移送作戦・終了【5】
「そうなんですね……」
「命令もそうだが、夫婦水入らずの時間を過ごしたいというのが理由としては大きいな」
「えっ!?」
大仰なまでに慌てるアリーシャに笑みを浮かべた後、「冗談だ」と返す。
「そんなに慌てるとは……俺と二人きりで過ごすのは嫌か?」
「いいえ! ただ、その……」
「なんだ? 言ってみろ」
言いづらそうに俯くアリーシャに、オルキデアはとなるべく優しい声音で尋ねる。
「前にも言ったが、俺に遠慮する必要はない。自分の気持ちを話してくれ」
「遠慮している訳じゃないんです。ただ恥ずかしくて……」
「恥ずかしい?」
顔を覗き込もうとすると、耳まで赤くなったアリーシャに「やっぱりいいです!」と小声で返す。
「それより夕食の用意をしますね。マルテさんが用意してくださったので、温め直すだけですぐに出せます」
「そうだな。あまり遅くなるのも身体に良くない。先に済ませてしまおう」
オルキデアは「着替えてから行く」と言うと、厨房へと駆け足で向かうアリーシャと別れて二階に向かう。
部屋に入ろうとして、ふと廊下の突き当たりにあるアリーシャの部屋の方を向く。そして何とはなしに呟いたのだった。
「……遠いな」
軍事医療施設で出会ってからというもの、アリーシャは常に付かず離れずオルキデアの側にいた。それは王都に来てからも続き、執務室の隣の仮眠室にアリーシャは寝泊まりしていた。
仮眠室からはアリーシャの生活音が聞こえ、それが当たり前となっていた。
この屋敷ではアリーシャに配慮して、廊下の一番端の部屋を割り当てたが、随分と距離が遠くに感じられたのだった。
「いや、これが当たり前か」
アリーシャとは一時的に結婚しただけの仮初めの関係。全てが終わったら別れなければならない。
未練も何も残さないためにも、これくらいの距離が丁度いい。これくらいがーー。
そうオルキデアは思い直すと、部屋に入ったのだった。