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おれから見た親友【11】

「あの……。手を繋いでもいいですか?」


 クシャースラが恥ずかしそうに手を差し出すと、「ふふふ」とセシリアは声に出して笑う。


「はい。どうぞ」


 そうして、セシリアが差し出した手を大切そうにクシャースラは握り締めたのだった。


 手を取り合って店に戻って来た二人の姿を見て、店内から様子を伺っていた店主とセシリアの母親はクシャースラが上手くいったのだと知る。

 二人は何食わぬ顔をしながらも、若い恋人たちを優しい眼差しで見つめていたのだった。


 その日から、クシャースラはこの花屋の常連客となった。

 無論、目的はセシリアという一輪の花だったがーー。


 それから、セシリアが結婚を決意するまで、一年がかかった。

 セシリアの元に足繁く通って、それとなく説得をしたものの、お互いに仕事が忙しく、またセシリアが当時下町で流行っていた流行病にかかって、入院してしまった事もあり、思うように会えない日が続いた。


 そんな日々を乗り越えて、クシャースラが二十三歳、セシリアが十九歳となるこの年。

 二人は結婚する事になったのだった。


 セシリアが結婚を決めてすぐ、クシャースラは真っ先に報告したい相手を軍部に近い安酒場に呼び出した。


「悪い。遅くなった」


 まだ冬の気配が残る夕方の中、まばらに人が出入りする安酒場に足を踏み入れたクシャースラは、カウンター席の隅に座って、一人酒を飲んでいた親友に声を掛けた。


「いや。俺もさっき来たところだ」


 セシリアと出会うきっかけをくれた親友のオルキデアは、空になったグラスを前に事も無げに言った。

 コートを脱いでオルキデアの隣に座ると、クシャースラの奢りで二人分のウイスキーを頼んだのだった。


「それで、話とはなんだ?」

「セシリアと結婚することになった」

「……そうか。それはおめでとう」


 端的に、そして冷淡に聞こえなくもないオルキデアの声音に、クシャースラは隣を見る。


「あまり嬉しくなさそうだな」

「そんなことはない。セシリアやセシリアの両親からもお前の話は聞いている。お前たち二人はどんな男女よりも似合いの夫婦になると思う」

「じゃあ、どうして……」


 その時、二人の元に頼んでいたウイスキーが届く。

 それきり話は終わり、話題は仕事や軍部、社会情勢、シュタルクヘルトとの戦局に移る。

 再びその話題が出て来たのは、酔ったクシャースラが独り身のオルキデアの将来を心配した時だった。


「オルキデアも、そろそろ相手を見つけたらどうだ。そうすれば、戦勝パーティーや上官のパーティーで女を引っ掛けることもないだろう?」

「あれは引っ掛けているんじゃない。あっちから勝手に寄ってくるんだ」


 この頃から、オルキデアが行く先々のパーティーで出会った女と一夜を過ごしているという噂を聞いていた。

 そんなことをしていたら、他の貴族や上官に目をつけられて、仕事がやりづらいだろうと心配しての言葉だった。


「それに俺は自ら女という弱点を作るつもりはない。……特定の女に振り回される人生はごめんだからな」

「そんな言い方……」

「事実だ。……父上はそれで身を滅ぼしたようなものだからな」


 そうして、オルキデアは自らの両親について教えてくれた。

 これまで、オルキデアから母親の話が一切出て来なかった理由が、ようやく判明したのだった。


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