1話 幼馴染は母性の塊!?
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「遊く〜ん。おはよぉ」
聞き馴染んだ甘ったるい声。その声で俺は夢の中から現実へと戻される。
「ん……あぁ、おはよう」
朝の挨拶を交した相手は、容赦なく思春期の俺の部屋に入ってくる女。普通の高校生なら、色々と隠す物も有るだろうが、あいにく普通と少し外れて生きて来た俺には特に無い。
「ほら、早く顔を洗って歯磨きして、それからご飯食べちゃってね。今日も作ったから」
別に同棲をしている訳では無いのだが、こいつは毎日の様に俺の家に居る。義父も特に何か言う訳では無いし、何なら一緒に朝ごはんを食べる始末だ。
「出たか。さ、2度寝でもするかな」
俺は、そう思い布団を肩まで上げ、暖かな温もりを感じながら2度寝をするべく目を瞑る。
しかし、暖かな温もりは消え失せ、代わりに肌寒さと、フライパンを叩く音が耳を刺激する。
パンパンパンパンパン
「ほら、起きろー。ご飯冷めちゃうでしょ」
そう、まさしくこの女が布団をめくりあげたのだ。
「あ、あぁ。起きた起きた」
「嘘だ。そう言ってまた寝るんでしょ? いくら土曜日だからって、何時までも寝てないの。たまにはパパさんのお見送りでもしたら?」
お節介だ、うるさい、そんな事を思うが何故か俺はコイツの事が憎めないで居た。俺は、勢いをつけて立ち上がると、背の小さな幼馴染を見た。
「おぉ、起きた。おはよう、遊君」
幼馴染は、笑顔を見せる。その笑顔は汚れを知らず純粋無垢であった。
「あぁ、おはよう」
俺は、トイレへ向かうべく部屋を出たが幼馴染は後ろを付いて来る。
「ん? 何か様か?」
「え、あぁ。別に……ただ…何処に行くのかなぁって思って」
「トイレだよ」
「そ、そう。なら、良かった。早く来て下さいね。朝ごはん冷めちゃうから」
幼馴染は、笑顔で1階のリビングへと向う。俺は、2階のトイレで用を足すとリビングへ降りる。
「よぉ、今日は良い天気だなぁ」
リビングで、パンを噛りながら新聞を読んでいた男が居た。義父だ。義父は、締めたのか締めてないのか微妙な感じのネクタイをしている。
「まるで、会話のできない人間みたいですね。健吾さん」
「あ、そ、そうか」
「もぉ、ちゃんとパパって呼びなさいよ」
幼馴染が、俺にそう叱ってくる。実際俺が義父の事を、お父さんや親父、ましてやパパ等と呼んだ事は一度も無い。
健吾さんは、本当の父親の親友だったらしい人だ。本当の父親は、俺が産まれてすぐに亡くなったらしい。母さんも幼い頃の記憶ならあるが、それ以降はどこに行ったかは知らない。
健吾さんに聞くと、何時も歯切れが悪いように、”病気”で亡くなったと言うが、俺は知っている、1度健吾さんが酔っている時に聞くと、”交通事故”で亡くなったと言った。本人は、覚えてないようだが、俺は覚えている。母さんには何かある。まだ、生きているかも知れない。何故か、そう確信している。
「はい、パパさん。コーヒーですよ」
「あ、あぁ。ありがとう」
「はい、遊君はココアです」
「あ、あぁ。サンキュ」
幼馴染は、俺の隣に座ると、パンを噛りながら話しかけてくる。
「遊君、今日は予定あるんですか?」
「ん……まぁ、本の返却日が、今日までだったから図書館には行くかな」
「へぇ、私も一緒に行って良いですか?」
「あぁ、別に構わないが」
「あ、もうこんな時間か」
健吾さんが、腕時計を確認して慌て始める。しかし、俺は見慣れた光景であった。健吾さんは、何時も慌てている。そんな、健吾さんのサポートをするのも幼馴染だ。幼馴染は、ネクタイを締め直し、ジャケットをかけてあげると、お弁当を渡す。
「ありがとう」
「いえ、大丈夫ですよ。好きでやってる事ですし」
「疑問なのだか、おばさんは何も言わないのか? 何時もここに居るし、お前、寝るとき以外ここに居るよな?」
今日は少し攻めてみる。おばさんとは、幼馴染の母親である。俺の予想では、幼馴染のコイツも、母さんの事を知っているはずだ。たまにだが、健吾さんがボロを出すとフォローしたりしている。
「あ……それはだな…えぇっと」
「えぇ、別に何も言いませんよ? それに、家も隣なので何かあれば直ぐに帰れますし」
「ふーん。最近おばさん見ないけど元気にしてるか?」
「えぇ、勿論元気ですよ」
「へぇ、じゃあ今から挨拶でもしに行こうかなぁ」
俺はまたしても攻めた。今日は、なんとなくだが進捗がありそうな気がしたのである。
「え、えぇと……それは…あ、忘れてました。今日から1ヶ月、旅行に行くんでした。そう、それでもう出てってしまったのでこっちに来たんですよ」
「そ、そうだったな。あ、だったらうちに泊まらないか? 1ヶ月位なら大丈夫だし。遊も良いよな?」
「こいつが……まぁ、良いですよ」
断ろうとも思ったが、そろそろ俺も、社会人だ。社会人になれば母さんを探す事も困難になる。なので、何か知ってるであろう幼馴染を家に招き。情報を聞き出す。
「えぇ、いいんですかぁ? じゃあ、直ぐに支度してきますね」
幼馴染は、すぐに玄関から出ていってしまう。
「あ、やっべ。言ってくるな、遊」
健吾さんは、腕時計を見るとそう零す。大急ぎで、鞄を持つと玄関へ走り抜ける。
「はい。行ってらっしゃい」
なんやかんやあって、母性強めの幼馴染との同棲が始まった。
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