諦めると、オルキデアを連れたまま町に帰ったとのことだった。


「次に目が覚めると、町の診療所だった。

 凍傷になりかけていた手足の治療も兼ねて、雪が溶ける春先までそこに入院した。

 治る頃にはようやく王都から救援がきたな。……もう遅かったが」


 町の様子を確認しにきた王都の兵から、北部基地は壊滅状態であり、制圧した敵の基地も同じような状態だったと聞かされた。

 オルキデアは王都の兵に連れられて、そのまま王都に戻ったのだった。


「王都に戻って、郊外の軍関係の病院に入院していたら、クシャースラとセシリアが見舞いに来てな。二人に泣かれた。

 王都でも北部基地の話は聞いていたようで、『心配した』や『生きていて良かった』と、散々言われた」


 そこから半年くらいは、病院での療養と北部基地で何があったのかと事情聴取をされた。

 結局、オルキデア以外に北部基地所属の生存者はおらず、敵軍の基地を制圧した者たちも敵味方問わず餓死していた。


 支援を求めてオルキデアと一緒に北部基地に向かった者たちも、死体で見つかるか、行方不明のままであった。

 オルキデアたちが進軍している間に、北部基地で何があったのかは、敵味方問わず死屍累々と並ぶ死体から察するしかなかったのだった。


「私もクシャースラ様やセシリアさんと同じで、オルキデア様が無事で良かったと思っています」

「そうか? 俺自身は、なぜ生き残ったのかわからないんだ。当時の俺は父上を亡くなったばかりで、生きる気力を失っていたんだがな」


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