イベント真っ只中!
お嬢様が滅茶苦茶に怯えていたので、私はどうしてリーフスプリングさんと一緒に戦うことになったのかの顛末を説明した。
すると、お嬢様はこうツッコんでくる。
「いやあの、このリーフスプリングさん……通称“春”さんは、それはもう凄い人気プレイヤーでして。そもそもこのバトルロイヤルイベントで春さんが誰とも組まずに残ってること自体おかしいのですけれど……」
「あー、辻ヒーラーだから?」
辻ヒーラー。フィールドとかでHPが少なくなって困っている見ず知らずのプレイヤーを回復してあげているヒーラーのことだ。それに専念しているプレイヤーとなればそれはもう人気が出るだろう。
更にお嬢様は続ける。
「それに、春さんには親衛隊と呼ばれる取り巻きが多数居ますし。まずその人達と組むものだと思っていましたわ」
親衛隊とか居るんだ。ってことはリーフスプリングさんって物凄い人気プレイヤーなんだろうな。ますますどうして私と組んだのか分からなくなってきたぞ。んん?
そう考えていると、リーフスプリングさんは驚きの言葉を口にした。
「あ、私……実は、元々シィさんと組みたかったんです」
「えぇ!?」
「へ?」
私達は混乱した。
どういうことだ?何故この超有名らしいプレイヤーが見ず知らずのプレイヤーの私と?
そうパニクっている私を見て、リーフスプリングさんは悲しげな表情を浮かべる。
「え、もしかして……覚えてくれてないんですか?」
うん。それはもう全くよ。
とは流石に言えないので、私は記憶を探る。こんな人私のUP生活に居たっけか?
「そんな……オンラインゲームが初めてで、人と遊ぶのが怖かった私を“そういう人は辻ヒーラーとかおすすめだよ”って勇気付けてくれたのはシィさんだったじゃないですか」
……あ!思い出した!
そうだ。私が初めてインした時だ。その時知らない人と色々話してたけど……確か、リーフスプリングとかいう名前のプレイヤーと話していた気がしなくもない!
「それに、そこからもよく話してましたよね?シィさんが鉱山から帰ってきた時とか、〔パライオン〕遺跡から帰ってきた時とかも」
知らない人と話をすることはよくやってるから完全に記憶無くしてたけど、ってことはもしかしてそれの半分くらいリーフスプリングさんだったの?マジで?
というかちょっと待て。鉱山から帰ってきた時はまだしも、どうして〔パライオン遺跡〕に行ったこと知ってんだよ。
「あっ……と、とにかく!私――シィさんと一緒に戦ってみたかったんです」
いやその反応何?怖いよ。裏切りの線は薄くなってきたけど、今度は別の怖さが出てきたよ?
「というか……親衛隊の人達とは組まなくても大丈夫なんですか?」
そう怖がっている私をよそに、お嬢様が質問を飛ばす。
確かに、それはちょっと気になる。主に私が後で恐喝されないかとかが。
「え?あー、まああの人達は大丈夫ですよ。ちょっとうざ……いえ、なんでもないです」
怖。私近寄りたくないぞこの人に。
見ればお嬢様も目をぱちくりとさせて硬直していた。そんな気まずい空気を打破しようと、リーフスプリングさんはこほんと咳払いを一つする。
「と、とりあえず!よろしくお願いしますね?」
リーフスプリングさんは手を差し出してきた。
私は正直非常に不安だったが、貴重な戦力であることは確かだったのでとりあえず仲良くすることに決めた。
「あ、うん……よろしく」
「はい!」
そういう訳で、リーフスプリングさんが仲間になったのだった。
――――
「この辺が今のマップの中心くらいかな」
このバトルロイヤルでは、戦うことのできるマップがどんどんと縮小していく。勿論それは物理的なものではなく、「今戦える場所」から外れると継続してダメージを受ける形だけど。
まあそういう訳で、マップのある一点にずっと居座ることはできない。しかし、その居座る時間を伸ばすことはできる。そのために私達はマップの中心を目指していたのだ。
当然ここまで来るのに結構戦闘があったが、大体リーフスプリングさんがなんとかしてくれた。さまさまである。
「シィさん、一体何を?」
「まあ見てて」
私は適当な空き地に向けてインベントリから取り出した石を投げる。
それは地面に当たって砕けると同時に、仰々しいエフェクトを撒き散らす。そのままエフェクトは周囲の地面へと吸い込まれていった。
そして次の瞬間、辺りの地面から建物が生えてきた。ゴゴゴと音を立て、2階建てのプレハブのような建造物があちこちに出来上がる。
「おおー」
リーフスプリングさんが拍手する。
なるほど、『生成石』はこういう感じのアイテムなのか。一回使ってみたかったんだよね。
私は密かにパクってきていた爆弾を投げてみる。ほとんど建物に傷は付かなかった。……うん、これならいけそうだな。
「よし、登るよ」
「はい?」
お嬢様が何言ってんだお前みたいな反応をしてきたが、私は正気だ。
早速屋上へ登ろうとしたところを、お嬢様からバッシングされる。
「いやあの……これ、登っても目立つくらいでメリットが……」
「『生成石』なら後3つあるけど」
「……えっ?」
お嬢様が青ざめる。私と仲間になった以上は地獄の底まで付いてきてもらうぞ。私は笑顔を浮かべた。
『生成石』1個でできる建物の高さは大体6mほど。つまり後3つ使えば大体25mくらいにはなる。ビルで言えば8階建てと同じくらいの高さになる。
また、『生成石』は使用した周囲に建物を生やすアイテムだ。そしてそれを破壊した場所の真下からは必ず1つ建物が生える。
つまり、連続で『生成石』を使うことで滅茶苦茶高い建物を建造できるという訳だ。
「高いですわ!怖いですわー!」
「わぁ、綺麗ですね……!」
ということで私は残る『生成石』を全て使って高い建造物を創り上げた。
これだけの高さがあれば地の利で圧倒的優位に立てる。
建物自体を破壊される恐れもそこまでない。さっき爆弾投げて全然傷付かなかったし。
「早速火に入る夏の虫が来たね」
下の方で、プレイヤーがこの建物群へと近づいてきたのが見える。突然現れたこれが何なのか、それを確かめようとしているんだろう。だが、上にも注意するべきだったな。
私は【変性術】を使って空中に剣を創り出す。それは真っ直ぐプレイヤーへと落下し、速度の暴力でプレイヤーを叩き斬った。
「よっし!」
私はガッツポーズを取った。完璧だ。変にマップが縮小しない限り、ここに居座っていれば無敵だ。
「ちょっ、本気で怖いんですけど!どうしてこう戦おうとお思いで!?」
どうも高所が苦手らしいお嬢様が私を非難してくるが、私は無視した。リーフスプリングさんはめっちゃ楽しそうにしてるし、私もめっちゃ楽しい。つまり2対1で私達の勝ちだ。
「という訳で、登ってくる人らの迎撃に全力出すこと!」
そういうことになった。
――――
それから、私達は結構なプレイヤーをボコボコにした。
やはり高さは強さらしく、私達の居る場所へ登ることもままならず死んでいく。
建物を破壊しようとする輩も居たが、大体はリーフスプリングさんの魔法によって吹き飛ばされていた。当然ちょくちょく攻撃が建物に当たっていたが、建物自体まあまあ硬いのでなんとも無かった。
完全に勝ちを確信した私だったが、どうも意外と無敵では無かったっぽい。
明らかに別格のプレイヤーが、この建物を登ろうと試みているのだ。
「そんなっ……魔法を斬った!?」
リーフスプリングさんが驚きの声を上げる。
この建物をクライミングしてくる不審者に放った魔法が斬られたらしいのだ。そんなのVRMMOで出来るのかよ。
「ちいっ……!」
私は【変性術】をフル活用して剣や斧、槍を降らす。
しかし相手は魔法を斬ってくる奴だ。それらは簡単に相手の刀によって弾かれ、あえなく登頂を許してしまう。
屋上へ登りきった不審者は髪をさらりとかきあげ、私達に刀を向けた。
……。
…………あっ。