いざ最高難易度へ!
「最高難易度?」
他3人がそれを告げられて一瞬固まった中、私は全く固まらずに疑問を口にした。
なんせ知らないし。
ユユキちゃんは答える。
「ええ。今回のイベント、侵攻される以外にこちらから攻め込むこともできるの。その攻め込む際に設定できる難易度ね」
「なるほど」
私は理解した。
なるほど、そこにこのメンツで行こうという訳か。
そう独り納得していると、お嬢様が声を上げた。
「え、えっと。最高難易度と言うと……あれですよね?あの、クリア者が居ないっていう。私、どんな装備を作れば?」
おや、どうも分かってない奴がもう1人居たようだな。
そんなお嬢様に対して、四方八方から言葉が飛んでくる。
「オータムフォールさん。貴方も参戦してもらうわ」
「えっ?お嬢様来ないの?」
「オータムフォール。あんたも一緒に挑むんじゃないのか?」
「……来ないんですか?」
お嬢様は、それを聞いて顔を真っ青にした。
「え、これ……私も一緒に行く流れなんですか?」
そのおどおどとした声に対し、ユユキちゃんは満面の笑みで答える。
「勿論」
――――
「で、なんでナツハさんが来たの?」
私は敵の攻撃を間一髪で躱しながら戦場を駆け抜けるお嬢様を見ながらナツハさんに質問する。
今、私達は最高難易度に挑むために必要な条件を満たしに来ていた。
最高難易度を解放するために必要なことは2つ。まず1つ、ユニークモンスターを倒していること。
これに関してはお嬢様も私も満たしている。〔パライオン遺跡深部〕で人形機械をはっ倒したからだ。
え、ギガントジェリーフィッシュ?私知らないそんな敵。
で、もう1つの条件。それは最高難易度の1つ下の難しさでこのイベントをクリアしていることだ。
こっちについては、イベントに対してノータッチだったお嬢様とイベント自体をほとんど知らない私は達成していなかった。
という訳で私とお嬢様は既に達成済みの他1名に寄生してクリアしようとしていたのだ。
で、さっきの質問に繋がるのだけれど。他1名に関しては、本当に誰でも良かった。ユユキちゃんでも、リーフスプリングさんでも。
けれど、そんな時にナツハさんが名乗りを上げたのだ。あたしが行きたいと。
どうしてナツハさんがそう言ってまでここに来たのか。その質問に対して、ナツハさんはどこか遠くを見ながら答えた。
「……あんたに。シィに、答えを用意して欲しいんだ」
お嬢様は知り合いのプレイヤーに作ってもらったらしい爆弾を適当に撒いて雑魚敵を殲滅しながら戦場を走り回っている。まあとりあえずはお嬢様に任せといていいか。ナツハさんとの会話に集中しよ。
「答え?」
私は聞き返す。
答えとは一体何なのか。今の所ナツハさんの言葉の意図が読めない。どういうことだろうか。
「これはあたしの勝手な願いだ。でも、2人に答えを出してやって欲しい。ユユキとリーフスプリングに」
……なるほど。大体話は読めたぞ。とはいえ一応しっかり聞いとくか。
ナツハさんは語る。
「あんたが〔パライオン遺跡深部〕に行って、ここに集まるまで。その2日間の間に、リーフスプリングからあんたとユユキの関係を少し聞かせてもらった」
一瞬の間。
「――だから、もう無理にリーフスプリングとよろしくやってくれとは言わない。だけど、どんな選択をするとしても……あいつを幸せにしてやって欲しいんだ」
ナツハさんは、尚も語り続ける。
そろそろお嬢様死にそうだけど大丈夫なのかな。
「だけど、だからといってユユキもないがしろにしないで欲しい。ユユキとあたしは、色々あって離れちまったけど……昔は友達だったんだ。向こうが覚えているかは知らないけどさ」
あ、そうなの。
それ初めて知ったぞ。ユユキちゃんとナツハさんの間にそんな関係があったとは。全く勘付けなかった、悔しい。
「本当に、身勝手な願いだってことは分かってる。だけど――2人共を、幸せにできる。そんな選択肢を選んで欲しいんだ」
ナツハさんは、そう言って語りを終えた。
……なるほどね。私は話を聞き終えた後に、【変性術】で剣を創って立ち上がる。
「任せといてよ。私は人呼んで“人たらしのシィ”、拗れた人間関係なんてちょちょいのちょいだから!」
「……へぇ、そうかい。それは頼もしいね」
無論、今勝手に作った呼び名だ。とはいえ、実際そんな感じもするし。
よし、お嬢様が雑魚を良い感じに一掃してくれたな。残す所はボスくらいだ。行こ、ナツハさん!
「ああ!」
私達は2人並んで駆け出した。
――――
「な、なんとか……なんとかクリアしてきましたわ」
「クリアしてきたよー」
という訳で雑魚の殲滅は妙にヘイトを稼ぎやすいお嬢様に任せ、ボスはナツハさんに任せる完璧なチームワークを決めて私達は帰ってきた。最高難易度ではないし、そこまで難しくもなかったからね。
「じゃあ、このまま行ってもいいかしら?」
ユユキちゃんが確認を取ってくる。
私とナツハさんは問題なかったが、お嬢様がちょっと休憩が欲しいらしいので少し休むことにした。
そして急遽設けられた休憩時間。皆は思い思いのことをして遊んでいた。お嬢様はグッタリしてたけど。
そんな中、私は暇ができたので早速あの問題をどうするか考えていた。いやマジでどうしよう。あの時はノリで言っちゃったけど2人共を幸せにできる解法とか全く思いつかんぞ。
そんな時だ。私は突然後ろから話しかけられた。
「……シィさん。相談があれば、乗りますわよ」
お嬢様だった。
……えっ?そう困惑する私をよそに、お嬢様は私の隣に座る。
「話は、ある程度聞いていましたから。1人で抱え込むのはあまり良くないと思いますわね」
お、お前……。
「まあ、答えはシィさんが出すのが筋だと思うけど。……でも、そこに至るまでのお手伝いくらいなら、怒られないと思うから」
お嬢様はクスっと笑った。いつの間にか、オータムフォールお嬢様が普通の口調になっている。……きっと、これは私に対して本心から会話しているということを伝えたいんだろう。
真面目に相手になる。それを伝えるために、こうしてくれたんだろう。きっと。
「お、お嬢様ー!」
私はお嬢様に抱きつく。ありがとう!ありがとうホントに!私お嬢様と知り合えて幸せ!
「全く。そうやってすぐスキンシップを取って。あんまり良くないよ?勘違いする人も増えるんだから」
一瞬、間が空く。
「それじゃ、一緒に考えよっか」
……んん?言葉の間に何か言ってたような。
まいいや。今はそれを気にする時間ではない。これは火急の要件だからな。
後でお嬢様に土下座しよ。そう思いつつ、私は休憩時間の間お嬢様と相談をしたのだった。
もしや、お嬢様はこのためにバテたフリをしたのではないか。そんな考えが少しよぎったが、まあお嬢様だし無いでしょ。……無いよね?
――――
「……その顔。“答え”が出たんだね?」
休憩が終わって。ナツハさんが、そう問いかけてくる。
「勿論」
私は一言だけ返した。
あれから、お嬢様と話すことで私は自分のできる一番の回答を出した。
ありきたりだと、笑われる答えかもしれない。
もしかしたら、答えにすらなっていないかもしれない。
――だけど。これが、私の出した答えだ。
誰に、何と言われようが。私が最良だと考えて、選んだ答えだ。
私にもう迷いは無い。
「じゃあ、最高難易度に行きましょうか。皆、準備は良い?」
ユユキちゃんが音頭を取る。私含む4人は頷く。
「それじゃあ、行きましょう!」
私達の目の前に、ポータルが開く。
そんな中、私は密かに焦っていた。
……やっべぇ、答え出したは良いけどさぁ。それをどのタイミングで言うか全く考えて無かったぞ。どうしよう。
 




