おいしい話に飛びついたらいけないよ!
「わあっ、シィさんだ!お久しぶりです~!」
そして次の日。
私が指定した集合場所に行くと、そこにはリーフスプリングさんが居た。
あ、本人来るんだこれ。
「春。ちゃんと位置情報は切ったね?」
「勿論です!」
目の前でリーフスプリングさんとナツハさんがきゃっきゃっとする。
君らそんなに仲良いんすね。意外だなと少し思ったが、よく考えればナツハさんのプレイスタイル的にそうなるか。リーフスプリングさんって人気者らしいし。
「それで、説明だけど。春、あんたにはそこのシィってプレイヤーと仲良くUPを遊ぶふりをしてもらう。筋書きはあたしらが決めてきたから、それに従って欲しいんだけど」
ナツハさんはリーフスプリングさんにそう告げる。すると次の瞬間、リーフスプリングさんは顔を真っ赤にした。
「ふ、えぇ!?し、シィさんとですか!?」
「そうさ。ダメかい?」
「い、いや……その、ダメって訳じゃないんですけど!わ、わた……私っ!シィさんとだったら、もっと良い装備してこないと!」
えっ何?
なにその普段着で気になる人とばったり会っちゃいました的な反応。私リーフスプリングさんとそんな関わってたか?怖いぞマジで。
「えっ……」
ナツハさんも先程の乙女な反応を見て思わずそう呟いていた。
ほら!ナツハさんも若干引いてんじゃん!というか周り全員引いてるよ!どうしてくれんのこの空気さぁ!
『なぁシィ。リーフスプリングとあんたって、もしかして……そういう?』
『違います違います違います違います』
ナツハさんからメッセージが飛んできたので私は即答し連投した。
これだけは本当に違うんだ。マジで。信じてくれ。私はすがるような視線を送る。
だがその視線は無視された。
「と、とりあえず!早速始めようか!あんたら、準備しな!」
あぁ……ナツハさんが行ってしまわれた……。
完全に誤解されてんじゃん……。
――――
そして、その作業は滞りなく行われることは無かった。主に私のせいで。
「いや、ここはもっとこういう構図の方が良いと思いますね」
「【テイム】するモンスターもこれの方が良いのでは?」
「この文面でこの写真だとやらせってバレると思うんで、また別の写真を撮った方が良いかと」
全部私の言葉だ。パッと聞いた限りでは何もおかしいところは無い。私自身おかしいところの無いように気をつけているから腹心がバレる可能性はゼロだ。
バレない、のは良いんだけど……。
「あんた、結構凝ってるよね……?」
ナツハさんから怪訝な視線を向けられる。
普通の人ならこれで「私の計画がバレてる!?」となると思うが、私はそうは思わない。これはそういう反応じゃない。だが、これはこれでマズイ。
おそらくナツハさんが今思っていることは、私とリーフスプリングさんが他人にバレない逢瀬のために匂わせ計画を利用したのではないか、という疑念だ。
リーフスプリングさんは有名人だ。きっと一挙手一投足が色んな人に伝わるんだろう。
しかし、この計画は秘密裏に進められている。ならば、ここでイチャついたところでバレない。だから、少しでもこの時間を長くしようとしているのではないか。
きっとそう思ってるんだろう。実際は全然違うけどさ!
私は、私達を見つめるナツハさんに対して心の中で首を振る。そうじゃないんだ。誤解だ。
しかし、ナツハさんは最終的に良い笑顔を浮かべて作業へと戻っていってしまった。
ち、畜生……。どうしてこうなっちまったんだ……。
そんな時。リーフスプリングさんが私に話しかけてきた。
「あ、あの、シィさん!助けが欲しいなら別の時でも手伝いますよ?」
なっ……!?
私は思わず聞き返した。どういう意味なんだ、その言葉は……?
「えっ?【テイム】の手伝いですけど……。だって、助けてもらえる時間を伸ばしたくて色々言ってるんじゃないんですか?」
やっべ、バレてら。
とりあえずナツハさんにそれが発覚したら怒られそうなので、私はとりあえず否定した。
すると、リーフスプリングさんは頬を赤らめてこう返してきた。
「じゃ、じゃあやっぱり……私と居たいからですか?」
げぇっ!?
やばい、これどっちに転んでも危険だぞ!どうする、どうれば良いんだ私……!?
落ち着け、メリットとデメリットを考えろ。
と、とりあえず私の内意がバレるのは危険だ。ナツハさんのプレイスタイル的に私の計画が浮き彫りになると付け狙われそうだし。そうだな、であれば嘘でもリーフスプリングさんと一緒に居たいから、って答えた方が良いよな。良い……よな?
いや待て、だがユユキちゃんとの好感度の兼ね合いも考えなくちゃダメだ。それに、そう言ったらこの先の人間関係がこじれる!こ、ここは……!
私は答えた。
「じ、実は……【テイム】の作業を助けて欲しくて。やっぱりほら、【テイム】って面倒じゃん?あ、これナツハさんには秘密ね。怒られそうだし」
私は日和った。しかし、よく考えればこの言葉は最悪の選択だ。
まず弱みを見せてしまっているところだ。もっと秘密にしてくれって伝えるのならそれとなく言うべき。そして、そう言ってしまった場合の相手の反応は大概こうである。
「じゃあ、ナツハさんに秘密にする代わりに……また私と一緒に遊びませんか?」
弱みを握られるのだ。
――――
[シィ]
とある支援職の人に手伝ってもらって、超便利そうなモンスターをテイムしたぜ!
よろしくな『カスミ』!
{カスミと名付けられたモンスターの画像}
#友情 #努力 #勝利
├[ユユキ]
@Ultra_C
私も呼んで欲しかったわ。
├[シィ]
@UUKey
ごめん!!
次やる時は絶対呼ぶから!
└[ユユキ]
@Ultra_C
ところで。その支援職の人って、もしかしてリーフスプリングじゃないでしょうね?
親衛隊の人がそう騒いでいたんですが。
――――
「なんでユユキちゃんまで釣れてんの」
私はSNSを見ながらそう呟いた。
ちなみに、今は匂わせ作戦を終えて打ち上げを行っている最中である。
SNSに投稿する内容はかなり精査した。「俺リーフスプリングとイチャコラやってるぜ」とアピールするだけじゃ余計敵を増やすだけだし。
リーフスプリングさんが丁度このタイミングで位置情報を切っていること等、親衛隊くらいしか知らない情報が無いと真実に辿り着けないようにはしてある。
……じゃあどうしてユユキちゃんが釣れているかと言うと、謎だ。
なんで?
「でも、良かったですね。カスミちゃん?くん?をテイムできて」
「そ、そうっすね」
隣の席のリーフスプリングさんが体を寄せてくる。私はとりあえず頷いた。
カスミとは、当初テイムすることを目的にしていた水のスライムの名前だ。
リーフスプリングさんがその名前を推していたので、私は逆らうことができずその名前にしたのだ。鳳凰とか付けたかったのに。
そう思っていると、突然ナツハさんから声をかけられた。
「シィ、ちょっと外に来て欲しい。……2人だけで話がしたくてさ」
ひっ。私は恐怖した。
これはやばいぞ、私の時間稼ぎ作戦がバレたか?
しかし、もうどうしようもない。私は観念してナツハさんと一緒に外に出た。
さて、一体何を言われるのかとビクビクしている私に叩きつけられた言葉は――。
「実はさ。あたしと春は、このゲームを始める前から友達だった。だからあいつのことはよく知ってる。……それでさ。春の、あんたと話してる時の顔を見てね。その時思ったのさ。あんな楽しそうな、嬉しそうな顔を見せるなんて、って。初めてだったんだ。――だから。リーフスプリングを、よろしく頼むよ」
私は唖然とした。
とりあえず……教訓が、1つ。
上手い話に気軽に飛びついちゃいけないね!




