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不安と寂しさと【3】

「風が強く吹いてきたな。さっきも庭の梯子が倒れたようだし、これからますます強くなるかもしれん……」


 ふと、アリーシャを見つめると、ソファーの端を掴んで、ギュッと何かを耐えている様子であった。


「どうした?」

「……いえ、大したことでは」


 オルキデアから顔を背けたアリーシャが言いかけた時、また強く風が吹いて、大きく肩を震わせる。

 何かを探すように、顔を背けたままソファーの上を探すアリーシャの手に、オルキデアはそっと自らの手を重ねる。


「オルキデア様?」


 アリーシャがそっと振り向く。


「怖いのか?」

「いえ……」

「大丈夫だ」


 ハッと、菫色の瞳が大きく開かれる。


「これくらいの風で屋敷は壊れん。窓もな。君が不安になる必要はない」

「それもそうですが、そうじゃないんです」

「そうじゃない?」


 アリーシャは伺うように、下からじっと上目遣いに見つめてくる。


「屋敷内が静かなので、不安になるんです。まるで、私だけがこの屋敷に取り残された気持ちになってしまって……。シュタルクヘルト(あっち)も、軍も、もっと人の気配があったので」


 人の気配はないのに、風の音や物音ばかり聞こえてきて、アリーシャはだんだん不安になった。


 ーーもしかしたら、今までの出来事は全て夢であって、既に自分はあの襲撃で死んでいるのではないかと。


「それもあって、だんだん不安で目が冴えてしまって……。でも、オルキデア様の顔を見たら安心しました。これを飲み終わったら、部屋に戻りますね」

「……君もか」

「えっ? 私も?」

「いや、何でもない。……不安なら、俺と一緒に寝るか?」

「ええっ!」

「冗談だ」


 だが、オルキデアの部屋もアリーシャの部屋のベッドも、二人は寝れるくらいの大きさがあった。

 アリーシャが望むなら、と思ったが、さすがにそれは考えていなかったのだろう。


「ああ。でも。一人が寂しいなら、俺のベッドで寝ていいぞ」

「そうしたら、オルキデア様はどこで寝るんですか?」

「ソファーだ。いつものことだから問題ない。ゆっくり寝られるだけまだいい方だ」


 実際、執務室でもずっとソファーに寝ていたのだ。

 ソファーに限らず、前線の戦場にもいた経験のあるオルキデアは、地面に寝た事もある。

 地面に寝れただけでもまだいい方で、敵に囲まれて、数日間一睡も出来なかった事もある。

 そう思って言ったつもりだったが、しかしアリーシャは「問題ありますよ!」と打てば響くように返してきたのだった。


「そこまでしてまで、ベッドをお借りする訳にはいきません。それなら、私は自分の部屋で寝ます」

「一人で大丈夫なのか?」

「それは……」


 口ごもるアリーシャに、オルキデアは大きく息を吐き出す。


「二人くらいなら余裕で寝れるだろう……隣で寝てもいいか? 勿論、ただ隣で寝るだけだ」

「……はい」


 そうして、カップが空になると、どちらともなくベッドに入ったのだった。


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