答えを出そう!
そんなこんなで、最高難易度の攻略が終わってから少し。
既に先程までの5人で居たパーティは解散し、それぞれがそれぞれの場所へと帰っていた。
そんな中ユユキちゃんからある程度の承諾を得た私は、リーフスプリングさんの元へと赴いていたのだ。
リーフスプリングさんは、中世風の街並みの中群衆に囲まれていた。
まあ最高難易度の初クリア者だし、人当たりも良いからそりゃね。私的には一番絡みやすそうってのもあるんじゃないかと睨んでいるが。
「よっ」
軽く手を挙げ、私はリーフスプリングさんに声をかける。
「あっ!シィさん!」
リーフスプリングさんがそう反応すると同時に、周囲からどよめきが上がる。
そして群衆は私とリーフスプリングさんに道を開けた。いや私のことを何だと思ってんだよ。
「え、っと……どうしたんですか?」
「ん、ちょっと話したいことがあってね。でもここで話すのはちょっとアレだからさ、一緒に来てくれない?」
私は困惑しているリーフスプリングさんの手を掴んだ。
リーフスプリングさんが頬を少し染める。群衆からは更にどよめきが上がった。
やめろやめろ、私らそういうのじゃないから。
ほら行った行った、今からプライベートな話をするんだよ。
そう言うと、面倒な奴等はキャーキャー言いながら去っていった。ったくよぉ。面倒な奴等だ。
「ま、とりあえず行こっか。適当に人の居ないところにさ」
私はリーフスプリングさんの手を引いた。
――――
「お、ここ結構綺麗じゃん」
私は始まりの街をほっつき歩き、最終的によく分からない場所にある小さな広場へとたどり着いた。いかにもファンタジーです、と言わんばかりの広場だ。蔦が周りの家から垂れていたり、よく分からんが光る虫っぽいのが飛んでいたり。うん、人も居なさそうだし。ここで良いか。
月と星の光が差し込む中、私はリーフスプリングさんの方を向く。
「リーフスプリングさん」
私は、相手の目をしっかりと見る。
それで大切な話と理解したのだろう、硬直して繋いでいた手がこれまでよりも強く握られるのを感じた。
「――私は」
……これが、私の出した答えだ。
後悔は、しない。
「この世界では、貴方の想いに答えるよ」
この世界で。
一瞬リーフスプリングさんは理解できなかったみたいだったけど、すぐさまその意味を理解したらしい。
一瞬だけ、リーフスプリングさんは憂いを帯びる。
けれど、すぐさま彼女は笑顔を浮かべた。
「……ふふっ。シィさんなりに、考えてくれたんですよね。ありがとうございます」
そして、リーフスプリングさんは私の手を空いていた方の手で更に取った。
「それなら、私もこの世界では好きにさせてもらいますね」
そうして、私達は一緒に寄り添いながら座って景色を眺めた。
そんな時の、リーフスプリングさんの呟きはしっかりと私の耳に入ったのだった。
「私、今――とっても、幸せです」
――――
そして、UPからログアウトして。
私は急いで、昔はいつも通っていた公園へと向かった。
「あっ!ご、ごめん。遅れちゃった?」
「いいえ、時間通りよ。私が早く来ただけ」
息を切らして公園にたどり着いた私を待っていたのは、ユユキちゃん――白雪ちゃんだった。
公園には、今の時刻が夜ということもあり人は全く居なかった。それに、最近は公園を使う人がほとんど居ないのもあるだろう。
私達は、しばし適当なベンチで寄り添いながら景色を眺めていた。
今日の天気は曇り。月は雲によって隠されていて、星はあまり見えない夜空だ。街並みも、UPの世界のように派手で美しいなんてことは無い。
だけど、これもこれでアリかな。そうも思えた。
「白雪ちゃん」
「ええ、分かってる」
白雪ちゃんは、手を私の手に重ねてきた。
私は、それをされるがままに受け入れる。だけど。
「でも、言わせて。言わないと……私が納得いかないから」
私は、白雪ちゃんの方に向き直る。
「――この世界では、私は白雪ちゃんと一緒に生きたいの」
私は、白雪ちゃんを見つめる。
白雪ちゃんは、大きく間を空けた後に答えた。
「勿論。私もよ」
そのまま、私達は抱き合った。
白雪ちゃんが、耳元で私に囁く。
「私、今凄い幸せよ。ありがとう」
――――
そういう訳で、私は再度UPにログインして事の顛末をナツハさんに伝えた。
正直ここが一番怖かったのだけれど。
ナツハさんは、私の話をうんうんと咀嚼し、ゆっくりと頷いてから口を開いた。
「2人共、あえて嘘を付くような人間じゃない。そう言ってたなら、きっとそうさ」
「そっか……!」
私は、そのナツハさんの言葉を聞いて更に嬉しくなった。
良かった、私の答えは認められたんだ。そう感じたからだ。
私の出した答えは、最良のものじゃなかったかもしれない。けれど、それでナツハさんを笑顔にできたし、リーフスプリングさんと白雪ちゃんは嬉しいって言ってくれた。
なら、私の中では正解だ。
「よくやってくれたよ!ありがとう!」
そう1人感慨にふけっていると、突然ナツハさんから抱きしめられた。
いや、苦しい苦しい。ギブギブ。
私はナツハさんの腕をペチペチ叩く。しかし、ナツハさんは力を緩めようとしない。
「ナツハさん!シィさんはここでは私のなんですから!」
そう思っていると、リーフスプリングさんの声が聞こえた。
その言葉を聞いたナツハさんが「あぁ、悪いね」と言って手を離す。サンキューリーフスプリングさん、助かったわ。
「いえ、困っている人が居たら助けるのが私の信条ですから。それより、早速……で、デートに行きませんか?」
リーフスプリングさんは、頬を赤らめながら私に告げてくる。
私は答えた。
「今日は夜遅いから……なるべく短めだと嬉しいな」
夜ふかしはお肌に悪いからしないというのが私の守るべき規範の一つだが、まあたまには良いだろう。
「あ、ありがとうございます!」
私とリーフスプリングさんは手を繋ぐ。
っても、私UPの世界全然知らないんだよね。どこに良い景色があるとか知らんし。まあ、その辺はおいおい勉強しないとだなぁ。
「行ってきな。あたしはここで待ってるからさ」
そう言うナツハさんの顔は、どこか晴れやかだった。
――――
翌日。
5回目に鳴ったアラームで飛び起きた私は、急いで家の中のゴミをまとめていた。
やばいやばい、ゴミ出しの時間に間に合わなくなる。
仕方がない、着替えはまた後だ。とにかく今はゴミを出すぞ!
私は運良く前日にまとめておいたゴミ袋を引っさげ、部屋を飛び出た。
そんな私と同じように、よく私の壁を叩いてくる隣人も部屋を飛び出ていた。どうも同じく寝坊したらしい。
「あ、もしかして私と同じ感じで?」
私は声をかける。隣人は女の人で、若干ほつれた寝間着っぽい服を着ている。壁を叩かないって部分では私の方が勝ってるが、他の部分では色々と負けている感じだな。
隣人は私の質問に答えた。
「うん、そうなの。ちょっと忙しくって」
私達はそう言葉を交わしながらダッシュでゴミを出す場所へと向かう。
私はあんまり運動できない、っていうかしたらいけないんだけど、今日は仕方がない。耐えてくれよ私の足。
「はぁ……はぁ……」
そんなこんなで、私達2人はなんとかゴミを出すことに成功した。
「いやぁ、危なかったっすね……」
私は肩で息をしながら隣人に話しかける。
「本当だね……」
私達は2人して笑い合う。
そのまま、私達は部屋に帰るまで談笑モードに入っていた。寝間着なことを忘れて。
「いやぁ、私実はゲームやってて夜ふかししちゃったんすよ。そっちは?」
「うん、私もそうだよ。ゲームをやりすぎちゃって……」
へー、隣人もゲームとかやるんだ。壁ドンのイメージしか無かったからなぁ。
もしかしてUPだったりしないだろうか。私はそんな淡い期待を込めて聞いてみる。
「へぇ、そうなんですか!え、もしかしてそのゲームってUPだったりします?」
「あ!そうなんだ!私もUPなの。奇遇だね」
っしゃぁビンゴ!
それを聞いて、私は隣人と熱く握手した。ぶんぶんと腕を振る。
「あ、なら今度遊ばない?私、結構UPだと有名なプレイヤーだから。きっと驚くと思うよ」
そう隣人は提案してくる。良いね、素晴らしい流れだ。私はそれに乗ることにした。
「良いねぇ!私も結構有名だからさ、きっとビビるよ。……あ、じゃあ早速遊んじゃう?」
「うん、いいよ」
こうして、私は隣人とUPを遊ぶことにした。
しかし、ここで予想外の出来事が生じたのだ。
「私、シィって名前でやってるの。そっちは?」
「え」
そう言った瞬間、隣人の人が固まる。
どうしたんだろう。私の名前があまりに有名だからかな。
「わ、私はお、おー……秋田五郎って名前でやってますわ……ます」
完




