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皆で探索しよう!

「シィさん。そのアイテムの鑑定文を読んでみてくださいな……」


 やけに神妙な調子で、オータムフォールお嬢様は私へ告げる。ちなみにシィってのはUPの中での私の名前だ。現実の名前が四季だしそれに関係した名前にしたいけど、シーズンって付けるのもありきたりかなーって思った結果がこれである。


「どれどれ……」


 私はお嬢様から返されたアイテムを見る。

名前は『ホラーンの核心』となっていた。鑑定率は60%だ。私は言われた通りアイテムの説明を見る。


――――

『ホラーンの核心』{60%}

アイテム:素材


[パライオン・ホラーン]の核心コア

パライオン深部にて見られる古代機械の核心の中では、最も初期に作成されたもの。

しかしながらホラーンの用途に特化されているため、これより前のプロトタイプが存在していたと推定されている。

――――


 私は何がオータムフォールお嬢様をここまで慌てさせたのか全く分からなかった。


「全く分からん」


 私は理解を放棄した。

こういう時は何やっても駄目だ。時が来るか人に教えてもらうのを待つしか無い。


 お嬢様は額に手を当てる。

その動作が説明を求める私に対する面倒さなのか、厄ネタを発見してしまった辛さなのかは分からない。


「……この、“深部”という部分が問題ですわ」


「つまり?」


「詳しく説明すると長くなるのですが……とりあえず、説明しますわね」



――――



 詳しく説明された。

どうも〔パライオン遺跡〕が“他と比べて”狭い”ダンジョンらしく、狭まっている部分に何かあるのでは無いかと以前から推察されていたらしい。

で、そこで私が棚ボタ式に持ってきたのが〔パライオン遺跡〕の深部云々の話だそうだ。


 要するに、〔パライオン遺跡〕には誰も知らない深部がある。それが確定したことが問題だそうだ。


 はぁーなるほどね。

これ初心者の私が関わっていい話じゃないでしょ。私まだプレイ開始してから1日目だよ?


 オータムフォールお嬢様は意を決したように私へ語る。


「――シィさん。探しましょう。深部への入口を」


「いや今日遅いし嫌」


「えっ」


 嫌だよ。私ゲームで夜ふかしとかしたくないもん。

知ってる?夜ふかしってお肌に良くないんだよ。私ゲームより肌の方が大事だからさ。

完全没入型のVRゲームだとどういう扱いなのか分かんないけども。


「あ、ちなみに明日リア友と遊ぶ用事入ってるから明日も無理。明後日で良い?」


「そ、そこをなんとか……」


「そう言われても。っていうかどうしてそんな深部を調べたいの?生産職ってそこまで新エリアの開拓と関係無くない?」


 私は突っ込んだ。戦闘スキルを鍛えていれば別だが、生産職って大体戦いたくなかったり戦えない人がなるイメージがある。戦闘必須のエリア開拓に乗り込む必要があるのだろうか。

お嬢様は答える。


「ありますわ。端的に答えるのであれば新素材ですわね。ある個人しか知らない素材があるなら、その素材を知るプレイヤーの価値がグンと上がります」


「いや私欲かーい」


 私は突っ込んだ。

バリバリ私欲じゃねぇか。個人的な興味っていうならまだ分かったけどさぁ。


「まあ……お嬢様と一緒にっていうのは無理かな」


 そういうことになった。



――――



 で、翌日。

私は白雪ちゃんを最初の街の広場で待っていた。


「遅いですわね……」


「そっすね」


 オータムフォールお嬢様と一緒に。

結局私はあの後根負けしてしまったのだ。白雪ちゃんと一緒に遊ぶ時にこいつが混ざってくる。そして、遊ぶ予定に〔パライオン遺跡〕の探索を入れる。この二つを承諾してしまった訳だ。


 今思い返せばやっちまったと思ってる。

いやでもさー。涙ながらに訴えられたら流石に受け入れるしかなくない?私そこまで下衆じゃないよ。

まあいいや。白雪ちゃんはオッケーしてくれたし。


 ちなみに、白雪ちゃんは私のゲーム内での名前を知っている。だが私は教えてくれなかったので白雪ちゃんのゲーム中の名前を知らない。

どうもサプライズをしたいそうだ。一体名前にサプライズをどう込めるのか知らないが、まあ楽しみにしておこう。


 なんだろう。滅茶苦茶奇抜な名前で来るとかかな?

私は名前を雪むしゃぶりつきお姉さんだと予想したよ。さてどうだ。


「シィ!やっとここへ来たのね!」


 私は見知らぬ人に話しかけられた。

いや見知らぬ人じゃない。確かに知らない人だが、顔や体格のどこかに白雪ちゃんの面影がある。間違いない。この人は白雪ちゃんだ。


「一日前には来てたけど!もしかして?」


「ええ、私よ!」


 私達は手を合わせてきゃっきゃっとする。


「ユユキって名前なの?可愛いね!」


「ありがとう、シィ。あなたも良い名前だと思うわ」


 私はとりあえず隠されていた名前を褒める。

しっかしアレだな。ユユキってめっちゃ普通の名前じゃん。雪むしゃぶりつきお姉さんじゃないの?


 ……というか、これのどこにサプライズ要素が?意味が分からん。

そう感動の再開から立ち直って頭にクエスチョンマークを浮かべていると、横でオータムフォールお嬢様がガクガクと震えているのが目に入ってきた。


「お?どったの」


「いや、あの、どうして冷静で居られるんですか貴方は!?こ、ここ、この人……超有名な方――UPのガチ勢ですわよ!?」


「んん?ユユキちゃんってそうなの?」


 私はユユキちゃんの方をちらっと見る。

ユユキちゃんは少し照れくさそうに腰に手を当てた。


「そう……なのかしらね。まあ、気にしなくて良いわよ」


 私はユユキちゃんの言うことを無視した。


「ねぇ、ユユキちゃんどれくらい凄い人なの?」


「え、えっと……現時点で進度的にはおそらく一番の場所にいますわね。それと、VR適正も凄まじくて……装備等も含めるのなら戦闘力的にはプレイヤーの三本の指に入りますわ」


「えっやば」


 私は震えた。いやそれはやべぇわ。相当凄い人じゃん。というか確かに白雪ちゃんって昔からハマったものにはトコトンハマる人間だったけどさ。熱中しすぎでは?

そう考えていると、私はユユキちゃんからこんな指摘を受けた。


「と、いうか……オータムフォールさんも凄い方なんだけど。どうして連れてこれたの?」


 お嬢様はその言葉を受けて焦る。


「へっ!?え、いえ……そ、そんなことありませんわよ。普通の鍛冶師ですわ」


 私は自称普通の鍛冶師を無視した。


「ユユキちゃん。この人ってどれくらい凄い人なの?」


「そう……ね。鍛冶師としての腕ならほぼゲーム中でトップクラスよ。ギルド等には入っていないから、その部分で付き合いにくいと噂なのだけれど……」


「えっやば」


 私は震えた。いやそれはやべぇわ。相当凄い人じゃん。まあこんだけキャラが濃かったらギルドに入ってないのも頷けるか。いや頷けるか?


 あ、鍛冶師の話聞いて思い出したわ。そうそう。

私はインベントリから、飾り気のない金属の色をした雪の結晶型のネックレスを取り出した。


「ユユキちゃん、これプレゼント!素材は私が集めたの。本当はもっと凄いの買うつもりだったんだけど……」


 それを見て、ユユキちゃんは目を輝かせる。


「わぁ、ありがとう!……シィ。その気持ちだけで十分よ。一生大事にするわね。それと、オータムフォールさん。作ってくれたのはあなたよね?シィの気持ちに応えてくれて、ありがとう」


 ユユキちゃんは差し出した私の手を覆うようにしてネックレスを手に取る。

トレード成立だ。早速ユユキちゃんはネックレスを付けた。このゲームは見た目用にアイテムを装備することができる。その機能を使ったのだろう。


 ユユキちゃんはコホンと咳払いをする。そろそろ本題に入るのだろう。


「とりあえず。〔パライオン遺跡〕の適正レベルは4以上なので、まずは《大草原プライリエ》のフィールドに出ましょうか。狩りをしてレベルを上げましょう」


「りょーかーい」


「わ、分かりましたわ」



――――



「お嬢様ー!」


「すみませんわー!」


 お嬢様が角の生えたウサギにタックルされる。お嬢様は死んだ。



――――



「オータムフォールさん!」


「すみませんわー!」


 お嬢様が犬に噛みつかれる。お嬢様は死んだ。



――――


「お嬢様……」


「すみませわぶっ」


 お嬢様が子鬼の棍棒をモロに受ける。お嬢様は死んだ。



――――



 それから更に何回かお嬢様は死に、お嬢様が復活して戻ってくるのを待っている時。


「よし、お嬢様置いてこっか」


「そうですね」


 そういうことになった。

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