イベントが始まった!
[本日19:00よりバトルロワイヤル第一回戦が行われます]
そんなアナウンスが流れてくる。現在時刻は18時、私はお嬢様と作戦の確認をするために露店街へと赴いていた。
「うわっめっちゃプレイヤー居るじゃん」
私は思わず呟く。普段ですらまあまあ人が居るのに、今日に限ってはろくに身動きが取れないほどのプレイヤー達が固まっていた。
おそらく、この人達もお嬢様と協力してバトロワイベントでトップを取ろうとしているのだろう。
そう思っていると、ここより少し高くなっている場所へ1人のプレイヤーが登った。
そのプレイヤーは集っている人達に向かって大声で告げる。
「ここへ集まってくれた皆、ありがとう。……とはいえ、伝えることはこの1つだけだ。――絶対に、このイベントを通して我々生産職の重要性を示してやろう!」
うおおおおお、と皆が盛り上がる。えっ何?というかあの壇上の人誰?
そう混乱している私をよそに、話はどんどんと進んでいく。
「そして、ここで1つ良いニュースがある!なんとオータムフォール様を含む多数の生産職トッププレイヤー達から装備を提供していただけることになった!」
更に場が沸く。そして壇上へと何人かのプレイヤーが新たに上がってきた。あ、お嬢様居るじゃん。てかめっちゃ居心地悪そうにしてるけど大丈夫あれ?
そして私はここで1つの勘違いに気づいた。どうもこの生産職立場向上プロジェクトはお嬢様が立案してプレイヤーを率いているものだと思っていたのだけれど、そうでもないらしい。知らない人が立案して、その中にお嬢様が組み込まれているだけみたいだ。
……若干やる気が削がれてきたぞ。お嬢様の提案だからやる気になったんだけど、知らん人がリーダーとなるとなぁ。
ま良いや、じゃあ5日間掘ったのは何なんだよって話になっちゃうし。頑張るかぁ。
そう考えている間に、トップ生産職直々に装備を手渡される時間になっていたらしい。さっきまで壇上に立っていた強そうなプレイヤーが有象無象達に装備を配っていく。
それをぼけーっと眺めていた私も、遂に声をかけられてしまった。お嬢様からだった。
「はい、シィさん。あなたにはこれですわ」
お嬢様からちょっとしたアクセサリーが渡される。パッと見十字キーみたく見えたが、よく見ればそれは意趣を凝らしたものであると分かった。角がなく、流線美が素晴らしい。
「ありがと。センスは良いよね」
「“は”が余計ですわ。全く……」
お嬢様はやれやれと首を振る。
私は適当に謝ると、お嬢様に発破をかけた。
「ま、頑張ってね。私もなるべく頑張るけど」
「ありがとうございますわ。あ、それと――それ、最高傑作ですから」
数打ちの中ではですけれどね、それだけ言ってお嬢様は他のプレイヤーの元へと去っていく。
……えっ?そうなの?
私は、ただ手渡されたアクセサリーを見つめていた。
――――
『東西南北の首飾り』
タイプ:装備(首)
製作者:オータムフォール
・パッシブ効果:
持ち主のHPが0以下になるダメージを受けた時、一度だけHP1で耐える。
(クールダウン:5時間)
――――
イベントには参加登録さえしておけば勝手に時間が来たらマップへ転送されるらしいので、私はかなり盛り上がっていた露店街からは離れて適当な広場に居た。
「で、勝てそう?」
「うーん、自信無いかもです」
「自信は大事だよ、自信が無いと何もできないから」
「そうですよね……」
そして知らないプレイヤーと雑談していた。
当然ユユキちゃんとも作戦の確認をしようと思ったのだけれど、メールを送ったら『流れで』と三文字の返信が返ってきたので諦めた過去がある。
そうこうしている内に、時間が来たらしい。
私は知らない人と手を振って別れ、システムのなすがままになった。
エリアが移り変わっていく感覚がする。
そして、気がつくとこれまで居た街とは違う目前に大自然の溢れる砂浜に立っていた。
さて。ランダム転送って言われてたし、まずはどうやって合流するかだな……そう思っていると。
「あれっ?」
聞き慣れていた誰かの声がした。
お嬢様や、ユユキちゃんの声ではない。であれば誰だ?そう思って声のする方を見る。
そこには、さっきまで雑談していた知らないプレイヤーが居た。
……えっ?
「わぁ!奇遇ですね~!」
困惑する私をよそに、そのプレイヤーは私へすりついてくる。
待って待って。どういうこと?もしかしてバグ……は無いよな。流石に。
「き、奇遇っすね……」
私はとりあえずそのプレイヤーを引き離した。
どういうことか、考える。そして一つの可能性に思い当たった。
――もしかして、めちゃくちゃ運が良かっただけ?
ランダム転送ってことは、当然隣り合って転送される可能性はある。
……そういうことなの?
私は《リーフスプリング》と名前欄に書かれたプレイヤーを見る。
リーフスプリングさんは、困惑する私をよそにこう言い放った。
「あの!良ければ……一緒に戦いませんか?」
……へっ?
――――
■シィのステータス
キャラレベル:10
スキル1:
【変性術】レベル5
├〈剣変性〉1
├〈斧変性〉1
├〈槍変性〉1
├〈ラッキーチェンジ〉1
├〈ウルトラチェンジ〉1
└〈エアリアル〉1
スキル2:
【風魔法】レベル3
├〈エアインパクト〉3
├〈ウィンドカッター〉1
├〈ウィンドスタンプ〉1
├《なし》
├《なし》
└《なし》
――――
どうしてこうなった。
私は心の中で頭を抱えながらリーフスプリングさんと最初の砂浜から離れた磯辺を歩いていた。
まずこのリーフスプリングさんがどういう理由で私と一緒に戦いたいって言ったのかが分からない。その意味不明さに呆然となって承諾しちゃった私も私なんだけどさぁ。
いや、どう考えてもこれ仲間と思わせといて後ろからバッサリいかれる奴じゃん。ただでさえバトロワなんだから周囲を警戒しなくちゃいけないのに、不安材料を増やしてどうするんだよ。
とはいえ、やってしまった以上もう遅い。こうなってしまえば、どちらが先に相手を殺すかだ。
幸い、先制攻撃向きなスキルは持っている。けどそれをするのは最低限相手の力量を見極めてからにしたい。そう考えてマップをほっつき回っていると、今度こそよく知ったプレイヤーの叫び声が聞こえた。
「お嬢様……!」
私はそう呟いて、リーフスプリングさんの手を掴んで無理矢理駆け出した。
きゃあっ、と驚く声が聞こえるが関係無い。私と仲間になってしまった以上は地獄の底まで付いてきてもらう。
視界を塞いでいた大きな岩を避けて回り込むと、そこには数人のプレイヤーから追われるお嬢様の姿があった。
「リーフスプリングさん!あの人を助けるよ!」
「えっあっ、はい!」
どういう訳か、リーフスプリングさんは文句を言わなかった。とはいえ、今はそのことについて考えている余裕は無い。私は〈ウィンドスタンプ〉の詠唱を始めた。
後ろから放たれる遠距離攻撃をある意味見事に躱しながら、お嬢様は私達の姿を発見したのかこちらへ進路を変える。あの人避けるのは妙にうまいよね、何なん?
「〈ウィンドスタンプ〉!」
私は【風魔法】の指定した場所の周囲にノックバックを発生させる魔法を唱えた。当然指定する場所は私の真後ろだ。
ノックバックを利用してお嬢様を追う敵陣へと突っ込みながら、私は〈槍変性〉を使って鉄の槍を創り出し一人を串刺しにする。
そのまま少し上の空間に〈斧変性〉で斧を創って、それが相手を叩き割ることを期待しつつ私は更に〈ウィンドスタンプ〉で相手と距離を取った。
当然、ただやられるだけの相手では無い。相手もこちらに狙いを変える。
瞬間、私の目の前を超巨大な火球が通過した。残る相手プレイヤーは丸焦げになり、どうもその一撃だけで命を落としたようだ。
……えっ?
本日何度目かの困惑をする私へ、リーフスプリングさんが駆け寄ってくる。
「シィさん。それと……オータムフォールさん、ですよね。大丈夫ですか?」
いや大丈夫じゃないでしょ。あんな強い魔法を使うやつが居るんだからさ、それどころじゃ――そう言いかけて、私は止まった。
お嬢様が、私に声をかけてきたのだ。
「し、シィさん。どど、どうしてあの方を?あの人、最強の辻ヒーラーですわよ!?」
……えっ?もしかしてさっきの魔法って、リーフスプリングさんがやったの?
リーフスプリングは私達二人の視線を浴びながら、てへっと笑顔を浮かべていた。