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おれから見た親友【13】

 次の日の朝、自宅に戻ったクシャースラが目を覚ますと、まだオルキデアが別室で寝ていることを、通いで来ているセシリアに教えられた。

 昨晩、寝落ちしたオルキデアを連れたクシャースラだったが、迷った末に近々セシリアと夫婦となる自分たちの新居に連れ帰って、オルキデアを寝かせたのだった。


 既にクシャースラはこの新居に住み始めており、正式に結婚をしたら今は毎朝通いで来ているセシリアも、実家からここに移り住む予定であった。

 一般的な軍人の家よりもこじんまりとしているが、セシリアの実家にも近く、また軍部にも近いこの新居をクシャースラは気に入っていた。ーーまさか未来の妻より先に、酔い潰れた親友が泊まるとは思わなかったが。


 あの後、酒場からオルキデアを連れて自宅に戻ってくると、セシリアが使う予定の部屋に毛布を敷いて、オルキデアを寝かせた。

 クシャースラが靴や上着を脱がせている間も、オルキデアは全く目を覚まさなかった。

 そのままクシャースラも自分の部屋のベッドで倒れる様に寝てしまったので、セシリアにはまだこのことを伝えていなかったが、昨日の朝、オルキデアに結婚の報告すると言っていたので、うちに泊まると思ったのだろう。


 何も聞かなくても二日酔いしているであろう二人の為に、野菜を細かく刻んだ胃に優しいスープを用意してくれたので、何と礼を言ったらいいのかわからなかった。


 朝の仕事があるからと、先に帰るセシリアを見送り、温め直したスープを食べていると、ようやく寝ぼけ眼の親友が起きてきたのだった。


(そういや、オルキデアの寝顔は初めて見た気がするな)


 スープを啜りながら、クシャースラは珍しいものを見た気持ちになる。

 士官学校の寮も軍の独身寮もずっと別部屋で、オルキデアの寝起きする姿を見るのはこれが初めてであった。


「おはようさん」

「ああ、おはよう」


 二日酔いが酷いのか、頭を押さえながらオルキデアは向かいの椅子に座る。


「ここで寝てるってことは、もしかして……」

「酔い潰れてそのまま寝落ちしたから、おれの家に連れて来た」


 ここに引っ越す際に、独身寮からこの新居までの荷運びをオルキデアにも手伝ってもらった。それもあって、ここがどこなのか言わなくてもわかったのだろう。

 オルキデアは大きな溜め息を吐いた。


「すまない。面倒をかけたな」

「朝食は? セシリアが二日酔いに効く、消化に良いスープを用意してくれたが」


 眉間を押さえたオルキデアが「いただこう」と答えると、クシャースラはキッチンに向かう。


 軽く温め直したスープを皿によそって戻ってくると、顔を洗ってきたのか、オルキデアの寝ぼけ眼はすっかり無くなっていた。

 それを残念に思いながら、「ほら」と目の前にスープを置く。


「クシャースラ、昨晩だが……」


 クシャースラが席に着くなり、親友は濃い紫色の瞳を向けてくる。


「……色々言ったが、とにかく結婚おめでとう。誰が何と言うと、俺はお前とセシリアの結婚を心から祝福するよ」


「ああ」と返事をしてすぐに、クシャースラは思い直して口を開く。


「『色々』の部分は忘れた。おれも相当酔っていたみたいだ」


 ここでの「色々」というのは、ようやく胸筋を開いて話してくれたオルキデアの両親や自身に関する話を指しているのだろう。


(別に気にしなくていいんだがな……)


 誰にだって、自分が抱えている悩みや真情を吐露したくなる時がある。

 話しづらい内容でも、つい誰かと話している時に、口を滑らせてしまう時があるかもしれない。

 誰かにその悩みを聞いて欲しいと、考えることもあるだろう。

 親友にとっては、お酒の力を借りなければ話せなかっただけであって。


 ただそれを覚えていると、今後の友情関係に影響してくるのなら、今は忘れた振りをしよう。

 再びーー今度は素面の時に話してくれる、その日まで。

 そうクシャースラは密かに決めたのだった。


「……そうか」


 クシャースラの言葉にオルキデアはそれだけ呟くと、セシリアが作ったスープを口に運んだので、クシャースラも同じ様に残っていたスープを口にしたのであった。


 二人が一言も話さずにスープを飲み干す頃には、二日酔いは落ち着いていた。

 その後、いつも以上に無言で帰宅する親友をクシャースラは見送ったのだった。


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