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匂わせよう!

「なるほどねぇ。それで、どういった反撃を用意してたんだい?」


 ナツハさんが私に質問してくる。結局あの後私が何かをすることはできず、ナツハさん率いるプレイヤー群が親衛隊達を壊滅させた。そしてその後誰にも邪魔されずに【テイム】の練習をして――そして今、何故かナツハさんとやり返すうんぬんの話についてよく分からん場所にあるカフェで話していた。


 こうなるまでの経緯が謎だと思う人も居ると思うが、正直私も謎なんだよね。

どういう理由なのか全く分からないんだけど、【テイム】の練習が終わった辺りにナツハさんから『少し話をしないかい』とメッセージが送られてきたの。


 で、別に断る理由も無かった……というか断ると怖そうだったからその提案に乗ったが最後、あっという間に場がセッティングされたんすよ。そして今に至る。


 疑問は尽きなかったが、とりあえずナツハさんから飛ばされた質問に答えることにした。

反撃の手段についてだ。


「え、リーフスプリングさんと《大海オセア》でイチャコラするのをライブ配信しようかなって思ったんですけど」


 私の考えていたやり返す方法はまんま言った通りだ。ライブ機能を使って《大海オセア》で水のスライムを探すのと同時リーフスプリングさんと(不本意だけど)いちゃつく。


 おそらく、親衛隊みたいな“心の内で誰しもリーフスプリングさんと付き合いたいと思っているが不可侵の条約を仲間内で決めてしまった以上近づけない”人にはかなり効くだろう。

まあ誰でも思いつくようなものだろうけどね。


 そう言うと、ナツハさんは膝を叩いて笑った。


「良いねぇ。その倍返しの精神、あたしは好きだよ」


 わぁい、よく分かんない人から好かれたぞ。これ喜んで良いの?

しかし、そう思っているとナツハさんは急に険しい顔になった。


「だが、それじゃあダメだね。そうすれば確かにダメージは入るだろうが、あんたにも良くない噂は流れる」


「あー」


「親衛隊はどうだか知らないが、春自体は結構なプレイヤーから好かれている。その配信を見た親衛隊以外のプレイヤーがどう思うかだね」


 確かにそれはそうだ。というか完全に頭からすっぽ抜けていたが、ユユキちゃんがリーフスプリングさんと仲悪いんじゃん。いちゃつき配信やったらユユキちゃんからの評価が地に落ちそうだし、ちょっと嫌だな。


 そう思っていると、ナツハさんは「だけど」と言って指を1本立てた。


「1つ奴らだけにダメージを与える方法はある。匂わせって言ってね」


 私は首をかしげた。

匂わせ……?

……あっ!あれか!なんか彼氏の腕とかをちょっと写真に映り込ませて、付き合ってるアピールを密かにする奴!


 な、ナツハさん……いつの人なの?

今の時代そんなのもう無いよ?現実なら何かしらの認証で本人確認されるだけだもん。いや、確かにUPの中でならできるけどさ。


「見たところ、あんたにはインフルエンサーが多く居る。オータムフォールにユユキといった豪華な面子がね。それだけ居るなら、すぐさま親衛隊の奴らにも伝わるだろうよ」


 インフルエンサー……?

なんだっけその単語。なんか昔どっかで聞いた覚えはあるんだけど、どういう意味だったっけ?


 そう心の中で首をかしげる私を無視して、ナツハさんは立ち上がった。


「行くよ、着いてきな」


 そう言って、カフェに座っていたナツハさんとその配下達と思われるプレイヤーらが立ち上がった。

 えっナツハさん達も来るの?



――――



「どうして……皆、私を手伝ってくれるんですか?」


 私はナツハさんに尋ねた。私はナツハさんのことをよく知らないが、最初に親衛隊を襲った時の親衛隊員の「PKギルドが来たぞ!」って反応からして……まあ、あまり良くないプレイヤー達なんだろう。


 ナツハさんは語る。


「親衛隊の奴らは結成された当初からあんな感じの連中でね。春に近づいたプレイヤーに嫌がらせをしてる奴らだった。気弱そうな、GMコールをためらいそうな奴には堂々と、GMコールを普通に使いそうな奴にはこそこそと、って感じにさ」


 クッソ激烈に面倒臭いなそれ。

ナツハさんは続ける。


「当然、代わりにあたしらがGMコールすることもした。だけど、最終的に必要なのは当事者の確認だ。堂々とされている奴らは強く頷けない人間が多い。結局罰が下ったのは数人だ」


 へー。

あ、なんとなく話が分かってきたぞ。

つまり私刑って奴だな。GMコールで対処できないのなら、自分達でやっちまえってことか。


 ナツハさんは頷く。


「ああ。だから、あたしらはPKすることによってプレイヤーを守るって稼業を始めた。PKギルドだ何だって言われてるのは、大概はあたしらと関わってないプレイヤーからの印象だね」


 そういう生い立ちなんすね。私は理解した。


「でも、それなら私に協力する理由って無いんじゃ?」


 私はちょっと疑問に思ったのでそう質問する。PKすることによってプレイヤーを守ることが使命なら、わざわざこの反撃に付き合う必要は無いんじゃないかって思ったからだ。


 すると、ナツハさんは首を横にふる。


「いいや、ある。あたしらの大目標は“迷惑プレイヤーの排除”だ。あんたは骨のあるプレイヤーだ。親衛隊共を一網打尽にできる可能性を秘めてる。だからあたしらはあんたに協力してるって訳さ」


 なるほどなぁ。

若干その大目標が暴走して過剰な自治を始めそうという怖さがあるが、まあなんとなく分かった。おそらくナツハさんはゲームに真剣なんだろう。


 で、どうすんの?私は尋ねた。


「あんたの【テイム】でモンスターを仲間にしたいって目的を利用する形になるが、テイム作業の補助として着いてきた春と共同作業をしている、って感じに匂わせる。【テイム】を使う時、回復魔法で支援してくれるプレイヤーが居ること自体は何もおかしくないから――おそらく親衛隊だけが過剰に反応するだろう」


「なるほど」


 私は頷いた。

……というか、ちょっと待てよ?これ、要するにその間私の【テイム】作業をナツハさん達が助けてくれるってことだよな?


 私はそれとなく質問した。


「でも、ちょっと護衛とかも欲しいかもしれないです。親衛隊が計画が完了するまでの途中で邪魔してくるかもしれないですし」


「ん?あぁ、元よりそのつもりさ。と言うかそもそも、【テイム】作業自体上手いこといくようにあたしらでサポートはするつもりだよ」


 なるほど、やっぱりか。私はほくそ笑む。

これを上手いこと利用すれば……案外さっさと水スライムをゲットできるかもしれない。


 こうなれば、なるべく匂わせ写真を撮る作業を長引かせるしかないな。

おそらく、ナツハさん達が手伝ってくれるのは匂わせをして親衛隊をはっ倒すのに成功するまでだ。


 多分親衛隊を倒し終えれば、もうナツハさん達が手伝ってくれることは無いだろう。


 《大海オセア》に居るとされる水スライムをテイムするには結構な時間がかかると私は見込んでいる。しかし、このサポートの元にいればその想定よりも早く作業は終わるだろう。元々この【テイム】作業自体、炭鉱労働の効率化のために始めたことだし。さっさと終わらせたいのだ。


 つまり、この相当強そうなプレイヤー達が効率的なサポートをしてくれる状況下にいられる期間を長くすることは、そのまま私のメリットに直結する。


 とはいえ、多分それがバレたら怒られるだろう。

となると――私は、その腹心が発覚しないように、しかしなおかつ作業をゆっくり進行させるように動かないといけないって訳か。


 面白くなってきたじゃないか。私の本領、見せてやるぜ!

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