ツルハシを作ろう!
「めんどい事は終わったし、掘るかぁ!」
あれから2日後。私は炭鉱に来ていた。
ちなみにその間に、リーフスプリングさんの親衛隊関連の問題はほぼほぼ解決した。SNSの投稿を見た親衛隊が案の定私へと突っかかってきて、そこをGMコールして終わりだ。
そうして、迷惑なプレイヤーは減ったのだが。
「あたしに何か手伝えることがあったら言ってくれ。なんてったってあんたは――」
そこまでナツハさんの言葉を思い出して、私は首を振る。
私から見て困るプレイヤーは増えたんだよなあ……。
これもう誤解を解くの無理そうだし。流されるしかないか。
まあ、今それは置いておいて!これから始めるのは楽しい楽しい炭鉱労働だ!現実逃避サイコー!いぇー!
「って訳でおじさんよろしく!」
私は早速入場料を払って炭鉱へと潜った。
――――
[【採掘】のレベルが23になりました]
[〈自動鑑定〉レベル1を習得しました]
[〈危機察知〉のレベルが3になりました]
[〈一気呵成〉のレベルが2になりました]
[シィのレベルが13になりました]
[『石炭』を83個入手しました]
[『鉄鉱石』を67個入手しました]
[『銅鉱石』を34個入手しました]
[『きらめく鉱石』を26個入手しました]
[『きらめく鉱石』を5個入手しました]
[『輝く鉱石』を1個入手しました]
[『不思議な石』を1個入手しました]
[『不思議な石』を1個入手しました]
【『謎の宝石』を1個入手しました】
――――
うーん。前の滅茶苦茶掘ってた時みたく1時間半は掘ってるんだけど。【採掘】スキルのレベルがあんまり上がらなくなってきたなぁ。
これじゃ[炭鉱第四層]に行くのは結構遠くなりそうだ。仮にこのペースで掘り続けられたとしても1週間くらいはかかるぞ。
そう思いつつ炭鉱を出た時だ。私はおじさんから声をかけられた。
「そういえば、お前さんはツルハシを持ってこないのか?」
おじさんは私にとって唯一の癒しだ。忙しそうなので私からは話しかけにいかないが、向こうから話しかけられた時は何があろうと応答するつもりでいる。
にしても。ツルハシを持ってこないのか、か。確かに私ずっと借り物の『石のツルハシ』で掘ってるもんね。そりゃ言われるか。
「ちょっと面倒くさくて……」
「面倒臭がらない方が良いぞ。ぐっと炭鉱労働が楽になる」
「え、でも……」
私は本音を言った。
今の私の目標は[パライオン遺跡]の深部に向かうことだ。そして、その深部の入口はどの深度にあるのか分からない。つまりレベルを上げて“採掘力”を上げる必要が出てくる。
そして、【採掘】スキルを使えばレベルは上がる。逆に言えば、ツルハシの質がどうであれ掘りさえすればレベルは上がるのだ。
なんて述べたところ、炭鉱のおじさんは驚くべき言葉を返してきた。
「……ツルハシの質を上げた方が、採掘力は早く上がるぞ」
「えっそうなんすか?」
「おう」
待って、それ初耳なんだけど。え、何?そうなの?
そう困惑していると、おじさんは自分の持っているツルハシを私へ見せてきた。
「見てみろ。これが俺の使ってる『鉄のツルハシ』なんだが……」
「どれどれ」
私は見てみた。
――――
『鉄のツルハシ』{100%}
アイテム:装備
採掘力+130
極めて一般的なツルハシ。特殊な効果は無いが、掘りやすい。
――――
「えっマジ?」
「おう。マジだ」
どれだけ深い階層を掘れるかの指標である採掘力。それは【採掘】のレベルが1つ上がれば10増える。しかしながら、このただの『鉄のツルハシ』を装備するだけで採掘力は130も上がる。つまり【採掘】スキル13レベル分だ。嘘でしょ?
「いや、嘘も何も普通に常識なんだが……」
そ、そんな馬鹿な。私が……情弱?
この1時間半は一体何のために……?
私は存在意義を失いそうだったのでおじさんにお礼だけ言ってこの場を後にした。
けっ。もうレベル上げなんてしねーよ。ばーかばーか。
私は捨て台詞を吐いた。その捨て台詞は私に刺さった。
――――
「で、私にツルハシを作って欲しいと」
「そうなんです」
私はオータムフォールお嬢様の元へ行って土下座していた。
お嬢様は困ったような顔をしている。
「だ、ダメ……でしょうか」
私は顔だけ曲げてちらっとお嬢様の顔色を伺った。
お嬢様は言う。
「普段なら受けるんですけれど、今色々と依頼が立て込んでいまして」
お嬢様は窓の方を向いて髪先をいじくる。
「……もしかして、バトロワの一件を恨んでおいでで?」
お嬢様は静かに、けれど深く頷いた。
はい、これは完全に私が悪いですね。審議の余地無しです。
というかあの後菓子折り持ってくの忘れてたしな。そりゃ恨まれるわ。
「と、いうのもありますが……そもそも、ツルハシを作るのには結構な時間がかかるんですわ」
「あ、そうなの?」
「ええ。補助スキルを駆使してなるべく早く作ったとしても1時間程はかかりますわ。ツルハシは相当時間がかかる部類の装備なんです」
へー、そうだったのか。というかそんな仕様あったら炭鉱労働プレイヤー減らない?私怨か?運営の私怨なのか?
ま、確かにそれなら無理だよね。オータムフォールお嬢様って、生産職のプレイヤーの中では最強レベルらしいし。そんな依頼が沢山舞い込んでくる環境に、そんだけ時間のかかるものを今から作ってくれなんて虫がいいにも程がある。
「分かった、じゃあ普通に予約するね。どうやったら良いの?」
「予約が空くのは2週間後くらいですけれど」
「えっ」
そ、そうなんだ。
……お嬢様、物凄い人気プレイヤーなんだな。そこまでだとは思わなかったぞ。
「まあ、私のログインする時間が少ないというのもあるので……それだけ有名、という訳では無いですわよ」
そう謙遜するお嬢様をよそに、私は手早く帰り支度を済ませる。
「突然押しかけてごめんね。じゃあ、私他の作ってくれそうな生産職のプレイヤー探してみる」
そういう訳で、これから生産職プレイヤーを口説くゲームが始まるものだと思っていた。のだけれど。
帰ろうとしたその時、お嬢様が口を開く。
「……あの、1つだけ条件がありますわ」
「えっ?」
「条件です。それを呑んでいただけるのなら、シィさんの依頼は最優先で受けるつもりです」
えっマジ?そんな上手い話ある?
私は飛びついた。
「どんな条件!?教えて!」
私はオータムフォールお嬢様の肩をゆする。
お嬢様は真剣な目つきで答えた。
「お付きのメイドになって欲しいのですわ」
「メイ……ド?」
「ええ。要するに、素材の調達をお願いしたいんです。私のみでは、手に入れるのが難しい素材がありますから。モンスターの素材とかモンスターの素材とか……」
「あぁ……」
お嬢様はブツブツと文句を呟く。そういやお嬢様って戦闘全然できなかったな。
うーん。だけど。
私の中に1つ疑問が浮かぶ。
別にそれ私に頼むことじゃなくない?お嬢様くらいの人望があったら、普通に他のプレイヤーに頼めば取ってきて貰えそうだしさ。それにこのゲーム他のプレイヤーとアイテム取引できるじゃん。それで買ったら良いんじゃ?
「いえ、私あまりフレンドが居ないんですわ。ギルドにも所属していませんし、急に欲しい!となった時に助けてくれる人がほとんど居ないんです。それに、アイテム売買では不確実性があるので」
お嬢様はその疑問に答えてくれた。
あそっか。そういやお嬢様って結構ボッチだったわ。
しょうがないな。私がなってやるか、お付きのメイドって奴にさ!
「……本当ですか?」
お嬢様の目線が私を射抜く。
純粋な目だ。おそらく、私が何か不都合があれば速攻で契約を放棄するなんて思いもしていないんだろう。
「ああ、本当さ。私が嘘を付いたことなんてあったかい?」
私は答えた。
「いや結構あった気がしますけど……まあ、シィさんはなんだかんだ優しい方ですし」
お嬢様から手が差し出される。
私はそれを即座に握ってぶんぶん振った。
「よろしく」
「ええ、よろしくお願いしますわ。それで、最初の依頼なんですけれど」
――私がこの契約を後悔するまで、後1時間半。




