変なのが来た!
「……がよ」
思わず危険な言葉を言いそうになったが、私はすんでのところで留めた。
クッソ、あのおじさん素晴らしいくらいに任務に忠実だわ。何なの。
ゴネまくったが何一つとして通用しなかった。NPCだからかな。
教えてくれなかったおかげで1万ゴールドが吹っ飛んだのはやっぱり万死に値すると思うが、まあそれはもう終わったことだ。きっとプレイヤーは必ず一度はこういう道を通るのだろう。私は運営に意見だけ送ってこの怒りを収めた。
なんて思っていると、ボイスチャットが繋がった。私は軽く謝罪だけして、早速本題に入る。
『忙しいかもしれないところごめんね。なんかこう……スライムみたいな。水っぽいモンスターが出るところ探してるんだけど』
『全然大丈夫よ。それで、普通のよく分からない液体のスライムで良いなら《大草原プライリエ》に居るわ。水っぽい……というか、水のスライムなら《大海オセア》に居る……って情報は聞いたことがあるけど』
私がボイスチャットをかけたのはユユキちゃんだった。まあUPに詳しいしね。
というか今の所フレンドになってる人なんてユユキちゃんとリーフスプリングさんしか居ないんだけどさ。
『分かった、ありがとう!』
私はそれを聞いて、早速始まりの街から駆け出した。
つまるところ、私の計画はこうだ。
最初に、水のスライムとか……こう何かしら水を滴らしてるモンスターを見つける。
次に、そのモンスターを【テイム】スキルで手懐ける。
最後に、炭鉱労働中にそのモンスターを連れて行く。
これで、私がわざわざ水を撒かなくても勝手にモンスターが水を撒いてくれる訳だ。
我ながら完璧だ、完璧すぎる。
『あ、そうそう……ついでに、聞きたいことがあるんだけど』
そう自画自賛していると、ユユキちゃんが心配そうな声色で尋ねてきた。
何だろうか。若干不安になるんだけど。私は聞き返す。
『どうしたの?』
『前のイベントで1位になって、変なプレイヤーに絡まれてないかなって』
あー、なるほどね。そこが心配なのか、やっぱりユユキちゃんは優しい人だ。
『大丈夫大丈夫、今の所そんなことないよ』
まあ私が目立つ所に出てないだけってのもあるかもしれないけど。
けど、これはユユキちゃんを巻き込んで良い問題じゃないし。全てユユキちゃんに頼ってても良くない。自分で解決しないと。
『そう?なら良いけど……困ったらなんでも言ってね』
『オッケー』
それだけ話して、私はボイスチャットを切った。そして次の瞬間。
「も、もしかして、あなたがシィさんですか?シィさんですよね。あの、一つ言いたいことがあるんですけど」
私は変なプレイヤーに絡まれた。しかも何か徒党を組んで私のところに詰め寄ってきている。しかし、そこに居たのは全く知らない人達だったのでとりあえず私はガンを飛ばした。
「今忙しいんで、後にしてもらっても良いっすか」
「い、いいえ。こちらも急いでいるんです。とにかく話を聞きたいんですけど」
けっ。覇気が足りないな。もっと行くならガッツリ殺す勢いで来なきゃあダメだ。
とはいえ、ここで放置したら後々面倒なことになりそうなので、話だけは聞くことにした。
「で、どういう話を聞きたいの?早めだと嬉しいんだけど」
「ぼ、僕たちのギルド――『春様親衛隊』に加盟してください」
「えっ」
私はうろたえた。ちょっとまて、段階いくつかすっ飛ばしてないか。急すぎない?
……いや。春様親衛隊ってあれか。イベントの時にお嬢様がちらっと春の親衛隊がどうのって言ってた奴か。
春ってのは、確かリーフスプリングさんのことを指してる。ってことはそういうことなんだろう。となると……まあ、この後に出てくる文句は分かるな。
「いやちょっと今ギルドに加入する気が無いんで」
とりあえず私は断ってみた。
すると、相手はこう反論してくる。
「あ、あなたは春様とフレンドになっています。それくらいに密に春様と関わる人は、春様親衛隊に加入するのがルールです」
そうだそうだ、と野次が飛んできた。なるほど、リーフスプリングさんってこう……アイドル的な存在なんすね。
「ごめん、でも面倒くさそうだからパスで」
私はパスした。
だってギルドって面倒くさそうじゃん。ログインしないとダメとか貢献しないとダメとかさ。そういうしがらみとは無縁の存在なんで。
という訳で、私は親衛隊を無視してフィールドへ駆け出した。
――――
「……チッ。またあいつらかよ」
「どうします?あいつですけど」
「助けるに決まってる。それがあたしらの流儀だ」
――――
「んじゃ捕まえるかぁ」
私はそう《大草原プライリエ》の大地に立ちながら呟いた。
何故《大海オセア》ではないのか。それはテイムできるモンスターのレベルと関係してくる。
とりあえず、私が【テイム】スキルで捕獲したいモンスターは《大海オセア》に出てくるらしい水のスライムだ。
しかし、調べたところ《大海オセア》のモンスターの平均レベルは20。【テイム】スキルで仲間にできるモンスターは【テイム】のレベルとキャラクターのレベルを足したものを半分にして、そこに10を足したレベル以下らしい。面倒くさっ。
まあそういうことらしく、私のキャラレベルは10。なのでおそらく【テイム】のレベルも10にする必要がある。なので一番モンスターが弱く、レベル上げもしやすそうなプライリエに居るのだ。
それと、普通にレベル上げも兼ねている。《大海オセア》のモンスターはまあまあ強いらしいので、【テイム】するのも一苦労だとどっかのブログに書いてあったからだ。
若干さっきの親衛隊が着いてきてるのがまあまあ怖いが、無視してテイム作業始めるか。
「おーよしよし、可愛いね~」
私は手をパンパンとしながら最弱の雑魚であるホーンラビットの目前に座った。
ホーンラビットは私に着いてきた親衛隊に即座に殺された。
……は?
まあ、これくらいなら狩りが被っただけかもしれんな。
私は別のホーンラビットに目をつけた。
「お~どうどう」
その兎も即座に殺された。
「は?」
私はキレた。
適当にリーダーっぽい奴に私は詰め寄って愚痴を言う。
すると相手はこんな反応をしてきた。
「し、親衛隊に入らない罰です」
うわっ。面倒くさ~。
これあれでしょ?親衛隊に入らなかったら一生続く嫌がらせみたいなさ。
そう思っていると、他の親衛隊達も私を取り囲んできた。
んー、とりあえずGMコールすっかな。そしたらなんとかなるでしょ。
……だけど。私の貴重な時間を浪費させたという罪、BAN程度では収まらない。せめて一矢報いてからGMコールを行いたいな。
そして、その時私はとても良いアイデアを思いついた。おそらく今日の私は冴えている。こいつらに効果的にダメージを与える方法がある。それも、ゲームのマナーに抵触しない方法で。
よっし、早速行動に移すか。
そう思った瞬間、私が突っかかっていたリーダー的存在の腹から刃が生えた。
……えっ?
「やべぇ、PKギルドが来たぞ!」
誰かが叫ぶ。それに合わせて、私の包囲網が解かれた。
なんだなんだ。今日ちょっと急展開多いな。
「フィールドで固まってんじゃないよゴミ共が!モンスターが散っちまう!」
私の目の前に、どっかで見たことのあるプレイヤーが現れた。
「あ、あの時の!」
私は思わず声を上げた。
「バトロワイベントで私達の所に急襲した瞬間に爆弾で私もろとも吹っ飛ばされた人!」
そうだ!あの全く知らない人だ!
一体どうしてここに……まさか、あの時の恨みで私を殺そうと!?
そう思っていると、《ナツハ》という名前のプレイヤーから私宛にメッセージが届いた。
『逃げな』
私は即座に返信した。
『ありがたいですけど、あの……今からやり返そうと思ってたんですが』
その返信を見たのか、目の前の《ナツハ》というネームタグが浮かんでいるプレイヤーは「えっ」と呟いていた。
……いや、普通なら滅茶苦茶ありがたいと思うんだけどさ。
ごめん、私やり返す気まんまんだったの。
「……えっと」
PKギルドの主らしき、ナツハという名前のプレイヤーは若干困惑している。
私も困惑していた。
……どうすんの、この気まずい空気。