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あの光の向こうに。  作者: あお
5/8

孤独

翌日、いつものように雪は駅のベンチに向かった。いつものギターに、いつもの音楽、いつもの街に少し違いがあったのは、オーディエンスにあの 3 人組がいたことだった。路上ライブの後なのか、これから行うのか、彼らはそれぞれの楽器を持っていた。朝陽は気づいているのだろうか。いつもと変わりなく始まったライブだったが、いつもの歌に少し戸惑いが感じられる。朝陽も気づいているようだった。彼らは、朝陽が歌い終えて帰る支度を始めるまで、ずっとそこにいた。もしかしたら、雪が気づいていないだけで彼らはいつもいたのかもしれない。オーディエンスがいなくなっても、彼らはまだそこにいた。彼らはゆっくりと朝陽に近づくと、声をかけた。



「僕たちと一緒に音楽をやらないかい。」



朝陽の表情が固まったまま、動かなかった。朝陽の返事も聞かずに彼らは各々の楽器を出し始めた。そして、朝陽が状況を掴めずおろおろしている間に、セットは整った。朝陽を中心にした円形だ。

「何しているの、始めるよ。」

朝陽は無理やり楽器を握らされた。

「じゃあ、始めて。」

ギターを抱えた男の子がにこりと笑う。何が何だかわからないまま、朝陽は弾き慣れたあの歌を歌い始めた。歌い始めたのは、確かにいつもの歌だった。歌だけで始まり、やがてギターも加わる。いつもはそれで終わりのはずだった。しかし、彼らは朝陽に合わせて演奏を始めた。

まずはカホンから。

そして、

ベース

ギター

少しずつ重なっていく音は、静かに、力強く朝陽を包んでいった。いつも歌っている曲のはずなのに、まるで違う、初めて出会った曲のようだった。ほしい音が、必要なタイミングで隙間を埋めていく。混ざり合ったそれぞれの音は調和し、心地よく雪の耳に届いた。

最初から思っていたけれど、彼らはなんて楽しそうに演奏するのだろう。彼らの笑顔は、音楽の一部であった。いつの間にかいなくなっていたオーディエンスも増え、みんなが自由に体を揺らしていた。先ほどよりもはるかに人数が多い。彼らの笑顔が、音楽が人々の心の隅々まで満たしていった。


このままいつまでも歌っていたい

演奏していたい

この時間が終わらなければいいのに


孤独で歌っていた朝陽に光が差した瞬間だった。さびれた駅前の一角が、まるで世界の中心にあるような錯覚に陥った。楽しそうに体を揺らすオーディエンスの表情を見るだけで、生きる意味を見つけたような、自分が生きていることを実感できるような高揚感を覚えた。

「僕らと一緒にバンド組もう。また来るから、考えておいてね。」

曲が終わっても興奮が冷めず、いつまでもギターを抱えたままでいる朝陽にそう告げると、3 人はさっさと片づけをし、帰っていった。遠くから見ていた雪は、ひとり残された朝陽に駆け寄った。

「朝陽。」

「見てた?」

「うん。」

「僕、どんなだった?」

「今までで一番、」

「うん。」

「生きてるって感じだった。」

朝陽は雪のことなど見ていなかった。なにもない宙を見ていた。いや、そこにありありと浮かぶ希望や夢が、雪にははっきりと見えた気がした。




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