なんとか日常に戻ろう!
[バトルロイヤル第一回戦が終了しました]
[結果発表を行います]
私はよく分からんタイミングで爆死というか落下死したので、当然最後まで生き残ることはできていない。なのでシステムメッセージから流れてくる結果発表をガン無視し、お嬢様へのお詫びの品探しに奔走していた。
ランキング5位から生き残ったプレイヤーが発表されていく。
[生存ランキング1位:ツユ]
うーん、全く知らない人だわ。となるとやっぱりあの事故でユユキちゃんとかも全員死んじゃったんだな。マジで申し訳無いわ。
[続いてポイントランキングを発表します]
そう思っていると、露店を開いている知らないプレイヤーから話しかけられた。
「おっ、シィじゃん。どうした?公式の打ち上げには行かなくて良いのかよ」
「えっ打ち上げとかあったの?」
私は思わず聞き返す。チッ、そんなのがあるなら行っときゃ良かった。美味しいご飯とか一杯出てきそうなのに。
だが、どうも私にはまだ運が残っていたらしい。知らない人は言う。
「今から行けばまだ間に合うだろ。行ってこいよ」
「マジ?場所どこ!?」
「えっと、確か……」
[ポイントランキング3位:ナツハ]
ああもう!システムメッセージが鬱陶しい!今大事なとこなの!非表示にさせて!
しかし、そんな状態でもなんとか私は打ち上げの場所を教えてもらうことに成功した。
よっしゃ、後は行くだけだな!そう思っていると、私は知らない人が驚くべき言葉を呟くのを耳にした。
「ま、ポイントランキング1位のプレイヤーが居ないんじゃ盛り上がらねぇだろうしな」
「……は?」
え、どういうこと?ランキング1位?何それ。
私を混乱させるために知らない人がそう言ったのだと私は認識したが、案外そうでも無いらしいことをシステムメッセージが告げる。
[ポイントランキング1位:シィ]
「……はああぁぁ!?」
――――
翌日。結局私は打ち上げには行かなかった。それを聞いた瞬間速攻でログアウトしたのだ。つまり逃げだな。ごめんお嬢様、お詫びの品を買えるのは結構後になるかも。
今私が居るのは現実世界。久々にUPにはインせず、その代わりにユユキちゃん――じゃなかった白雪ちゃんとビデオ通話をしていた。爆速で進むバトロワイベントについて語るネット掲示板を見ながら。
『もうUPに行けないぃ……』
私は机に倒れ込む。
なんだよポイントランキングって。参加する前に説明してくれよ。というかどうして私が1位になったんだよ……。
そう嘆いていると、白雪ちゃんがツッコんでくる。
『でも、貴方もバトロワイベント……というより生存ランキングで1位になろうとしていたでしょ?それなら結局目立っていたと思うのだけれど』
『それとこれとは話が別……』
そういう訳では無いのだ。そもそも、私が生存ランキング1位を目指そうとしていた理由は生産職のため、ひいてはお嬢様のためだ。つまり、1位になったとしてもその注目は生産職のプレイヤー達に分散される。有象無象の1人がたまたま1位になっちゃいましたである程度済まされるからだ。
しかし、実際の私はポイントランキング1位である。しかも、ゲーム中最強と噂される四人のプレイヤー全員を倒しての1位だ。それをこれまで全く無名のプレイヤーがやってのけたのだから、そりゃもう注目されるだろう。
『どうしたらいいのこれ』
私は白雪ちゃんに全てを任せた。
『……まあ、いつもどおり炭鉱で働いていれば良いんじゃないかしら?少なくとも、それに文句を言うプレイヤーは居ないでしょうし』
『分かったぁ……』
私は辛くなってきたので嘘泣きをした。隣の人に壁を叩かれた。
――――
■シィのスキル
【採掘】レベル20:
├〈疲労軽減〉5
├〈採掘範囲増加〉3
├〈マルチプル〉2
├〈危機察知〉1
├〈一気呵成〉1
└〈至福の時間〉1
――――
って訳でね。私は今炭鉱に居ます。
まさかVRMMOでフード被ってこそこそするとは思わなかったよ。
もうね、炭鉱で暮らしたい。そう思うようにもなってきたわ。
まあ、その辺は無事炭鉱に着けたから置いとくとして。
今の私の【採掘】のレベルは丁度20。つまり、[炭鉱第三層]までは掘れるという訳だ。
バトロワイベントの話が入ってきたために若干忘れていたが、私の一応の目標は〔パライオン遺跡〕の深部を発見することだ。
ということで暫定〔パライオン遺跡〕の場所を第三層まで掘ってみたが、どうもまだ下層へと続いているらしかった。しかし、私の勘はそろそろ入口もしくはそれに準ずる何かしらの場所へと辿り着けそうだと告げている。
とはいえ[炭鉱第四層]を掘ることは今の所できないので、とりあえず【採掘】のレベル上げに勤しむことにした。
そうして掘り始めてから10分。
「〈危機察知〉のメーターえらいことになってんだけど」
第二層以降からは死の危険が生まれる。そしてそれを証明するかのように、〈危機察知〉スキルによって表示されるメーターは赤のゾーンへと突入していた。早くない?
全く、一体どこに死の危険があるのか。そう思っていると、〈危機察知〉のメーターが何やら赤のゾーンにある太めのラインを越えた。これは死ぬか?私はそう思って手を止め、死に備えた。
……なぁんだ、死なないじゃん。
ビビるだけ損した。さ、掘ろ。
そうして私はツルハシを構え、壁へと叩きつけた。その瞬間、火花が散る。それは瞬く間に炎となり、辺りの空気へと広がって――私は爆死した。
……は?
――――
[【採掘】のレベルが21になりました]
[『石炭』を18個入手しました]
[『鉄鉱石』を6個入手しました]
[『きらめく鉱石』を5個入手しました]
[『きらめく鉱石』を4個入手しました]
[『不思議な石』を1個入手しました]
※ロスト分減算済み
――――
「おじさん!何アレ!?」
私は炭鉱の入口へとリスポーンしてすぐさまNPCのおじさんへと詰め寄った。
何さっきの。手榴弾か何か投げ込まれたの?
「シィか。となると……さっきの爆発か?」
「うん!それ!」
私はおじさんに詰め寄った。なんで説明してくれなかったんだよ。というかUP説明してくれないこと多すぎでしょ。マジで何なの。
炭鉱のおじさんは両手をあげる。
「まあまあ、落ち着け。とりあえず、あっちの広場に移動するぞ。そっちの方が話しやすいだろうからな」
私は渋々従った。まあこの人くらいしかさっきの現象について知らなさそうだし。
炭鉱近くの広場にあった切り株におじさんは座る。私も適当な場所に座った。
「おそらく、お前さんが出会った現象は“炭塵爆発”だ」
「炭塵爆発?粉塵爆発じゃなくて?」
炭塵爆発。聞き慣れない言葉だ。粉塵爆発ならよく聞くんだけどね。
粉が一杯空気中にある時に何かしらの理由で火が点いて爆発するっていう。
「まあ、似たようなものだな。粉塵爆発の粉が炭に代わったみてぇなもんだ」
なるほどなぁ。まあそういうことなら、さっきの現象もまあまあ説明が付く。
おじさんは続けた。
「お前さんが沢山掘った結果、石炭の小さい粉――所謂“炭塵”が空気中に多量に舞った。そしてそこにツルハシの火花やら何かしらの原因で火が点けば、ドカンだ」
あー、そういうことだったのね。というかそれ相当ヤバイってか危険だな。炭鉱労働怖っ。
「で、補助スキルの〈危機察知〉は基本的に炭塵がどれくらい空気中にあるかを教えてくれるもんだ。メーターあるだろ?あれが赤になると相当舞ってる状態だな」
「あ、そういうスキルなんだ」
そうだったのか。おじさんは「他の危険も教えてくれるがな」と言っていたが、なるほど普通はそう使うんだそうで。
え、でもさ。私の中に疑問が浮かんだ。
「それメーターが危険値になってきたらどうしたら良いの?諦めて死ぬしかなくない?」
そうじゃん。だからといって何の解決にもなってないじゃん。しかし、そうでもないらしい。おじさんは答える。
「いや、そういう訳でもない。そのメーターを抑える方法として、例えば散水とかがあるな」
散水。そういうのもあるのか。
「まあ、赤い域に突入したら水をある程度撒けばメーターは自然に下がっていく。だから炭鉱に潜る時は水を持ち込むのがセオリーだな」
へー。
……で、どうしてそれを教えてくれなかったの?私はキレた。
「いや、一回死んでからじゃないと覚えないだろ……というかこっちはお前さんの【採掘】のレベルがどれくらいかも分からないんだぞ」
確かにそうかも。私はクールダウンした。
「というか、ちょっと面倒だよね。〈危機察知〉をずっと気にして水も持ち込まなきゃいけないんでしょ?」
「まあ、それはそうだな。だがそれが炭鉱の普通だ」
「そっかぁ」
じゃあどうしようもないのかな。
……いや、待てよ?私の頭に電撃が走る。その辺を気にしなくても良いようにできる方法があるんじゃないか?
いや、ある。そうだ、あれを使えば――!
「おじさん!ちょっと行ってくる!」
私は立ち上がり、駆け出そうとする。だが、その前におじさんに肩を掴まれた。
「ああ、その前に指定の鉱石を掘ってこなかったこととレンタルアイテムを失ったこと、合わせて罰金1万ゴールドな」
は?
私はキレた。