深部を探索しよう!
パライオン遺跡深部の入口前。掘ったら最初にこれを見つけた時みたいな機械の残骸がいくつか出てきたので、それを漁りたいというお嬢様の要望を受けて私はしばし腕を休めていた。
そんな時だ。リーフスプリングさんが突然こんなことを言い始める。
「あ!私、シィさんとユユキさんの出会いとか、今に至るまでの流れとかが気になるんですけど……聞いてもいいですか?」
どうしてそれを聞くのか、私には分からなかった。敵情視察とかだろうか。……まあリーフスプリングさんなりに考えでもあるんだろう。私はそれを考えたくは無いが。
「あぁ、それは気になりますわね」
お嬢様もそれに同調する。
自分じゃない人と人の付き合いの歴史なんて聞いても面白くないと思うけどなぁ。ま、聞きたいってんなら話すけど。
そうして、私はユユキちゃん――つまり、白雪ちゃんと出会った時から語り始めたのだった。
まあ、流石に2人の前で白雪ちゃんとは言わないけどさ。
私はユユキちゃんとの出会いの前提となる、怪我をした話をしながらダンジョンへと入っていく。
[〔パライオン遺跡深部〕に入場しました]
「私、昔は才能に恵まれていた訳じゃなかったけど……アスリートになろうと頑張っていたんだよね。でも、怪我でその道は突然閉ざされた」
これまで明るかった周囲は、ダンジョンの仕様なのか演出なのか突然暗くなった。
おそらく、そういうダンジョンなんだろう。初見だから何も分からないけどさ。
「ちょっ!?この暗さ大丈夫なんですか!?」
とりあえずお嬢様は無視するか。
リーフスプリングさんは真面目に聞いてくれてるし。それに、この話できる相手なんて居なかったしなぁ。
「まあそんな訳で、希望も、生きがいも、全てをいっぺんに失って――そうして絶望していた私を、救ってくれたのがユユキちゃん」
右往左往するお嬢様が、何かのスイッチを踏む。瞬間、人工的な青い明かりが真っ暗だった道に点いた。
お嬢様は安心したのか、一息ついている。
私達は周囲を警戒しながらゆっくりと歩き続ける。
長い一本道を抜けると、繋がったのは大きな部屋だった。
「ユユキちゃんは、ふさぎ込む私を連れ出してくれた。最初はちょっとした所へ、段々と広いところへ」
ブザーが鳴り響く。おそらく警報音だろう。
急に大きな音が聞こえたからか、お嬢様が悲鳴を上げた。
しかし異変は終わらない。ブザー音が響く中、どこからか沢山のモンスター達が這い出てきた。どうも戦うしか無いらしい。
「けど、当時のまだうまく動くことができなかった私には色々と辛いこともあった」
「【闇魔法】……〈影遣:人〉!」
リーフスプリングさんがなんかよく分からない魔法を使う。
詠唱を終えると、私達の影の中から人の形をした真っ黒な物体が出てきた。
いや何だよその魔法。かっこよすぎか?
後でリーフスプリングさんに教えてもらお。正直今すぐ教えて欲しいレベルなんだけど、今はなんか真面目な話をするタイミングっぽいしやめとくか。
怯えるお嬢様の横を駆け抜けていった影がモンスターの機械達と熱いバトルを繰り広げる。
「そんな時でも、ずっとユユキちゃんは前に立ってくれていた。私を守ってくれたの」
影は、何度か攻撃を受けながらもモンスターを倒した。しかし、その攻撃の影響かふらついている。
大丈夫かな、と思っているとリーフスプリングさんが回復魔法を唱えた。すると影はたちまち元気になる。
いや、影にも回復魔法効くのかよ。それ馬鹿みたいに強くない?最強じゃん。
というか影ってどうなってんのかな。触ったら冷たいの?
「で、不思議に思った私はユユキちゃんに聞いてみたの。どうしてそこまで助けてくれるのかって」
私は歩き出して、影をペタペタと触ってみる。熱かった。
一番予想外なの来たなぁ。熱いのは予想できないわ。
「そしたら、こう言ってた。“昔辛かった時に、貴方の必死に努力を続ける姿を見て助けられたから”って。ユユキちゃんも、私が練習場にしてた公園の常連客だったんだって」
不意にもう1つの白いライトが点灯し、更なるブザーが鳴り響く。それに合わせてさっきとは別機種っぽい新しいモンスターが湧き出てきた。
どうもそのモンスター達はリーフスプリングさんが呼び出した影を狙っているらしかった。ぜってぇさせねぇ。影なんかかっこいいもん。ずっと居て欲しいわ。
私は【変性術】を使って剣を手に呼び出し、影の前に立ってモンスターを切り捨てる。
「その時、私はユユキちゃんも同じ人間で、悩みだってあるし嫌なことだってあるってようやく理解したの。それで、そこからは代わる代わるお互いをサポートし続けた」
影も戦線に飛び出てくる。私は半分くらいを影に任せて残る敵を切り刻み、そうして第二波を倒し終えた。
私は剣を突き立てる。
「ま、そんな感じかな。って訳で影の魔法教えて欲しいんだけど」
これで自分語りの時間は終わりだ。
お嬢様が道を進み始めたので、私も同じく進みながらリーフスプリングさんに詰め寄る。
「……じゃあ、私の話を聞いてくれたら。そしたら、どうやればさっきの魔法が習得できるのかを教えますね」
あ、もしかしてこれ自分語りの流れ継続するパターン?
いや別に良いけどさ。それくらいなら普通に聞くし。
「良かったです。なら、私とシィさんの馴れ初め……話しますね。それと、私の気持ちも」
おっとぉ?なんか変な感じの空気になってきたぞ?
しかし、一旦良いと言ってしまった以上もう話すなと言うのもアレだ。私は諦めて話を聞くことにした。というか今日は元から結構変か。
「あ、それもそれで気になりますわね」
お嬢様がそう言う。まあ確かに気になるよな。どうしてリーフスプリングさんがこうなってるのか私も知りたいもん。よし、じゃあ聞いてみるか。
リーフスプリングさんは私達の前に躍り出て、歩きながら語り始めた。
「私は、家でずっとやることが無くて。暇だったんです。……そんな時、家族と唯一の友達からの“自分を変えられるかも”という勧めでこのゲームを遊ぶことにしました」
私達はまた道を抜けて、次の大部屋へと進む。
うわ、また暗い。しかもなんか周りにめっちゃ機械あるのが若干見えるんだけど。
これアレでしょ、絶対何かしたら起動して襲いかかってくるパターンでしょ。
「でも、私は人と関わることが苦手でした。だから最初は、周りの人全員が怖くて。――だけど、そんな私を助けてくれた人が居たんです」
おっ、何かスイッチあんじゃん。
お嬢様、リーフスプリングさん、気をつけといて。そう警告だけして、めっちゃ引き止めてくるお嬢様を無視しつつ私はスイッチを押した。
瞬間、パッと大きな明かりが再度点く。
……あれ?襲われない。え、もしかしてマジでただの置物?
ビビらせやがってよぉ、こけおどしかよ。
「それが、シィさんでした。初めてのVRMMOに戸惑う私へ優しく話しかけてくれて。そして、私の背中を押してくれたんです。その時の会話は、今でも思い出せます」
そうリーフスプリングさんが言うと、突然私の声が流れ出す。
『他の人が怖い?あー分かる分かる、私も昔そうだったわ。でもねー、そういう気持ちを頑張ってこらえて仲良くしてみると楽しいよ?マジで』
『うーん、じゃあアレじゃない?辻ヒーラーになってみたら?それならゆるく人と繋がれるしさ。それで徐々に慣れてったら良いと思うよ』
あー、そういやそんなことを言ったような気がするわ。
……ってことは、私これのせいでリーフスプリングさんを辻ヒーラーの最強プレイヤーにしてしまったのか。
「唯一の友達も、そう言ってくれたかもしれません。……でも、知らない人だったシィさんが言ってくれたから、きっと……知らない人とも、関われるようになったんだと思っています。それから、私はシィさんのことが気になり始めました」
私はリーフスプリングさんからの視線が怖くなったので前に出た。後ろを、リーフスプリングさんが着いてくるのをなんとなく感覚で察する。
「それから。私は、シィさんのことを無意識に追うようになりました。よく、シィさんと雑談に興じていたのも。バトルロイヤルの時、転送される前に一緒だったのも。シィさんのことが気になっていたからです」
私達は階段を降りる。
そして、階段を降りきった先の部屋で。何かよく分からない物体が光を放っているのが見えた。
それを見た瞬間、お嬢様が駆け出していく。
……あぁ、あれが『記憶の断片』って奴か。
「だけどその時の私は、その自分の気持ちが分かりませんでした。……でも、今なら分かるんです」
……リーフスプリングさんの視線を感じる。滅茶苦茶感じるんだけど。
そう焦る中、お嬢様は光るアイテムを手に取った。
「私、シィさんが――」
その時だった。突然、何か金属が落下した音が聞こえる。
「ほんっとすみませんわ!敵モンスターです!しかもユニークモンスターですわ!助けてくださいぃ!」
そんなお嬢様の悲鳴が聞こえてくる。あんな堂々と何かありますよ感満載で置いてあるアイテムなんだから何かあるのは当然でしょ!
「あぁもう!お嬢様先行するから!」
とはいえ、パーティメンバーが死ぬのは良くないだろう。私は駆け出す。リーフスプリングさんも後に続いた。
チイッ……ユニークモンスター戦か!正直ユニークモンスターがどんだけ強いか分からんが、こうなった以上やるしかない!
「はあっ!」
私は【変性術】で武器を創り出した。




