第二話 聞こえない音
無事に証明書の手続きを終えた直人は、一人で玄関へと向かった。靴ひもを少しきつく締め、外へ出ると、気持ちのいい海風へとさらされた。
直人の通う見晴らし台第一高等学校は、開校してから間もないということもあり、毎年大勢の受験生から人気である。また高台に面しており、そこからは海が見えるというのも、人気であるポイントの一つだ。
かくいう直人も受験をした理由は、そこだった。
「しかしまぁ、坂が急だよなぁここ」
高台に面しているのだから当たり前だ。自転車通学の部活動生徒たちが一生懸命自転車をこいでいる。
坂を下り始めて十分程経ったころ、直人は後ろから近づいてくる何人かの気配を感じていた。いや、正確には「何台」なのだろうが……。動いている体を止めた瞬間、
ビュンビュン!!
と、数台の自転車が直人を追い越していった。ただの自転車ではない。ロードバイクだ。
「ったくもう…気分悪くさせんなよ…」
なんて独り言を直人が呟くと、後ろの方でブレーキのかかる音がした。それと同時に男の声も後ろの方から聞こえてきた。
「お前、海崎直人か?!」
直人は一瞬ビクッとして、その人を見た。Bianchiのロードにまたがった男は「見晴らし台第一高等学校」と大きな文字で書かれたジャージを着ていた。おそらくこの学校の生徒であった。面倒事になるのを避けた直人は
「いえ、違います」
と答えた。
「そうか。悪かったな」
と、言い彼は、クリートをペダルにガチャっとはめ、一キロ先からでも聞こえそうなぐらいの大きなラチェットの音と共に、その場を去った。
でも直人にその音は聞こえなかった。




