欲しいもの、爆誕!
「四季さーん。宅急便でーす」
「はーい!」
私は玄関の戸を思いっきり開け、業者の方へお礼を言った後荷物を受取る。
私は扉を閉めた後、爆速で荷物を部屋の中央に置いた。
「遂に来たぞ……VRMMOが!」
私は宅配で届いたVR機器とソフトを交互に見て、二つを思いっきり抱きしめる。
待っていた。この時をずっと待っていた。
配送予定は今日となっていたが、朝から今に至るまでもう体感三日くらい待ってたような気がする。
まあとにかく、私はその期間を待てた!一番最初の出荷日には入手できなかったのは悔やまれるが!一週間後の奴には当たってるからよし!
とにかく。今は叫びたい、この喜びを。
「いやったああああ!」
私は叫ぶ。壁が強く叩かれた。
「あ、すいません……」
へへへ、と笑いながら私は小声で謝る。
私はダンボールをぼろぼろにしながら力ずくで封を開け、セッティングを始めた。
数分後。セッティングを爆速で終わらせた私は震える手でソフトを差し込み、VR機器を頭に付けた。
「来た……来たぞ……!」
今度は壁を叩かれないように小声でテンションを上げながら、私はベッドに寝転がって電源を付ける。
そのまま、私の意識はVRの世界に飛ばされた。
――――
「VRイェーイ!」
「サイコー!」
私はキャラクタークリエイトをぱぱっと終え、知らない人とハイタッチをかました。
UP、凄い!なんせ膝のところにあった「下手に動かすと絶対ヤバいでしょこれ」っていう感じの感覚が消えてるもん!動き放題じゃん!
「あ、友達に呼ばれちゃった!わ、私行ってくる!」
「行ってこい!」
私は背中を軽く叩く。知らない人は人混みの中へ消えていった。
私はこのVRの喜びをまた誰か知らない人と共有しようかと思ったが、流石にこれでもう三人目なのでやめることにした。二人目の時みたく勇気付ける流れになると面倒だし。そろそろMMOっぽいこと、しよう。
とはいえ、ソロで冒険くらいしかやれることが無い。
白雪ちゃんしかUPを手にした人間は居ないんだけど、その白雪ちゃんは悲しいことに今日用事が入っているらしい。
だから、今日私は物凄くソロ!ということになる。
うーん。適当に知らない人とパーティを組んでやっても良いんだけど……。
いや、決めた。今日はとりあえずこのゲームのシステムと地理に慣れることに専念しよう。
本当は滅茶苦茶運動したいんだけど、まずは何があって、何ができるかを知らないとね。もしかしたらモンスター狩りよりも私向きのものがあるかもしれないし。
それに、明日の土曜日には、白雪ちゃんと遊べるからね。後白雪ちゃんは一週間前からこのゲームを始めてるし、基礎的なところで足を引っ張らないようにしないと。
というわけで私はこの最初の街(正式名称忘れた)の地理を把握することにした。
よっしゃ行くぞー!
――――
前言撤回。欲しい物ができました。
それはプレイヤーの出すことのできる露店が並ぶ通りを探索していた時のこと。
露店に、白雪ちゃんに滅茶苦茶似合いそうなアクセサリーを見つけたのだ。折角白雪ちゃんと時間差でゲームを遊ぶのだから、私はその時間を有効活用して白雪ちゃんに何かサプライズがしたくなったのだ。あっと驚かせてみたい。
「……あの、そんなに睨んでどうしまして?わたくしの商品に何か問題がありましたか?」
若干ほつれているけれど豪華そうな服を着た人が、おずおずと私に話しかけてくる。……えっ?私そんな目つき悪かった?
「いや、欲しいなーって」
「あぁ!お客様ですわね!なんとお目が高い、これはわたくしオータムフォール家に代々伝わる家宝で、純白の結晶が持ち主を守ると言われている逸品ですわ!」
若干うっとりとしながらその人は語る。私は感嘆した。
「へぇ!凄い!」
そう言った瞬間、そのプレイヤーはキョトンとする。
「……えっ?」
「えっ?」
いやその反応何?怖いんだけど。
瞬間、私の傍を通った知らない人に耳打ちされる。
「そこの人、『家が没落して遺産と家宝を切り崩して生計を立ててるお嬢様』のなりきりしてるの。だからツッコんであげて」
「なるほど。えっ?」
私は教えてくれた知らない人を二度見した。
何そのロールプレイ。確かによく見たらキャラクターの上に《オータムフォール》とネームタグが浮かんでいる。
プレイヤーだったのか。完全にNPCだと……。
「あ、それで値段は如何程で?」
私は気を取り直してそのお嬢様プレイヤーに尋ねた。あまりの衝撃にツッコミは忘れた。
お嬢様プレイヤーは素知らぬ顔で答える。
「80万ゴールドですが」
「80万!?」
いや80万は無いでしょ。だってまだ発売されて一週間もしてないよ?
このゲームポーション一個500ゴールドだよ?私は混乱した。
「え、それはマジで?」
「大マジですわ。……見た所、初心者の方でしょう?少し説明しますわね」
「お願いします」
このお嬢様によるとこういうことだった。
まず、ユーザー間取引を行う時でもアイテムの質によってある程度価格帯がゲーム側によって決められる。
そして第二に、このアクセサリーを作る際奇跡が重なりに重なって滅茶苦茶良いものができた。
結果、80万ゴールドとかいう途方も無い値段でしか売れなくなった。これでも最低価格らしい。
「が、ガワだけ売ってもらえるとかは……」
「それは完全にリアルのスキルに依存するので無理ですわね……」
「さいですか」
駄目だった。私は諦めることにした。私は手を振ってお嬢様と別れる。
去り際、お嬢様のぼやきが聞こえた。
「うぅ、今回も駄目でしたわ……。買い手が欲しいですわ……今の所最強のアクセサリーだとは思いますけれど、買い手が付かなかったら意味が無いですわ……」
ごめん前言撤回。
買うわ。私、これ。
ゲーム中最強って言う程なら、白雪ちゃんにとっては丁度良いアクセサリーになるだろう。
白雪ちゃんはこのゲームのガチ勢だ。他ならぬ私が言うんだから間違いない。
であれば、白雪ちゃんにプレゼントするものとして最適すぎるものなのではないか?私はそう考えたのだ。
「お嬢様さん!それ、買います!」
「本当でして!?」
お嬢様はガタっと立ち上がった。
「ゴールド貯めた後!」
お嬢様はすっと座った。
「いや待って待って!これ大マジなの!」
私はお嬢様の元へ駆け寄る。
「だからお嬢様さん!お願いします!金策の方法教えて下さい!」
「いやそれわたくしに聞くことですか……?」
色々と入り混じった表情をしていたお嬢様だったが、なんやかんやで金策に良い、と言われている場所へのマップを書いてくれた。ありがたい。
「ありがと~!」
「次来る時は買ってくださいまし~!」
そしてこの人となんか仲良くなった。
――――
「めっちゃ迷った……」
具体的には30分くらい。私そこまで方向音痴じゃないと思ったんだけど、どうも気のせいだったみたいだ。
まあそれはそれとして。
「そもそも……ここで合ってるのかも微妙な……」
鼻腔一杯に広がる、石と土の匂い。目前に広がるは、ぽっかりと穴を開けた地底への入口。そこには線路が何本か敷かれ、時折トロッコが昇っては降りてを繰り返していた。
……はい、どう見ても炭鉱です。え、私折角のVRMMOで炭鉱労働するの?