とりあえず探索終了!
「ひぃぁああ!流石にっ!そろそろ厳しいんですけれど!?」
突如降ってきた人形機械の目の間に立ちはだかり、攻撃をうまい具合に躱しながらお嬢様は叫ぶ。
戦闘が始まって既に10分は経過していた。なのにあんだけ元気そうなのは凄いな。尊敬に値するわ。
うーん、お嬢様は回避盾として優秀なんだなぁ。
そう思っていたら斬撃の波がこっちにも飛んできたので私は屈んで回避する。
「リーフスプリングさん、何か良い感じの魔法無い?あれ倒せそうな奴」
私は隣でその光景を見つめているリーフスプリングさんに尋ねる。勿論隙を見て【変性術】で殴りはしているが、硬い金属の装甲に阻まれてそこまでダメージを与えた感じがしないのだ。というか隙がそもそも少ない。
「今回セットしたスキルは対多数に向いている【闇魔法】なので、高火力な魔法はセットしていないですね……」
申し訳無さそうにリーフスプリングさんは答える。そっかぁ。
『記憶の断片』は人形機械のコアっぽいところに持ってかれた。だから『記憶の断片』だけを持ち逃げすることもできない。
「ひいっ!」
そう悩んでいると、流石に猛攻を捌ききれなかったのかお嬢様が攻撃に当たってピンボールのボールみたいに吹っ飛んだ。
即座にリーフスプリングさんが蘇生魔法を唱え、壁に反射しているお嬢様を復活させる。
流石は辻ヒールの達人だ。高速移動するターゲットに対して即座に蘇生できるとは。
「そ、そろそろしんどいんですけど……」
お嬢様はそう息も絶え絶えになりながら言う。まあそうっすよね。
しかしかといってこちら側から有効打を与える方法もそこまで見当たらない。
何か無いかなぁ。そう思っていると、人形機械は自身から白い煙を吐き出してエネルギーをみなぎらせた。
……なるほどね。
「リーフスプリングさん、何か動きを止められる技ってある?」
「えっと……あ、鎖で縛る技ならあります。でもあれだけ速く動いていると、当てられるかどうか……」
「分かった、じゃあ私がちょっとだけ足止めするからその時お願い」
私はそれだけ言って、〈剣変性〉を使って剣を二振り創り出す。二刀流だ。
私は駆け出す。少し前で回避盾をするオータムフォールお嬢様の横をすり抜け、目前に迫る刀を創り出した剣で弾く。
そのまま更に『燃焼石』を使った〈槍変性〉で槍を創り、人形機械に突き立てて時間差で炎を吹き上げさせた。
私はそうして注意を引かせた後走り抜け、最初に創り出した二振りの1つを床に叩きつけて折る。
私を追ってきた機械が、その途中にある折れた剣を踏みつける。私が折った剣の素材は『粘石』だ。強い粘り気のある液体を踏みつけた機体は思うように足が上がらず、その場に転倒した。
「リーフスプリングさん!」
私は声を上げる。
リーフスプリングが目の端で頷いたのが見えた。
「【闇魔法】、〈チェーンバインド〉!」
なんかよく分からない暗い空間へと繋がっている穴が機体の周辺に開き、そこから鎖が伸びてくる。それらは人形機械をあっという間に縛り上げた。
「よっし!」
私は喜び勇んで機体に飛び乗る。
確か白い煙を出してたのはこの辺だったか。私はその場所を発見すると、そこに剣を再度創って突き立てた。
「まだまだー!」
私はその突き立てた剣をガシガシ蹴る。てこの原理で開かないかと私は期待しているんだけど。
今の所一番良い鉱石で創った剣だし、開いて欲しいなぁ。
そう思っていると、リーフスプリングさんが声をかけてきた。
「シィさん、私がやりますよ」
え、マジで?じゃあ頼むわ。
私はすっと離れる。
「〈影遣:腕〉!」
リーフスプリングさんがまたよく知らない魔法を使う。それはまたポータルを開き、影の人を出した時みたく巨大な腕を呼び出した。
そして、その腕は思いっきり横から剣を殴る。剣は折れた。
……。
あ、でもちょっと開きができた。
お嬢様ー。カモン!
「え、私必要なんですか?」
「そりゃもう。爆弾この中に入れて欲しいんだけど」
お嬢様と言ったら爆弾だろう。持ってなかったらどうしようねこれ。
「一応ありますけれど……入ります?」
「あるなら早めにやってほしいな、そろそろ鎖の拘束ちぎられそうだし」
鎖はプルプルしている。そろそろヤバイんだろう。
お嬢様ー!早くしてくれー!
私が陰ながら口に出して応援すると、お嬢様は焦り始めた。いや焦んなよここで。妙にドラマチックにしなくて良いから。
「えぇい!」
お嬢様は目をつぶって爆弾を開いた排出口に突っ込んだ。
そのまま爆弾は内部で爆発する。
私が無理矢理排出口を開けた箇所である肩から右腕にかけての部分が綺麗に吹っ飛ぶ。
あれ、胴体吹っ飛ばないじゃん。なんか思ってたのと違うぞ。
更に悪いことに、なんか人形機械の目の部分が赤く染まった。
あ、これ覚醒とかありなんですか。
……お嬢様、回避盾頼む。
私は逃げた。
――――
「けっ、手こずらせやがって」
私とお嬢様は胴体だけになった人形機械をゲシゲシと蹴っていた。
結局私達は綺麗な倒し方を思いつかず、なんとか足止めして鎖で繋いで爆弾を突っ込むというさっきの作業を四肢全てに適用して終了した。最後の一本とか鎖で繋いだ瞬間に弾き飛ばされるレベルだったけどなんとかなったわ。良かった良かった。
ちなみに足止めの方法はお嬢様と私がセミみたくくっついて引き倒したのが2回、忘れた頃の『粘石』が1回だ。
「リーフスプリングさん、やっちゃってくださいよぉ」
一通り満喫した後、私は下卑た笑みを浮かべてリーフスプリングさんに告げた。
リーフスプリングさんは頷いて魔法をチャージし、これまでに見たものよりもサイズが数段上の巨大な腕を降らして戦闘は終了した。
[【変性術】のレベルが6になりました]
[〈剣変性〉のレベルが3になりました]
[〈盾変性〉レベル1を習得しました]
[シィ・オータムフォール・リーフスプリングがユニークモンスターを討伐しました]
[シィ・オータムフォール・リーフスプリングが『記憶の断片』を入手しました]
そんなシステムメッセージを聞きながら、私達は『記憶の断片』を手にして〔パライオン遺跡深部〕をひとまず後にしたのだった。私はまだまだいけたが、リーフスプリングさんとお嬢様の物資が尽きたらしいのだ。まだまだこのダンジョンは深そうだけど、それはまた来ればいいか。
――――
それから2日後。
〔パライオン遺跡深部〕から帰った後、ユユキちゃんから「私は明後日戻るから、できたら明後日の夜18時に始まりの街の広場に来て」という主旨のメールを受け取っていたので、私はそれに従って広場へ遊びに来ていた。
「それはアレだね、思うようにしたら良いんじゃない?結局頼れるのは自分だけなんだしさ」
そして私は一足早く来て知らない人と駄弁っていた。
「あ、ありがとうございます!」
「良いってことよ。んじゃね」
私は視界の端にユユキちゃんの姿を捉えていたので、知らない人との話を適当に切り上げた。
すると、突然視界が暗闇に包まれる。
「だ~れだ!」
「いやユユキちゃんでしょ」
私は即答した。全く、貴様の姿は既に捉えてるんだよ。後声で分かるわ。
「つまんないわねぇ」
「いや、流石にそんな古典的な手法でリアクションする奴は居ないと思うけど」
居たら逆に怖いわ。そんなの居たら見てみたいよ。
「だ~れだ」
「へっ!?ちょっ、え、何なんですか!?罰ゲームですかこれ!?」
居たわ。オータムフォールお嬢様が……。
私は哀れみの視線を送った。お嬢様とリーフスプリングさんが何かやってる。そしてそれを見てナツハさんが笑っていた。
というかこんなところでトッププレイヤー達は何をやってるんだ。呼び出してきたユユキちゃんは良いとしても。
そう思っていると、ユユキちゃんはその3人組の方へと近づいていった。
……え、もしかしてこの人らも呼んだの?
「皆、集まってくれてありがとう」
あ、やっぱユユキちゃんが呼んだんすね。
しかし不仲のリーフスプリングさんも呼ぶとは。一体どうしたんだろう。もしかしてビジネス不仲とか?
そう思っていると、ユユキちゃんは驚くべきことを口にした。
「早速、本題から入らせてもらうわ。ここに集まってもらった理由は1つよ。――今回のイベントの、最高難易度を攻略しましょう」




