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深部に行こう!

「ちょ、シィさん!何してたんですか!?」


 それから、1週間(・・・)後。

謎の間を開けてインした私を出迎えたのはオータムフォールお嬢様だった。

え、でも私とお嬢様ってフレンド登録してなくない?どうして私がインしたって分かったんだこの人。


 まあいいや。とりあえずお嬢様の疑問に答えるか。


「リアルの用事」


「あっ……はい」


 お嬢様は納得した。

私に迫っていた、どうあがいても太刀打ちできない魔の手――即ちリアルの用事。私がログインできなかった理由はそれに尽きるのだ。


 私も、まさかここまで時間がかかるとは思わなかった。マジで。

というか完全にパライオン遺跡の深部に行くつもりで居たもん。用事中ずっと深部のこと想ってたよ。


 って訳で、私炭鉱行くから。

そう言って私は手を振るが、なんかお嬢様は着いてきた。


「あれ、どうしたの?」


 何かを決意したような顔つきで、お嬢様は口を開く。


「……シィさん。炭鉱の中に、深部の入口があるんですよね?」


「うん、そうだよ。別にお嬢様なら鎌かけなくても教えるけど」


 そう答えると、お嬢様が「うっ」とうめく。いや、その鎌かけは分かりやすすぎるわ。

それに、別にわざわざそんなことしなくても普通に聞かれたら教えるし。


「まあ、それなら話が早いですわ。……シィさん、私も一緒に連れて行ってください」


「今すぐ行けるかは分からないけど、それでも良いなら」


 どうしてお嬢様が行きたがってるのかは不明だ。まあでも、きっとお嬢様なりの理由があるんだろう。

という訳で、私はオッケーして一緒に炭鉱に臨んだ。



――――



「おいコラこれくらい掘れよ!なんとかしてさぁ!」


 私はキレていた。お嬢様に対してではない、自分というプレイヤーに対してだ。

あれから私はパライオン遺跡深部の一部らしき物体が存在した場所を、2階層分追加で下に掘ったのだけれど。


「それは……そうですわね」


 お嬢様も同意する。

そう、入口が見えたのだ。

見えた、だけなのだが。


「ぐっ……ぐぐぐぐ……」


 私はなんとか体を滑らせて隙間に入ることができないか試みる。

そう、1cmくらいしか入口が見えていないのだ。

そして、悲しいことにこれ以上掘ることはできない。階層の問題である。


 これより下は[炭鉱第六階層]に区分されるらしいのだ。

私はキレた。チラ見せすんなよマジで。運営は何を考えてんだ。私は意見を送った。


「……まあ、こうなったら仕方が無い。頑張ってレベル上げるわ」


 運営に意見を送ったことによりクールダウンした私は、お嬢様にそう告げる。

ごめんお嬢様、深部に行けるのはもうちょっと後になりそう。


 今の【採掘】レベルが23で、あのツルハシが採掘力+217だから私の採掘力は実質447か。これまでレベル10ごと……つまり採掘力100ごとに新しい階層が掘れてたし、この流れでいったら必要なのは採掘力500だろう。であれば後6レベル……それくらい上げるのにかかるのは2日くらいかな。


「明後日くらいまで探索無理かも、ごめん」


「いえ、全然大丈夫ですわ。準備ができたら連絡お願いします」


「了解」


 そういう訳で、私は【採掘】スキルのレベル上げのためにまた炭鉱に籠ることにしたのだった。


――――


[【採掘】のレベルが29になりました]

[〈至福の時間〉のレベルが3になりました]

[〈採掘範囲増加〉のレベルが5になりました]

[〈疲労軽減〉のレベルが7になりました]

[〈危機察知〉のレベルが5になりました]


[〈鉱物レーダー〉レベル1を習得しました]


[〈採掘家の幸運〉レベル1を習得しました]


[〈オーバーディグ〉レベル1を習得しました]



[『石炭』を355個入手しました]

[『鉄鉱石』を212個入手しました]

[『銅鉱石』を101個入手しました]

[『錫鉱石』を52個入手しました]

[『鉛鉱石』を34個入手しました]

[『輝く鉱石』を21個入手しました]

[『輝く鉱石』を5個入手しました]


[『燃焼石』を5個入手しました]

[『光石』を7個入手しました]

[『粘石』を3個入手しました]

【『生成石』を4個入手しました】

【『文様の描かれた石』を1個入手しました】


【『謎の宝石』を2個入手しました】

【『謎の宝石』を1個入手しました】


※ロスト分減算済み

――――


 そして明後日。


「いやー、久々にシャバの空気を吸えるなぁ」


 そんなことは無いが、私はそんな気分だった。

うーん、第五階層だからかちょくちょく死んだがなんとかレベルを上げたわ。

掘った穴からガスが吹き出る音がした時はマジで死ぬかと思ったぞ!死んだけど!


 水スライムのカスミもよく頑張ってくれた、えらいな~。

そう私はカスミを撫でようとしたが、その手はバシッと弾かれた。

え、何なのこいつ。親と違って愛想ねぇな。


 けっ。いいさ、お前がその気ならこっちにも考えがあるんだよ。

食らえ必殺くすぐり攻撃!ほら逃げることはできまい!うりうり~。

そうカスミと戯れていると、不意に横から声が聞こえる。


「わぁ、シィさんにもそんなかわいい一面があるんですね~!」


 ……えっ。

馬鹿な、見られただと?


「そういうことは本当に誰にも見られない場所でやるべきでしたわね」


 げぇっ!

リーフスプリングさんだけならまだしもお嬢様も居やがる!


 というかどうやって私が出てきたタイミングを知ったんだよ。炭鉱にログアウト通知は出ないぞ。

……まさか、出待ちしてたとか?そんな、いつ出てくるかも分からない状況で?私は恐れおののいた。


「まあ、それは置いておいてください。あ、それと……春さんも一緒に連れていきたいのですが、大丈夫ですか?」


 いや置いとけるかよ。ネットストーカーの問題だぞこれは。

そう突っ込みたくなったが、とりあえずお嬢様の質問に対して答えることにした。


「別に、お嬢様が良いなら良いけど。というか、どうしてリーフスプリングさんを連れていきたいの?」


 深部をできるだけ隠しておきたい、という気持ちはあまり無い。どっちかと言えばそこに頓着するのはお嬢様の方だろうし。というかそれよりリーフスプリングさんがどうして来るのか気になる。


 その質問には、お嬢様の方が答えた。


「それなんですけど、〔パライオン遺跡〕に行った時。ユユキさんが全力を出すレベルの部屋で情報が手に入りましたよね。であれば、今から行く場所もそれ相応の難易度なのではないかと考えまして」


 そういやそうだったな。確かにそこを考慮すればお嬢様の言うことはもっともだ。


「つまり、強いプレイヤーを連れていきたいってこと?」


「その通りですわ」


 なるほど、それなら納得はいく。納得はいくんだけど。


「嫌って訳じゃないんだけどさ、どうしてリーフスプリングさんなの?」


 どうしてリーフスプリングさんなんだろう。

バトルロイヤルイベントの時のお嬢様の反応を思い出す限り、あんまり関わりとか無さそうなのに。


「あ、それについては……ユユキさんがインしていないので、なんとかツテを頼って春さんと連絡を取ったんです。知らない人を呼ぶよりも、知ってる人が来た方が良いでしょう?……一応私の商品を買ってくださる方ですし、ちょっとした繋がりはあったんですわ」


 お嬢様は胸を張る。あ、その気遣いは普通にありがたいわ。パライオン遺跡の深部に突撃するぞ!ってタイミングで急に知らん人が出てきたらビビるし。


 というか、さらっとお嬢様ユユキちゃんが居なかったのでリーフスプリングさんにしましたって本人の前で言ってるけど大丈夫なのか?

いや、大丈夫か。お嬢様そんな失言するタイプじゃないしな。おそらく本人に対して既に言ってるんだろう。


 よし、これで不明な所は無いな。心置きなく深部に突入できるって訳だ。

……いや待てよ?どうして2人は私が炭鉱から出てきた丁度のタイミングに居たんだ?


「シィさん、準備は大丈夫ですか?」


「えっ?あ、勿論。一応いつでも行けるようにしてあるから」


「じゃあ早速行きますわよ!」


 いやちょっと待って。

だからなんで2人は私がシャバに出たピッタリのタイミングで居たんだよ。

やめて、引きずらないで!教えて!そこマジで気になってるから!


 そう私は暴れながら文句を言うも、必死の抵抗はいともたやすくリーフスプリングさんの圧倒的腕力に押し込められる。そのまま私は問答無用で炭鉱へと連れ込まれたのだった。

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