第一話 骨折
五月上旬のある日。世間は連休中なのにも関わらず、海崎直人は学校へと向かった。ちなみに直人は部活になど一切入っていない。
手にかけたドアがゴロゴロと重たい音を立てて動く。
「失礼しまーす。1-Aの海崎でーす」
と言いながら入ったのは職員室だった。すると奥に座っていた女性が、こちらへと手招きをする。
いつの時代、どこの学校も職員室というものには何か特別なものを感じる。一歩踏み出すのもなかなか勇気がいる。
「はじめまして、海崎君。私はあなたのクラスの担任の相馬美雪といいます」
「はじめまして」
その言葉に直人はなんの違和感も感じなかった。
それもそのはず、直人は高校に来るのが今日が初めてなのだ。
「あの、これ」
と言って直人の差し出した手には一枚の紙が握られていた。その紙にはこう書かれてある。
ーー入院手続き証明書ーー
「はい。確かに受けとりました」
そう言いながら担任の美雪は紙に印鑑を押し、こちらに渡す。
「もう変なことして骨折なんかしちゃダメよ?」
「はい…すみません」
美雪は怒ったような口調だったが、顔は穏やかに笑っていた。直人はその笑顔に少しばかり圧を感じていた。