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皆で戦おう!

「お嬢様!ヘイト稼ぎお願い!」


 私は叫ぶ。

その言葉に、お嬢様は頷いて大量のモンスターがひしめく場所へと突っ込んだ。


 私達が今選んでいる難易度は最高のものだ。だが、だからといって攻略の流れが変わったりはしていない。

まず雑魚敵の大群が襲ってきて、それをある程度駆逐したところでボス格が出てくる。そしてそいつを倒せば終了だ。


 しかし、流石最高難易度というだけあって最初に出てくる雑魚敵の時点で強い。

正直雑魚と形容すらできない強さだ。一体一体が低めの難易度に出てくるボス格レベルの能力を持っているのではないだろうか。


 まあでも、私とお嬢様以外は今の所動いてすらいないんだけどね。強すぎかあんたら?


 さて、そうこうしている間に私の指示で敵軍に突っ込んでいったお嬢様があちらこちらに爆弾を投げる。最高難易度なので爆弾一発で敵を倒せはしなかったが、そのダメージはヘイトを向けるには十分なものだった。


 私達を取り囲む敵軍の半分程が、なんとか群れを突き抜けたお嬢様の方に向かって動き始める。いや良く抜けられたなあそこ。お嬢様の回避能力おかしいだろ。


「リーフスプリングさん!吹き飛ばして!」


 私はリーフスプリングさんに伝えた。頷いて、リーフスプリングさんは魔法の詠唱を始める。数十秒後、杖から極大の火球が放たれた。

お嬢様が走り続け、一直線に敵がまとめ上げられたところを火球が襲う。


 そのまま綺麗に敵は焼き尽くされ、私達の視界に[隊長格の出陣注意]というシステムメッセージが表示された。


「なるほど、半分くらいでボスが出るのね」


 ユユキちゃんが呟く。1つ下の難易度だと7割倒さないと出てこなかったことを考えるとその呟きはもっともだった。

実質半分モンスターが残ってる状態で戦うんだからなぁ。これはキツイぞ。


 しかし、そうは言っても敵は待ってくれない。派手なエフェクトと共に、ボス格のモンスターが登場した。


「デカいな……」


 ナツハさんが言う。確かにそのモンスターは巨大だ。5階建てのビルくらいはある。昔戦ったギガントジェリーフィッシュの1.5倍くらいか。いやギガントジェリーフィッシュってなんだっけ。私知らないぞそんな敵。


 それはそれとして、今の相手はギガントよりも殺意が高そうな気がする。よくファンタジーとかに出てくる巨人とかオークとかを足した感じの見た目で、右手には棘のついた棍棒を持っているのだ。


 そして、顔に付いた左右の目と額にある目、合わせて3つの目が私達を睨みつけていた。要するに殺る気満々だった。


「わっ!?」


 私は反射的に〈盾変性〉を空中に使って突然降ってきた雷を防ぐ。

見れば、フィールドの至る所に雷が落ち始めていた。


 私は3人の居た場所を見回す。どうも最初だけ雷は全プレイヤーの元へ落ちるらしい。

ユユキちゃんはどうも雷を刀で斬ったらしく生存していた。ナツハさんは謎の身体能力で回避。リーフスプリングさんは……ダメだ。流石に避けられなかったか。まあゆるふわって感じだもんなあの人。


 そう思っていると、ナツハさんが雑魚敵の攻撃が飛び交う中どうにかリーフスプリングさんを蘇生アイテムで回復させた。


「あ、ありがとうございます」


「良いってことさ。それよりあいつをなんとかしないと」


 しかし、そう言ったナツハさんの表情は暗い。きっとここで蘇生アイテムを使うのは予想外だったからだろう。

蘇生アイテムには持ち込み制限がある。3個だ。

私とユユキちゃん、ナツハさんが蘇生アイテムを持っている。また蘇生魔法にも強烈な制限がかけられている。つまり蘇生はできて4回か5回。この時点で1個使うとは全く思ってなかったのだろう。


 ……あれ?そういやお嬢様どこ行ったんだろうな。ボスの出てきた辺りに居たけど。

まいいや。あの人のことだし多分いつか生きて帰ってくるでしょ。


「リーフスプリングとシィは雑魚の処理を!あたしとユユキでボスを叩く!」


 ナツハさんが叫ぶ。そのままユユキちゃんと一緒にナツハさんは駆け出した。

瞬間、ボスの額の目からビームが発射されるもユユキちゃんがそれを叩き斬る。第二撃に棍棒が振り下ろされたが、ナツハさんが短剣で弾く。


 その光景を見てツッコミたいことは山程あったが、今は雑魚じゃない雑魚敵を倒すことに専念しなくてはいけない。

私はリーフスプリングさんに向かって言う。


「リーフスプリングさんは私の後ろに!」


「は、はい!」


 間一髪で〈盾変性〉を使ってリーフスプリングさんへの攻撃を防ぎながら、〈斧変性〉で創った斧を使い敵をなぎ倒す。当然殺せはしないが、隙さえ作れたなら問題は無い。

こうして戦闘は進んでいった。



――――



 それから3分程が経過した。

巨人っぽい奴の咆哮によって吹き飛ばされたユユキちゃんとナツハさんが、私達の元へ飛ばされてくる。

ついでにお嬢様も戻ってきていた。迷子だったらしい。


「そっちは大丈夫かい?」


「はい、大丈夫です」


 ナツハさんとリーフスプリングさんが軽く言葉を交わす。

奇跡的に、あれから死人が出ることは無かった。なんでか知らんが、雑魚敵が確認していた数より少なかったからだ。雷で死んだのかな?


「そっちはどう?」


「それが……時間が足りなさそうなの」


 ユユキちゃんが悔しそうに言う。

この攻め込む戦闘には、制限時間がある。10分だ。

今の所5分が経過していたが、ボスはまだピンピンしていた。おそらくHPを全く削れていないんだろう。


 そこから、後5分ボスを倒すことは不可能に近いと見たんだろう。HPを見ることのできるスキルとかもあるっぽいし、それで残りHPから逆算したのかもしれない。


「何か良い手は無いか?あたしらだけじゃ思いつかなくてさ」


 ナツハさんが言う。なるほど、こっちに吹き飛ばされたのはわざとか。

うーん、でもあいつを良い感じに倒す手って言ってもねぇ。


 そんな時、リーフスプリングさんが敵を魔法で殲滅しながら手を挙げる。


「こういう時って、よく弱点とかありますよね。そこを狙ってみるとかは……」


「なるほど、弱点ね」


 私は頷く。

うーん、あいつの弱点か。弱点……。


 ……目くらいしか無くないか?


「そうね」


「そうですわね」


「そうだね」


「ですね」


 他の4人も頷く。

パッと見で思いつく弱点は、目くらいしか無かった。額のデカい目を見ていると、それしか思いつかなかったのだ。


「あたしなら目に攻撃はできるが……ダメージはそこまで入らないね」


 ナツハさんが言う。

それ5階建てビルに登れるって言ってるようなものじゃね?私は怖くなったが、すぐさま思考をゲームに引き戻した。


 ナツハさんの武器は短剣だ。おそらく、そこまで威力の出ない武器なんだろう。


「この中で一番火力が出るのって?」


「私ね」


 ユユキちゃんがボスのレーザーを斬り伏せながら言う。

なるほどなぁ。ナツハさんが運ぶことは?


「厳しいね」


 そっかぁ。

……しょうがない。私が一肌脱ぐか。


 私はインベントリを開く。リーフスプリングさん、ユユキちゃんにバフお願い。

ユユキちゃんを、どうにかしてあの高さまで連れてくから。


「なるほど、アレですね。分かりました」


 リーフスプリングさんは頷く。そっか、この人はあの時一緒だったな。


「ナツハさん!お嬢様!なんとかボスまでの道を開けて!」


「あまり本業では無いんですけど!」


「任せな!」


 2人は頷く。

お嬢様と一緒にナツハさんがボスを取り巻く敵陣へ突っ込む。

お嬢様がヘイトを稼ぎ、ナツハさんが自分にヘイトの向いていない敵を一撃で葬り去る。その連続によって、ボスを取り巻く敵の群れの中に一本の道ができた。


「行くよ、ユユキちゃん!」


「ええ、シィ!」


 私達は顔を見合わせて頷きあった。

開いた道を駆け抜け、三つ眼の巨人のすぐ前にまで私達はたどり着く。


「これでっ!」


 私は開いていたインベントリから『生成石』を取り出し、投げつける。

『生成石』は、使うと2階建てくらいの大きさの建物を足元と周囲に創り出すアイテムだ。


 これを2個か3個使えば、相手と同じ高さにまでたどり着けるって寸法よ!


 割れた『生成石』から建物が伸び始めた。まず1個。そして私達は巨人の腹の辺りまで高度を上げる。


「次に――」


「シィ!危ない!」


「へっ?」


 私はユユキちゃんの声を聞き、注意を周囲に向ける。

すると、一つの異変に気づいた。巨人の腹から、巨大な砲門が生えてきているのだ。


 ……いや、なんだよそれ。そういうのあるなら早めに言ってくれよ。

しかし、そう言ったところでもう遅い。腹から生えている砲門から、極太のレーザーが一本放射された。


 私は〈盾変性〉を使って盾を創り出す。ユユキちゃんもそのレーザーを斬ろうと試みた。

だけど、そのどれもが無意味だった。盾は溶け、ユユキちゃんの刀はレーザーに取り込まれる。


 ちぇっ。良いところまで来れたと思ったんだけどなぁ。

そう内心愚痴を吐いたが、そう言ったところで現実は変わらない。


 こうして私達は最高難易度の攻略に失敗した――筈だった。


「シィさん!まだですわ!」


 私は、そんなお嬢様の声を受けて思考を引き戻す。

……あれ?私、生きてる?


 そんな時、私の首にかけていた十字キーっぽいアクセサリーがふわりと浮かんで光った。

――そうだ!『東西南北の首飾り』!


 あれの効果って確か、死ぬ攻撃を受けても1回耐えるって効果だった!完全に忘れてたわ!


 どうも私は悪運が強いらしい。砲門はその一発のレーザーだけで閉じたようだった。

私はニッと笑みを浮かべ、持っていた蘇生アイテムでユユキちゃんを蘇生する。


 まだまだ試合は終わってなかったみたいだな!行くぞ!

私は『生成石』を更に2個建物の屋上に投げつける。


「ユユキちゃん!任せた!」


 敵の額にある目の少し上までたどり着いた私は、ユユキちゃんにそう言う。

ユユキちゃんは、大きく頷いた。


「ええ!最大火力の必殺技、お見舞いしてやるわ!」


 そのまま、ユユキちゃんは飛び上がって――。






[ユユキ・オータムフォール・リーフスプリング・ナツハ・シィのパーティが最高難易度をクリアしました]

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