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なんとかしよう!

「固すぎだろ……」


 私はあれから45分くらいこのビッグジェリーフィッシュと戦い続けていた。

正直、私の集中力は限界に近い。というかもう帰りたい。

とはいえ流石に向こうも体力が少なくなってきたのか、攻撃を激化させたり散らばっていた眷属っぽい奴を集めたりとし始めてきていた。


「どっちが先に倒れるかだな……!」


 海の底に刺した剣の柄の上に立ちながら、私は呟く。

【変性術】によって創り出した弓矢で襲いかかってくる眷属っぽい小さめのクラゲを撃ち落としながら、私は作戦を考える。


 おそらく、アイツの体力は残り少ない。

そうじゃなきゃここまで攻撃が激しくなることは無いだろう。で、あればすることは1つ。

私も頑張る。以上だ。


 よっし、作戦は決まったな。

後はあのデカいクラゲを倒すだけだ!


 私はそう決心して、創り出した剣を二振り構えてデカいクラゲに突撃する。そんな私にクラゲの触手が3本ほど襲いかかってくるが、1本は剣を投げて逸らし、もう1本は空中で武器を創って二段ジャンプすることでうまい具合に回避。最後の1本は避けられなさそうだったのでHPで受けた。HPがガッツリもっていかれて画面が赤くなるが関係無い。またポーションを飲めば良いだけの話だ。


「食らえ!」


 私は残る1本の剣をビッグジェリーフィッシュに突き刺す。

最後の『燃焼石』で創った剣だ、コイツは効くぜ。


 しかし、反撃と言わんばかりにクラゲが謎の電撃を放ってくる。

当たる寸前でポーションを飲むことには成功したが、そのために電撃をモロに食らってしまう。結果として私は麻痺の状態異常になり、真下に広がる海へと落下することになった。


 あっやばいこれ。麻痺ってるせいで海から出られないんだけど。これはアレか?酸欠で私が死ぬか麻痺が治るかの勝負って訳か。いやでも腰の深さしかない海で溺れ死ぬのダサすぎでしょ。絶対嫌だわそれ。


 そう思っている時、時間差で刺した剣が猛火に変わる。それを体内から直接味わったクラゲが大きくよろめき――そのまま海へと倒れた。


 死ぬほどデカい物体が海に落ちたこともあり、物凄い波が《大海オセア》の海へと巻き起こる。

……ちょっと待って?私アイツのドロップアイテム目的で倒したんだけど。確かドロップアイテムって死体に触らないと貰えなかったよね?


 そう焦っている時だ。私の元に、1つの通知が流れた。


【シィがユニークモンスター「ギガントジェリーフィッシュ」を討伐しました】


 ……。


 …………は?


 いや、えっ?

どういうこと?


 え、さっきまで戦ってたアレってビッグジェリーフィッシュじゃ……ないの?


 私は混乱した。

……そ、そういえば私、お嬢様からビッグジェリーフィッシュについて見た目とかの話は何も聞いてなかったぞ。

この辺に生息してる、っていう話だけで……。


 そんな私の目の前を、さっきまでビッグ……じゃなかった、ギガントジェリーフィッシュが使役していたと思われる眷属っぽい奴がふよふよと通り過ぎる。

……アイツの眷属っぽい奴、そういやギガントと比べると小さめだったな。まるで、私が最初想定していたサイズくらいに……。


 ……や、やっちまった。

絶対そいつがビッグジェリーフィッシュじゃん!クソァ!

私はそう悪態をつきながら、酸欠によって死に戻ったのだった。



――――



 始まりの街に死に戻ってすぐ。私は早速好奇の視線に晒された。

どこからか「あいつシィじゃね?」「え、マジ?あのユニークモンスターの?」とか聞こえる。私はユニークモンスターじゃねぇよ。


 しかし、そうか。あの通知はやっぱりプレイヤー全員に流れるのか。クソッ、お嬢様とメイド契約なんて結ばなきゃ良かった。


「あ、ど、どうもー。シィです~」


 私はペコペコとしながらその場を通り過ぎようとする。

だが、その場を無事に去ることはできなかった。知らないプレイヤーから声をかけられる。


「シィさん……ですよね。あの、私生産職をやっていまして。良ければギガントジェリーフィッシュの素材を取引していただきたいのですが。ええ、勿論お代は――」


「ちょっと!私だって欲しいんだけど!私の方が良いアイテム出せますよ?ほら、これとかこれとか」


「待て待て。ここは俺に――」


 これまでは私と群衆の間に一定の空間ができていたが、先程声を掛けられたことによりそれが消えて私の周りに人がたかり始める。

うわぁ面倒なことになったぞ。


 だけど、こんな状況ながら1つだけ良いことがある。

それは私がギガントジェリーフィッシュの素材を回収していないということだ。

私は優しい笑顔で答える。


「み、皆ごめん!私、実はギガントジェリーフィッシュの死体に触ってないまま死に戻ってきて……相打ちだったの!だからアイテムは手に入ってないんだよね!」


 ふっ。これで私にたかる生産職のプレイヤー共は消えるだろう。そう思っていたのだが。


「えっ?ユニークモンスターは倒した時点で自動的に素材が手に入りますよ?」


 誰かが言う。そこは黙ってろよお前よぉー!そんなニッチな仕様知ってる奴そう居ないんだからさぁ!皆私のセリフで納得して引き下がりかけてたじゃん!

しかし、言われてしまった以上はどうしようもない。インベントリ見たら確かに素材あったし。


 ……どうしよう。

そう思っていた時だ。誰かが叫ぶ。


「そ、そのお方は!わたくしのメイドですわ!」


 あ、あの声は!まさか……!


「オータムフォールお嬢様!?」


「メイドって……どういうことですか!?」


 誰かが声を上げた。

その質問に対し、お嬢様は声を張って答える。


「……私のために!素材を集めてくださる方のことです!」


 私を取り囲んでいたプレイヤー達にどよめきが広がった。


「私は言いましたわ!ギガントジェリーフィッシュの素材が欲しいと!そして、シィさんはその依頼を見事達成しました!」


 ……まさかお嬢様、お前……。

私はなんとかなりそうだったのでその話に乗っかることにした。


「実はそうだったの!ごめんね!」


 私は謝る仕草をする。しかし、その話を信じる奴も居たが信じない賢い奴も居た。

知らないプレイヤーが反論する。


「2人が仲良いからその間で素材を流そうとしてんじゃねぇのかよ!?証拠見せろ!」


 う、鬱陶しい……!

とはいえ、幸運なことに私はお嬢様とメイドになるならないの話が出た辺りでUPの録画機能を使用していたのだ。言質を取る必要があったからな。

という訳で私はその映像を共有モードにして群衆達に見せる。


「これが証拠の映像!日付もあるでしょ!」


 私は叫ぶ。

そして必要な部分のみを流した。


『私のお付きのメイドになって欲しいのですわ』


『メイ……ド?』


 映像を飛ばして。


『しょうがないな。なってやるか、お付きのメイドって奴にさ!』


 私はそれだけ流して映像を切った。

流石にここまで証拠があれば文句を言ってくる奴も居ないでしょ。

いや、実際求められてたのはビッグジェリーフィッシュの素材だけど。まあそこに勘付く賢いプレイヤーは居ないだろう。


「そ、そうだったのか……」


 誰かがそう言った。その納得は周囲へと伝播していく。

そして、自然に私の周りにたかっていたプレイヤー達はどこかへ行ってしまった。


「疑ってすまん。お前達がそんな関係だったなんて」


「いやいや、良いってことよ」


 私は笑顔を浮かべた。夜道には気をつけな。絶対復讐するからさ。

そのまま円満解決かと思われた時だ。


 私の両肩がポンと叩かれた。

なにかな?まだ文句でも?私は振り返る。


「シィ。貴方とオータムフォールさんはどういう関係で?」


「私にも聞かせて欲しいです~」


 ユユキちゃんとリーフスプリングさんだった。

……まさか。ど、どこから聞いてたの?


「メイドになる、って映像の辺りよ。貴方がユニークモンスターを倒した、って通知を見て心配になって来てみたらあれが流れていたのだけれど」


「私もその辺りからですね。知り合いと散歩していたら、不意にさっきの映像が目に入ってきたんですよ」


 それ一番誤解される部分じゃん!

とりあえず、2人の誤解を解こう。オータムフォールお嬢様、状況説明を……。

――居ねぇ!あいつ逃げやがった!嘘だろお前。さっきまで滅茶苦茶かっこよかったのに!


 落ち着け。落ち着いて考えるんだ私。

どうやったらここから生還できる?

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