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アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ  作者: 夜霞(四片霞彩)


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移送作戦・当日・下【11】

(これを着れるということは、シュタルクヘルト家の一員であるということ。一族にーー父に存在を認められたということ。だから、ずっとこの軍服が欲しかった)


 これまで、父は慰問どころかシュタルクヘルト家が関する行事には、何も参加を許されなかった。

 兄弟姉妹の誕生日には贈り物を送っても、アリサの誕生日には何もくれなかった。

 学校にも通わせてもらえず、家に関する事は何もさせてもらえず、屋敷の敷地内から勝手に出る事さえ許されなかった。

 何も「もらえなかった」からこそ、父から始めてこの軍服を貰った時は、とても嬉しかった。

 たとえ、父自らがくれなかったとしても。

 それなのにーー。


(貰った時はあんなに嬉しかったのに。でも、今は何とも思わない……何も感じない)


 シュタルクヘルト家に居た頃は、父や誰かに必要とされたくて必死だった。

 その為に、勉強も頑張ったし、いつの日か役に立つかもしれないと、家事も少しずつ覚えた。

 今は息を潜めるように生きているが、いつかは父が自分を必要としてくれると、ただそれだけを信じて。


 けれども、この国に来てからはーーオルキデアと出会ってからは、必死にならなくても必要としてくれた。

 勿論、片付け要員や契約婚の相手という目的はあるだろう。

 それでも、必死にならなくても、ただそこに居るだけで、オルキデアはアリーシャを必要としてくれた。

 他の人たちにとっては当たり前のことかもしれない。

 でも、アリーシャにとっては、それが無性に嬉しかった。


(頑張ろう。もっとオルキデア様の役に立とう。約束が果たされるその日まで)


 オルキデアの母親であるティシュトリアが縁談を諦めるか、別の想い人役をみつけるか、オルキデア自身が最愛の人を見つける時まで、仮初めの妻を演じよう。

 命の恩人で、初めてアリーシャを必要としてくれたあの人の為にも。


「よし!」


 アリーシャは軍服を一度ベッドの上に置くと、ベッド脇のサイドテーブルの側にあったカバンを持ち上げる。

 ベッドの上にカバンを置くと、中身をベッドの上に広げて、これから生活していく上で足りないものが無いか確かめる。

 それが終わると、それぞれクローゼットの空きスペースや、ベッド下の備え付けの引き出しにしまったのだった。


 そうして、空になったカバンを前に、アリーシャは再び白色の軍服を手に取る。

 アリーシャは軍服をぎゅっと抱きしめて、シュタルクヘルト家(国とあの家)との別れをしばし惜しむと、カバンの奥に軍服を押し込める。

 もう二度と、この服に袖を通すことはないだろうと思いながら。


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