2話 可憐な少女
俺は、図書館に来ていた。図書館には頻繁にくる。理由も、単純だ。図書館は、情報の宝庫だ。俺は、何時もの様に母さんが居なくなった時代の事件や資料を漁る。
「うーん……ここまで読んだのか。後数冊だな…」
俺は、机に向かうと、1冊のノートを取り出しメモをする。しかし、他から見ればミミズを書いている様にしか見えないだろう。俺は、効率化の観点から、早々に速記術をマスターし実用していた。
「あ、速記術」
横からそんな声が聞こえる。しかし、たまに居る。俺が、速記術を用いて文字を書いていると興味本位で近付いてくる奴らだ。大抵はデメリットしか無いので無視をしているが珍しく違った。
「え……。かわいそう」
「ん?」
手を止め、顔を上げると目の前には可憐な少女が居た。ドストライク。正直驚いた。俺は一目惚れなど無いと思っていたが、間違いだったようだ。
「あ……」
少女は俺に見つかったと思ってか、綺麗なショートの黒髪を揺らしながら走り去ってしまう。しかし、俺に呼び止める勇気など微塵も無い。
「はぁ、俺の恋終了」そんな事を心の中で叫ぶと、俺の妄想を邪魔してくる奴が現れる。
「ん…? 図書館に来て勉強でもしてるのかと思ったら、ミミズの練習ですか?」
「なんだよ、ミミズの練習って。速記術だよ」
「あぁ……何か早く書くあれですよね?」
「あれが何を指しているのかは知らんが、それだ。と言うより、何しに来たんだ?」
「何って酷いですね。一緒に図書館に行こうって言ってたじゃないですか。あ、あとこれ」
幼馴染は、トートバックから本を1冊取り出す。
「遊君。忘れてましたよ」
「あ、悪い。今日も最後までいる予定だったから、危うく返しそびれる所だった。ありがとな」
「いえ、別にそれは良いんですけど……」
「ん? 何かあったのか?」
「いえ、こんな本読むんだなぁと思って」
「え、あぁ。お前には刺激が強かったかもな」
「こいつが懸念してた所は、そこかぁ」と俺は思う。確かに、俺も気の迷いで借りたしな”死者の蘇らし方 入門編”なんて。何時もは、手を出さないオカルトチックな本である。
「遊君は、誰か蘇らせたい人は居るんですか?」
「あぁ、強いて言えば父さんかな」
「え?」
幼馴染は、悲しげに反応する。何故だろうか。疑問は聞くのが1番だ。
「ん? おかしかったか?」
「い、いえ。何故、パパさんなのかなぁと思って。ママさんは? どう思っているのですか?」
食い付いた。俺はそう思い、話をなるべく広げるようにして、会話をする。
「うーん、どうって言われてもなぁ」
しかし、会話の最中に急に区切られてしまう。
「そ、そうですか」
「ん? どうしたんだ」
「い、いえ。私、ちょっと体調が悪くなってしまったので、先に帰ってますね」
幼馴染は、そそくさと帰ってしまう。何だったんだ。そんな事を思いながらも、すぐに続きに取り掛かる。
◆◇◆◇
「はぁ…今日も収穫無しか。さて、本を返して帰るかな」
俺は、借りる予定の本を持ち、返す本を返却すると、外に出る。外は、雨が降っていた。「あれ? 今日は、晴れ予報のはずだったが?」俺は心の中で、可愛い系のアナウンサーを呪い帰り方を思案する。すると、隣から肩を叩かれる。隣を見ると、幼馴染が傘を持っていた。
「あれ? 体調は大丈夫なのか?」
「はい。もう、大丈夫です。それに、私は遊君に傘を届ける義務が有りますから」
幼馴染は、傘を渡してくる。普通の思春期高校生なら、相合傘のシュチュエーションに心ときめかせる所だが、俺は知っている。コイツの母性を。そう、コイツは自分の分と俺の分。計二本を持ってここに参上しているのだ。
「あい、あんがとさん」
「今日の夜は何が良いですか?」
「今日か……ハンバーグとか?」
「うーん…お肉が心許なかった気がします」
なんでコイツが家の冷蔵庫を管理しているのか? 今更にそんな疑問が浮かび上がって来るが、無視を決め込む。
「まぁ、何でもいいぜ。お前の好きな物で」
「そうですねぇ……だったら…お刺身にしましょう。昨日買っておいたんです」
そう言えば、母さんと寿司を食べに行ったのを思い出した。確か…サーモンが一番好きだったっけ。そんな、他愛も無いことだが、俺はそれを忘れないように、心のノートに書き留める。何かの情報になるかも知れない。
「どうしたんですか?」
「いや、じゃあ今日のよるご飯は刺身だなーと思ってさ」
「あ、遊君。あれが無い」
「あれって?」
「わさびですよ。遊君好きだったじゃないですか」
「あぁ、別に無くても構わないぞ?」
「駄目です。私、買って来ますね。先に帰ってて下さい」
幼馴染は、そう言い残すと雨の中走って行く。
◆◇◆◇
「今日は、歓迎会だぞ」
「誰のですか?」
「誰のって、そりゃ遊の隣に座ってるだろ? 可愛い女の子が?」
「健吾さんってロリコン趣味があるんですか?」
「な……」
「な、な、な……なんて事を言うんですか。パパさんはちゃんとおっぱい大きい人が好きなんですよ」
ポカーン。俺は空いた口を手動で占める。
「いや、別にそこまで行っては無いんだが?」
幼馴染は、顔を赤くして恥ずかしがる。ちょっと可愛い。
「あ、そ、そうですよね」
「まぁ、いいんじゃないか? 別にそれくらい普通だし」
「え、遊君も。そ、そう言うのが好きなんですか?」
「俺か? 俺は別にどちらでも無いが」
「ヘ、へぇー」
幼馴染は、チラッと自身の胸があるであろう場所に視線を向け、すぐに戻す。
「さ、さぁ。ご飯冷めちゃいますよ?」
「そ、そうだな」
俺は、刺身を食いながら考える。勿論母さんの事だ。俺は何時も食事の時に今日の情報を整理して、過去の情報て照らし合わせる。しかし、特に目新しい情報は無かった。強いて上げるのなら、今日会った女の子が可愛かった位だ。ふと、幼馴染を見ると、サーモンを美味しそうにほお張っていた。
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