イベントに参加しよう!
私を取り合って何人かが争う……私の夢じゃん!争いそうなのどっちも女だけど!
いや、というか。次のイベントって何?
私は目の前のユユキちゃんに質問した。
「なにそれ?」
「あ、知らない?……まあ、最近発表されたものだものね。まあ端的に言ってしまえば、バトルロワイヤルよ」
「なるほど完全に理解した」
あー、そういう奴。分かる分かる。最近流行ってるよね。正直私はそこまで好きじゃないんだけども。
イベントの概要は完全に掴んだけれど、概要が私の予想通りとしたら色々疑問が生まれる。
私はユユキちゃんに尋ねる。
「2つくらい聞きたいことがあるんだけど、良い?」
「ええ。何でも聞いて」
「ん。まずさ、そのバトロワイベントって組んでも良いの?」
とりあえずそこだ。バトルロワイヤルといえば誰もが敵、味方は自分のみが鉄則。事前に組む組まないの話なんてしても良いのか、そこが気になったのだ。
ユユキちゃんの回答はこうだった。
「それについては許可されているわ。……まあ、おそらく禁止する術が無かったから仕方なく、というのが本当のところでしょうね」
「え、じゃあ皆で組んで数の暴力で戦えば勝てるんじゃないの?」
私は突っ込んだ。それが許されるならなるべく多くの人と組んでたプレイヤーが勝つじゃん。しかし、そうでも無いらしかった。
「いえ、それはあまり考えられないわ。バトルロワイヤルの広い会場に、全員バラバラで転送されるの。組んでいようと組んでなかろうとね」
「なるほど、ランダム転送だから合流しにくいって訳ね。だから組むメリットをそこまで受けにくいと」
つまり、公式側ではバトルロワイヤルの時にパーティ機能が提供されていないということらしかった。
事前に組んだところで一緒に転送される訳でもなく、協力すると誓ったプレイヤーをバトロワのマップから探し出さなければいけなくなる訳だ。
いやでもさー、それでもやっぱり組んでた方が圧倒的に有利じゃない?……あ、そっか。ユユキちゃんは一騎当千できるからか。相手が組んでようが組んでなかろうがそこまで関係無いもんね。そりゃそういう意見になるわ。
まああれだな。友人が多いほど有利になる。つまり人生みたいなもんか。
「それで、どう?ちょっとした口約束くらいにしかならないって思ってるかもしれない。それでも、私と組むメリットは大きいと思うけど」
ユユキちゃんがドヤ顔でそう告げてくる。実際、ユユキちゃんは相当強いプレイヤーだ。パライオンに遊びに行った後で調べたら出てきたし。UPのガチ勢って。
まあ、私と組んでくれるのは単に友達だからだろうね。ユユキちゃん基本的に一匹狼らしいし。
私は答えた。
「私、ユユキちゃんと組みたい!」
私は、寄生する気まんまんだった。
……あ、そういやオータムフォールお嬢様からも組まないかって誘われてたな。
まいっか。お嬢様とも組も。まあマップ広いって言ってたし、ユユキちゃんとお嬢様、両方と遭遇するなんてこと無いでしょ。
――――
ユユキちゃんは忙しそうだったのでお礼を言って別れ、私は露店街へと戻った。
「お嬢様~!」
「ひっ!?……って、シィさんですか。脅かさないで欲しいですわ」
やっほ、と言って私はひょこっと顔を出した。
全く、軽いスキンシップでここまでビビられるとはね。
「早速本題なんだけど、組もっか」
私は話を早急に展開した。
「えっ?あ、はい。分かりましたわ」
という訳で、私はお嬢様とも組むことになった。
そして私は気になったこともあったのでそれも聞いてみた。
「ところで、どうしてお嬢様は私と組みたいの?」
なぜ私と組みたいのかだ。ユユキちゃんとはリア友補正が掛かってるからだと納得できるが、お嬢様とはちょっとよく分からない。ユユキちゃんの言っていたお嬢様情報が正しければ、もっと強いプレイヤーとも組めるだろう。どうして私となんだ?
「それもうちょっと先に聞くべきことでは?まあ良いですけれど……」
お嬢様に正論を吐かれた。
確かにその通りだ。というかそれすら聞かずに組むこと提案するのって、完全に寄生目的って分かるじゃん。しまった。
そう一人後悔する私を置いてお嬢様は語る。
「UPでは、生産職が微妙な扱いですわ。無くてもゲームは遊べる、そう考えたプレイヤーが多かった。NPCの商店もありますし、そう考えるのはおかしく無いとも思いますけれど。だからこそ、かなりの生産職が不当な扱いを受けているんです。ですけれど、もし私――いえ、生産職のプレイヤー達みんなが力を結集してこのイベントで勝利すれば。生産職は重要だと、そう待遇が変わるかもしれません。だからこそ、生産職のプレイヤー達と力を合わせて立ち向かいたいんですわ」
「はー」
どうもお嬢様はこのゲームに真剣らしい。つまるところ生産職のプレイヤー達で組み、大勢で数の暴力で殴り勝つというのがお嬢様の戦略なんだろう。
私はその有象無象の一人って訳になるな。
……え、というかさ。私生産職のプレイヤーって見られてたの?
普通に戦闘職の使うスキルでも遊んでるけど……あー、でもそっか。お嬢様から見れば私生産職みたいなことしかしてないもんね。
ま、良いか。
お嬢様には色々と良くしてもらってるし。ちょっとくらい協力しないとね。
「なるほどね。分かった、一緒に闘おう」
「ええ」
私達は拳を合わせた。
「じゃあ今日夜遅くなってきたし落ちるね。ばいばい」
「えっあっ、はい」
現実世界での時間は結構な夜だったので、私は落ちることにした。
ユユキちゃん情報ではイベント開始まで1週間あるらしいし。イベントに急ピッチで取り掛かる必要も無い訳だ。
「嵐みたいな人ですわね……」
そんなお嬢様の呟きをしっかり聞きながら、私は落ちた。
――――
という訳で次の日。やることが終わってから、私はUPにインした。
向かう先は炭鉱だ。
なんせ私には【変性術】を扱うための鉱石が必要だからね。
昨日、ユユキちゃんは言っていた。
【変性術】は不意を突ける、フィニッシャー的スキルだと。コストが見合っていないためにメインで使っているプレイヤーのほとんど居ないスキルだと。
つまりだ。コストを度外視してメインで使ったのなら、【変性術】は対策のたの字も立てられない最強のスキルになるんじゃないか?私はそう考えたのだ。
うーん、我ながら完璧な考え。惚れ惚れするね。
という訳で私は炭鉱に潜っている。まあ第一層なんだけど。
[炭鉱第二層]に行っても良いっちゃ良いんだけどね。前も言ったけど、第二層からは珍しいアイテムが出る確率が上がる代わりに、炭鉱内で事故を起こして死ぬ危険性が生まれるらしくて。
で、炭鉱労働中に死ぬと手に入れたアイテムを半分ロストする。
今、私は珍しいアイテムよりも鉱石の量の方を重視している。ならわざわざアイテム半分ロストの危険を冒す必要も無いんじゃないかと思ってね。
という訳で、バトロワイベントが終わるまでは[炭鉱第一層]でのびのび採掘をするつもりだ。
まー、この身体にもかなり慣れてきたし。休憩しながらやれば、1日1時間半くらいは採掘できるかな。よっしゃぼちぼち頑張るかぁ。
私はツルハシを構えた。
掘るぞー!
■シィのステータス
キャラレベル6
スキル1:
【採掘】レベル10
├〈疲労軽減〉3
├〈梁強化〉2
├〈採掘範囲増加〉1
├〈マルチプル〉1
├《なし》
└《なし》
スキル2:
《なし》