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イベントが終わった!

「ご、ご無沙汰っす」


 私は不審者にそう言った。不審者はユユキちゃんだった。


「……あ、シィ!会いたかったわ!」


 完全に見敵必殺ムードだったユユキちゃんは、私を見るやすぐにその雰囲気を解いて抱きついてきた。

ちょタンマ。苦しい苦しい。


 私がギブアップの意向を示してすぐにユユキちゃんは離れる。

そしてまた見敵必殺ムードに変わった。

……えっ?


「で、誰がシィを誑かしたの?シィをこんな目立つ場所に連れてきて。……私としては、そこの偽善者が一番怪しいと思うんだけど」


 ユユキちゃんはリーフスプリングさんに刀を向けた。

リーフスプリングさんも答える。


「偽善者だなんて、酷いです。私は、ただ皆を助けたいと思ってるだけですよ?」


「違うわね。貴方の辻ヒールは本当に善意からやっているものじゃない。その知名度を利用したいという魂胆が透けて見えるわ」


「それを言うならユユキさんもですよね?あなたはトッププレイヤーという地位を悪用しています。沢山ありますよね?情報の口止め、ゲーム内取引を利用しないアイテムの売買、他にも――」


「それらはプレイヤーとしての正当な権利の内に入るわ。非難されるようなことじゃない」


「そうですかね?私にはそうとは思えないです」


 そのまま言葉の応酬が始まった。

待って。ストップ。私を置いていくな。何があったんだよ。


 そんな中、お嬢様が私に縋り付いてきた。

こっそりとお嬢様は私に囁く。


「あの2人、滅茶苦茶仲が悪いんですわ……なんとかしてください」


 お嬢様は泣きそうだった。まあ確かに割を食って地面に叩き込まれる可能性あるもんな。

というかそんな人間関係あったのかよ。ユユキちゃんかリーフスプリングさん、早めに教えてくれよそれ。

……しゃーない、私が一肌脱ぎますか。


 このまあまあ狭い場所で魔法の詠唱を始めたリーフスプリングさんとスキルの構えを取ったユユキちゃんの間に私は割って入る。


「おーどうどう。お願いがあるんだけど……ちょっと今日は仲良くして欲しいんだよね。今日だけで良いの。ね、ダメかな?だって、私はユユキちゃんともリーフスプリングさんとも組んでる。ってことは、実質ユユキちゃんとリーフスプリングさんとの間で組んでるようなものでしょ?だからちょっと落ち着いて欲しいんだけど」


「シィは黙ってて」


「シィさんは黙っててください」


 あ、はい。すいません。


 私はがっくりと肩を落としながらお嬢様の元へと戻った。


「ちょ、これ止めないと絶対ヤバイ奴ですわよ!?頼みの綱はシィさんだけなんですけど……!」


「確かに止めなかったらここ吹っ飛ぶよね」


 幸いこれまでに登ろうとしてくる結構なプレイヤーを撃退したことから、この建物を攻略しようとする人は少ない。つまり今目前で発生している内ゲバをなんとかすることに集中できる訳だ。

いやバトロワイベントで死因が内ゲバとか嫌すぎるでしょ。


 しかし、どう止めればいいものか。さっきの文句結構会心の出来だったんだが。

あれで意に介さずって感じにされたらどうしようも無いでしょ。


 そう悩んでいると、お嬢様から「もしかしたらこれで止められるかもしれませんわ」とお嬢様が考えたらしい内ゲバを納めるための言葉を教えられた。

いや、お嬢様それマジで言ってる?そんなんで止められると思うのかよ。というかナルシストみたいで嫌なんだけど。


「仲間割れで死ぬよかマシですわ!」


 それもそうか。まあ、試すだけタダだし。言ってくるね。

私はまた間に入った。


「……そんなに怒らないで欲しい。怒ってる2人、あんまり好きじゃないし。このままずっとそうだったら……私、2人のこと嫌いになるよ?」


 いや夫婦喧嘩を止めようとする子供のセリフじゃんこれ。

そう心の内でツッコんでいると、2人は肩をすくめた。


「……ええ、そうね。やめておきましょう」


「不本意ですけど。シィさんに悪いですし」


 そのまま喧嘩は止んだ。マジかよ。嘘でしょ?

え、2人共何なの?

疑問は尽きないが、とりあえず仲間割れは防げたのでよし。いや良いのか?


「シィさんに免じて、とりあえずこのイベント中は協力しましょう」


「同じく。シィに感謝しておきなさい」


 2人はそれだけ言って持ち場に付いた。……凄いな。いつまた喧嘩が始まってもおかしくないぞこれ。

酷い爆弾だ。まさかこうなるとは……。私はそう思いながらも【変性術】で武器を落下させる作業に就いた。



――――



「ちょっ、何かヤバ気な人来ましたわよ!?」


 そんなお嬢様の声を受け、私達はお嬢様の確認している方向へと向かう。

そこには確かに、この建物を爆速でクライミングしてくるユユキちゃんみたいな不審者が居た。


 私は先制攻撃を加えようとパクってきた最後の1個の爆弾を構える。早速それを投げようとするが。


「リーフスプリング!」


「はいはい!」


 その前にユユキちゃんがリーフスプリングさんに指示を飛ばす。すぐさまリーフスプリングさんが魔法を詠唱し、不審者が避けられないような大きさの魔法を飛ばした。

だが。


「斬られた!?」


 お嬢様が叫ぶ。

またかよ。というかそんなことできるプレイヤーユユキちゃん以外にも居たのかよ。


「なら私が!」


 今度はユユキちゃんが前に出る。いやちょっと待って、爆弾投げさせて。だがその声は届かない。


 ユユキちゃんが何かよく分からないスキルを使って刀身をバラバラに分解した。それは無数の新たな小さい刀になって落下していく。

えっ何そのスキル。めっちゃかっこいいじゃん。私もやりたい。


「シィ!あなたも何か攻撃を!」


「あっうん!」


 ぼけっとかっこいい謎のスキルを眺めていた私は、ユユキちゃんの指示で我に返る。

正直あれは避けられない気がしたが、まあ一応私も何かやっとくか。そういう訳で私はユユキちゃんのスキルのエフェクトで見えないながらも爆弾を構えた。


 ……んん?

そんな時、私は妙な錯覚を覚えた。どうも、エフェクトが少しぶれている感じがするのだ。そこに擬態しているカメレオンが居るみたいな感じで。


 私はその“微かなぶれ”を注視する。それは、どんどんと私達へ近くなってきた。

うわぁすっごい嫌な予感するわ。そしてそのぶれはユユキちゃんの近くまでゆっくり移動してくると――。


「危ない!」


 ぶれの中に、短剣が一瞬見えた。

私はユユキちゃんと“ぶれ”の間に入る。案の定、その“ぶれ”は不審者がスキルか何かでそう変身していたらしく。


「へぇ、あれを見破るとは……あんた結構やるね」


 今度こそ全く知らない人の言葉が響く。

私のHPゲージが爆速で消えた。危なかった、このよく分からん攻撃を食らっていたらあのユユキちゃんでもおそらく死んでいただろう。多分魔法を斬れるってことはかなり実力のあるプレイヤーだろうし。


「シィ!?」


「シィさん!?」


「嘘……」


 3人が、悲痛な声を上げた。


「ふふ……ごめんね、皆。私はここでお別れみたい……」


 そういやUPで死ぬのは初めてか。死ぬとどうなるんだろうね。私は全身の力を抜く。何かが手元から落ちる音がした。


「じゃあね……」


 そして私は……。


 ……。


 …………あれ?


「ん?なんであんた生きてんだ?」


 知らない人がそう呟く。

いやそれは私の方が聞きたい。

どうしてだ?滅茶苦茶運が良かったとか?そう考えている時、私の頭に電気が走った。


「あ!お嬢様のくれたアクセサリー!」


 私は叫ぶ。そうだ。お嬢様のくれた最高傑作。今その効果を見返している時間はないが、確か「HP1で1回耐える」みたいな効果があった気がする!


 というかちょっと待て!私さっき力抜いた時ヤバイもん落とさなかったか!?


「……あの、シィさん。それは……?」


 お嬢様が震える手で、私が落としたものを指差す。


「爆弾っす……」


 いや、うん。

ごめんて。


 ええいこうなりゃ死なばもろともだ!知らない人も一緒に死んでもらうぞ畜生が!

私は知らない人に抱きつく。


「ちょっ!?おいっ、離せこらっ!」


「うるせー!元はと言えばお前のせいじゃん!」


 その間、リーフスプリングさんは何やら補助魔法を唱えていた。うーん、多分落下ダメージには効かないかな。

ユユキちゃんはこの建物から降りようと試みていた。うーん、多分ちょっと遅かったかも。

お嬢様は祈るポーズで固まっていた。うん、ホントごめん。後で何かお詫びの品持ってくわ。


 そして、そんな私達をあざ笑うかのように落とした爆弾は爆発する。

私達は吹っ飛び、そのまま死んだ。

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